化物
「カハッ」
クソッ。
「死んだ?」「殺した?」「やめて」「倒れた」「助けて」「あはは」「死ね」「まだまだまだまだ」「殺して」「動け」「お前」「いやだ」「ああぁぁあああ」「死なないで」「早く」「殺せ」
ああもう、身体が動かないな。
やっべえ。
「殺して」「死ね」「千切れた」「逃げて」「痛いよ」「私は」「血」「まだまだまだまだまだまだ」「死にたくない」「あははは」「殺せ」「早く」「助けて」「ああああああ」
うるさい。
「殺して」
「助けて」
クソッ。
◇
時は遡る。
◇
「ひっ……」
「………」
ソレは、異形の怪物。
誰だ、こんな、おぞましいモノを作ったのは。
「……化け物……」
「助けて」「痛いよ」「やめて」「殺せ」「死にたくない」「ああぁぁあああ」「まだまだまだまだ」「なんで」「お前が」「コロして」「私は」「ああああああああああああ」「ひどい」「ママあ」「死ね」「いやだ」「まだまだ」「全部」「痛い」「ぎゃぁあ」
人間を、合成したのか。
「……《見切り》」
名称:№‰∧合✕⊕€
Lv:‡2¿
―――詳細不明。
「……はあ」
その内包する魔力は膨大。
そしてその存在感は、Aランクの魔物とは比べ物にならない。
「Sランク、か」
まだ、厳しいんだけど。
「リンベル、逃げてください」
「……ぇ、ぁ」
ガタガタ震えちゃってまあ、子ヤギですか?
「私がここで足止めしときますので、そのうちに外へ」
「え、だ、ダメだよっ!」
「貴方がここにいると足手まといです。早く行ってください」
死亡フラグぅ。
「そんなことっ――――」
「あります。邪魔です。本気出せないです……後で、必ず追いつきますから」
死亡フラグその2ぃ。
「……ホントに?」
「ええ、約束します。終わったら一緒にお茶でも行きましょうか」
死亡フラグその3ぅ。
「「「「「ああああああああああああ」」」」」
「ですのでっ、早くっ!」
伸びてきた腕を魔法で撃墜。近付かせないよ。
「〜〜〜っ!」
「ここは任せて先に行ってくださいっ!」
死亡フラグその4ぅ。
死亡フラグを乱立すれば逆に死なない説を提唱したい。
「早くっ!!」
護らせろ、馬鹿。
「……絶対だからねっ!?」
「分かってますよ」
ここで死ぬ気はないよ。
「っ、ユウカちゃんっ!すぐ追ってきてよっ!」
「ええ、また後でお会いしましょう」
走り去るリンベルを見て少し安心。
これで巻き込まれて死ぬ、なんてことはない。
「さて―――」
「痛い」「腕が」「無くなった」「ひどい」「死ね」「あああぁぁあああ」「殺して」「腕え」「殺せ」「お前」「痛いよ」「まだまだ」「助けて」「減った」「当たれ」「あはははは」「逃げた」「一人だけ」「死ね死ね」「逃げて」「私が」「死ねよ」「まだまだまだ」
さっきから腕をずっと迎撃してるんだけど、一向に減らない。こっちの魔力はガンガン削れてるんだがなあ。
キリがないな。
魔法を中断、魔力を温存。
「《魔闘術》」
全身に魔力を行き渡らせる。迎撃は自分で、かな。
「―――やろうか」
「「「「「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」」」」
君は、どうやったら死ぬのかな?
◇
変だとは思ってた。
今まで、《見切り》で見えなかった魔物はいなかったから。
山の森で一回、洞窟の入口で一回。
見えなかった。異常だった。
そこで、引き返すべきだったかな。
「当たらない」「速い」「死ね」「逃げて」「まだまだまだまだまだ」「すごい」「殺せ」「痛いよ」「腕が」「当たれ」「助けて」「逃げるな」「ああああぁぁぁ」「死ね死ね死ね」「強い」
伸びてくる脚と腕を右拳で弾き飛ばす。
両足に魔力の刃を作って切り飛ばす。
「ふっ!」
無限に思える数をかいくぐって、手足の包囲から逃れる。数多すぎだろ。根本を叩くしかないか。
並列思考で7つほど魔法を展開。本体へ照準。撃ちます。
「「「「ああああぁぁぁああああああああああああ」」」」
「……速いよ、君ら」
なんか避けられた。あのデカイ図体のくせに素早いとか。それなんて無理ゲー。
「おっと、と」
すぐに反撃してきた腕を躱す。
「お、わ、と、ちょ、ま」
腕多すぎだろ!
「クソッ」
左腕がないとバランスが取りにくい。動きづらいっ。
「おうっと」
右腕を軸にアクロバティック回避。からの両足の刃を伸ばしてプロペラ、腕達を切断。ブレイクダンスかな?
「あっぶねえ」
「速い」「小賢しい」「死ね」「逃げて」「死なないで」「殺して」「当たらない」「殺せ」「助けて」「まだまだまだまだまだまだ」「すばしっこい」「当たれ」「向こうへ」「俺は」「お前が」
うるさいなあ、黙れよ。
「あ、これも使ってみよ」
ポケットにしまっていた魔導銃を取り出す。
魔力を籠めて、はいどーん!
チュン!
「ぎゃぁぁああ」「死んだ」「殺した」「助けて」「一人だけ?」「ああああぁぁ」「弱い」「一人だけ」「雑魚」「殺して」「もっと」「威力ない」「まだまだ」「私が」「逃げて」「殺さないで」「痛い痛い」「死ね」「しょぼい」
「………」
……なんか貶された気がする。
「もういい、次だ」
俺の周囲に魔力の剣を生成、その数は10。全部操る。
「突っ込む」
踏み込み。風魔法で加速。
視野を広く持て。感覚を研ぎ澄ませろ。
迎撃してくる腕は魔力剣で切り飛ばし、視界外の攻撃は直感で出来るだけ避ける。
走れ。
背後に剣を配置、迎撃させる。
走れ。
「ぐっ」
脇腹を腕が掠る。肉が削ぎ落とされた。ノコギリみたいな表面してやがるっ、趣味悪いなっ。
「だがっ!」
辿り着いた。射程範囲だっ。
「はぁぁぁああっ!!」
「「「「「「「ああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」」」」」」」
魔力全開、右拳へ集める。魔法も展開、全力だ。
「死ねっ」
思いっきり、本体を殴る。
メギャッ
「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」
「しっ」
足も使って連続攻撃。魔法も発射。削れろ。
「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」
「ぐふっ」
突然生えてきた触手に壁まで吹っ飛ばされる。クソッ、いいとこまでいったのに。
「「「「ああああああああああああ」」」」「痛い」「死んだ」「いっぱい死んだ」「殺した」「人殺し」「助けて」「ままあ」「死ね」「まだまだまだまだまだまだ」「死にたくない」「殺して」「いやだ」「痛いよ」「殺せ」「本気」「死ねよ」「私が」「本気出す?」「魔法」「腕があ」「魔法撃つ」「本気だ」「早く」「逃げて」「死なないで」「殺せ」「死ね死ね」
あ?本気?
「……なんだ?」
「「「「「「「「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」」」」」」」
瞬間。
莫大な魔力が放出される。
それはまるで、吹き荒れる嵐。
「……ハハッ」
そして、その魔力が。
全て、魔法を構築する。
初級魔法から上級魔法まで、多くの種類と属性。
その数、3000以上。
……ふっざけんなよ。
「クソがっっっ!!!」
魔力を放出。
出来るだけ、出来るだけ相殺できるように。
「俺は……俺はまだっ!!」
――――絶対だからねっ!?――――
「「「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」」
「ああああああああああああ!!!」
視界が、閃光に染まる。
◇
「……ぁっ?」
どうなった?
「……カハッ」
身体が動かない。
目が見えない。
焼けたか、切れたか。
「死んだ?」「殺した?」「やめて」「倒れた」「助けて」「あはは」「死ね」「まだまだまだまだ」「殺して」「動け」「お前」「いやだ」「殺すな」「ああぁぁあああ」「死なないで」「早く」「殺せ」
手足の感覚がない。息がしづらい。
「殺して」「死ね」「千切れた」「逃げて」「痛いよ」「私は」「血」「まだまだまだまだまだまだ」「動いて」「死にたくない」「あははは」「殺せ」「早く」「死なないで」「助けて」「ああああああ」
やばいな……手足千切れたか。血も流しすぎだし……。
詰んだか?
「……グ、アハッ」
悲観するなよ。
全く、俺らしくもない。
敵は殺せよ。
頭を冷やせ、考えろ。ここから巻き返せ。
使ってないことがあるはずだろ。
「………ぁ」
ホントにあった、忘れてた。お恥ずかしい、俺の原点を忘れるなんて。
まだ、これがあるじゃないか。
「……《毒薬作成》っ――――」
まだ、新しい毒が、創れるだろ。
まずは、回復するためのものだ。それがないと話にならん。
魔力は残り少ない。たいした毒は作れない。回復さえ出来ればいいさ。
効果は……これでいいか。
「――――『永劫なる悼み』……『liquid』っ……」
名称:永劫なる悼み
この毒薬が接触した箇所に激痛を与える
この痛みは耐性系スキルで軽減されず、死ぬまで消えることはない
この毒薬が接触した箇所を再生する
消費魔力:400
拷問用かな?
これを全身にかかるように散布する。
パシャッ
「ぅぎっ……」
ぐッ、懐かしいっ、痛みだなぁっ……だがっ……。
「ハハッ……」
目が見えるようになる。
視線を動かして確認すれば、焼け落ちていた手足が再生していく。え、グロいんだけど。
ただまあ。
これでまだ、戦える。
「生えた?」「再生した?」「殺せ」「どうやった」「人殺し」「あぁぁぁああぁぁぁ」「助けて」「お前は」「逃げて」「死ね」「いやだ」「まだ」「動くな」「殺せ」「死ね」「やめて」「殺せ」「死ね死ね」「助けて」「死なないで」「殺せ」
なんか、殺せ票多くね?
「「「ああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」」」
「うおわっ!」
急に攻撃してくんなよっ!
「起き上がった」「殺した」「死んだ?」「生きてる」「良かった」「死ね」「殺せ」「死なないで」「死ね死ね死ね」「逃げて」「逃がすな」「お願い」「助けて」「殺して」
分かってる、さっさところしてやるよ。
「《毒薬作成》――――」
残りの毒は一枠だけ。
考えろ。どうすれば奴を殺せる?どうすれば逃がさずに済む?
奴はどういう構造をしている?ただの小さい個体の集合体?違うはずだ。それならそうと《見切り》でわかる。
ならば、どこかに核があるはず。
あの巨体を繋ぎ止める、核が。
それを、剥き出しにしろ。
「――――『夢幻の蝕手』、『gas』っ!」
名称:夢幻の蝕手
この毒薬が接触した箇所を強力に腐食させる
この毒薬は常温で気化する
この毒薬は体積が、1分ごとに2倍になる
この毒薬は発生から15分後に消滅する、それまで消滅させることはできない
消費魔力:600
これでもう魔力はほとんど残ってない。倦怠感がひどい。
だがこの毒は、最終的にはこの空間全てを覆うほどに増大する有毒ガスだ。こうすれば、お前は逃げられないだろ?
もちろんこの気体の効果は俺にも有効だ。なけなしの魔力で風魔法を使って全身をカバーしているが、いつまで保つかは分からない。
ここからは、我慢比べだ。
俺は逃げ回って、お前が溶けるのを待つ。
お前は自分が溶ける前に、俺を殺す。
「どっちが先に死ぬか、試してみようか」
さあ、第ニラウンドだ。




