迷走
「へえ〜、ここ迷宮だったんだ〜」
「ええ、迷宮だったんです」
ギルドでは聞かされなかったが……。
「迷宮発見は国と冒険者ギルドへの報告が義務……」
「え?」
「リンベル、鍛冶ギルドでここの話を聞いたんですね?」
「え、うん」
「ふーむ」
鍛冶ギルドぐるみで不正かな?
「目的は……資源の独占ですかね」
バカらしい。秘匿にそれほど利益はないだろうに。
「え?なに?どゆこと?」
「冒険者ギルドにはここの迷宮についての情報はありませんでした。全くこれっぽっちも。つまり、ここの迷宮は鍛冶ギルドが情報を秘匿していたということです」
それをして何になるのかという話ではあるけど。
「迷宮の発見には報告義務があります。魔物が溢れる危険性がありますからね。それを怠った場合には相応の罰が下るはずです。まあ多額の罰金と、鍛冶ギルドのマスターのクビは確実でしょうね」
「ほえ〜、厳しいんだねぇ〜」
反応軽いね。街の鍛冶ギルド潰れるよ?
「だって私あの街に来たの最近で思い入れとかはないし、観光するとこも少なかったからねぇ、そろそろ移動しようかなって思ってたの」
「へえ」
最近来たのか。お揃いですね。
いやまあそれは置いといて。
「で、ここが迷宮だとすると、いろいろと辻褄が合います」
「ふ〜ん?」
「まず魔物の種類が多かったこと。これは自然界ではありえませんが、迷宮産の魔物とするなら納得できます」
自然界で虫と鬼と蛇と狼と鳥が一緒に暮らしてるとか、ないでしょ?
「次に魔物のランクが総じて高かったこと。これも自然には起こり得ません、ほぼ確実に一点に収束します。ただ、相当に深い迷宮なら、まあありえます」
普通の環境ならピラミッド型の分布になるだろうね。Aランク3体とかありえない。
「ただ、ここで問題になるのは、既に魔物が迷宮の外に出てしまっているということです」
「危ないね〜」
「軽いですね……」
もっと危機感持とうぜ。
「まあつまり、魔物氾濫が起きてしまっている、ということです」
「すたんぴーと?なにそれ?」
いや知らんのかい。
魔物氾濫とは。
魔物の大量発生現象、または魔物が集結し、一斉に進行する現象を指す。
魔物氾濫が人里へ向かうと大きな被害が出ることから、特に危険視されている現象である。
魔物氾濫には2つの種類がある。
1つ目は自然界で起こる魔物氾濫。
これは大気中の魔力の異常や、生態系の変化によって起こる。また、強大な魔物から逃げるために他の魔物が一斉に移動することで起こることもある。
2つ目は迷宮における魔物氾濫。
迷宮中で魔物が飽和することにより、溢れた魔物が外へ出てしまうことで起きる。この場合、深い迷宮だと強力な魔物が外へ出てしまうことがあるため、危険度は高い。ただし、定期的に迷宮中の魔物を減らしておけば防ぐことができる現象であるため、起こることは少ない。
これを防ぐためにも、迷宮を発見した際にはその報告が義務とされているのである。
「というわけです」
「ほえ〜」
なんで知らないんだよ。
「結構常識だと思うんですけど」
「えへへ、私一年半くらい前まで里に引きこもってたからね〜、世間の常識に疎いんだよねぇ。まあ、それが嫌で里から出てきたんだけどね」
「へえ」
里ねえ。ドワーフの里かな?
「で、幸い、まだ魔物は街には向かっていなかったので被害は出ていないでしょうが、魔物氾濫を起こした責任は重いです」
山の環境ぶち壊してるからね。
「こうなると、鍛冶ギルマスは処刑ですかね……」
「あちゃ〜……」
馬鹿だなあ。
「そういえば、これまで鍛冶ギルドの人達はどうやってここで採掘してたんですか?戦える人とかいるんですか?」
「冒険者に依頼してるって言ってたよ?」
おい。冒険者。お前もか。
「冒険者なら気づくでしょう……」
そいつも迷宮で甘い汁を吸いたかったのか。
「魔物氾濫起こしてちゃ元も子もないでしょうに……」
そいつも処刑かな。
「はあ……いえ、そんな不正はどうでもいいですね。早くここから抜け出しましょう」
「どうでもいいかな……?」
「今の状況では、どうでもいいです」
「……それもそうだね」
俺達迷子だからね。こっちの方が大事だよ。
「さっさと脱出したいんですが……」
「早く行こ〜!」
「どちらに?」
「……気の赴くままにっ」
うーん……。
「ここで考えてても仕方ないですね、行きましょうか」
「うんっ」
いつになったら出れるかなあ……。
◇
またしばらく歩いて。
「あっ!宝箱だっ!」
めちゃデジャヴュ。
「開け―――」
「いや学習しろよ」
おっとつい本音が。
「先に私が確認しますから」
「えぇ〜」
「文句言わないで下さい」
危ないだろうが。
「《見切り》」
宝箱
迷宮に存在する宝箱
通常よりレアなアイテムが出やすい
……ほーん。
「あーリンベルあぶなーい、それ危険ですよー(棒)」
「えっホントっ!?」
ハッ、馬鹿めっ!
「とうっ!」
「あっ!」
宝箱をガチャリとなっ!
「……ん?これは……」
なんという……。
「……《見切り》」
名称:魔導銃(拳銃)
等級:秘宝級
スキル:《魔力発射》
備考:魔力を籠めることで、それを凝縮・発射することができる。魔力を籠めれば籠めるほど威力が上がる。
「………」
「ユウカちゃん騙したねっ!?ひどいひどい!一人だけ……ユウカちゃん?」
「……アハァ」
「えっ何その表情エロす―――」
銃だあ……。
「ああ美しい素晴らしいこの滑らかな表面重厚なフォルム引き金の曲線照門の凹みああ美しい美しいああでも弾倉がなくなってるのは残念だなあいやしかしそれでも銃それ自体の美しさは損なわれていないやはり素晴らしいなぜこんなにも私の琴線をくすぐるのかまさかこちらの世界でも出会えるとは思わなかったああ素晴らしいまたこの感動を味わえるなん」
「ちょ、ユウカちゃんストップストップっ!」
リンベルうるさい。
「なんですかリンベル。今の私を邪魔するなんていい度胸ですね」
「いやだって今緊急事態……」
「……チッ」
「舌打ちした!?今舌打ちしたよね!?」
「うるさいです」
せっかく銃に出会えたというのに……。
解説しよう!(アニメとかでよくある渋いおっさんの声)
実はこのユウカ=ロックエデン、生粋の銃マニアである!
前世では銃を多数所持!拳銃から機関銃、狙撃銃までなんでもござれ!その数は200を超える!もちろん全て本物である!
前世の終わりで唯一の未練はこの銃コレクションにもう会えないことだったと言う程に!銃を愛していた!
しかしここに来て魔導銃という新たな銃との出会い!
衝撃!ユウカ=ロックエデンは今、絶頂を迎えているのである!
「ハァ美しい」
「いや、銃に顔擦り付けてるの怖いんだけど」
「うるさい」
「敬語は!?」
おっといけない。
「これは是非とも使わなければ……刀×銃ってカッコよさそう?リンベルどう思います?」
「急に振ってきたね!?」
うーん、良さげ?
「とりあえず撃ってみたいですね」
魔力を籠める。
的は……あの岩でいいか。
パパパン
岩の中心付近に3つの穴。
「うん、いい感じ。使いやすいです」
「えっなんでそんなに上手なの!?何その早撃ち!?」
〈スキル《銃術Lv1》を獲得しました〉
〈《銃術》のLvが7に上昇しました〉
「へえ」
前世から技能があるとこうなるのか。
「ただ、正直魔法で事足りるんですよねえ……」
遠距離攻撃はなあ……。
まあ、好きな時に使えばいいか。
「さて、進みますか」
「えっスルー!?」
早くしないと置いてくよ?
◇
「なんかもう外出れないんじゃないですかね……」
「そんなこと言わないでぇ……」
延々と同じ洞窟の景色。
なんかもう3時間くらい歩いてる気がするんだけど……。
「この迷宮は一層だけのパターンですね……こういうのはとにかく横に広いんです……」
「え〜も〜疲れたよぉ〜」
「そんなとこで寝転がらないでくださいよ……」
なんでそんなに警戒感無く……。
……そういえば、妙だな。
「魔物が、いない?」
歩いている間に一体も遭遇していない。洞窟の外にはあんなにわらわらいたのに。
なんで?
「前提が違う?」
今回起きた魔物氾濫は迷宮中の魔物が飽和したからだと思ってたけど、だとしたら迷宮中に一体も魔物がいないのはおかしい。
ならなんで、迷宮氾濫は起きた?
「あ〜も〜っ!早く行くよっユウカちゃんっ!」
「ああ、はい……」
原因は?
「まさか、逃げるため?」
自然界の魔物氾濫では、強大な魔物から逃げるために起こることがある。
そんなこと、迷宮でもあるのか?
普通はないだろう。だが、もしなにかイレギュラーがあったとしたら。
「あり得るか?」
もしそうだとしたら、どんな魔物が……。
「あっ!ユウカちゃん!なんか開けたところに出たよ!」
そこは、広い面積と、高い天井を持つ空間。
天井は、薄暗い。
「あ、本当ですね」
「でしょ!ここなら少し休憩でき――――」
ゾクッ
悪寒。
身体が勝手に動く。
あの光景がフラッシュバックする。
大切な人を守れない光景。
「ゃだ」
もう、嫌だ。
あんな思いをするのは。
守れないのは。
なら、守れ。
手を伸ばせ。
たとえ、俺が傷付いても。
守れよ。
「――――よかった、まにあった」
鮮血が舞う。
「げふっ、ごふっ、ちょ、ユウカちゃん、いきなり突き飛ばすなんてなにを……」
痛みはない。スキルのおかげ。
これならいけるかな?
「……ぁ、ユウカちゃん、その、腕は……」
引きちぎられた左腕から血が吹き出す。魔物の皆さんは俺の左腕に何か恨みでもあるのかね。
でもこれは、まずいな。失血死しそう。
「『火種』」
焼いて傷口を塞ぐ。血は止まった。
「な、何やってるのユウカちゃんっ!傷口はそのままじゃないと後でくっつかないんだよ!?」
傷口そのままならくっつくのか。回復魔法すごいな。
でも残念ながら。
「そんな余裕はないようなので」
「助けて」
「痛いよ」
天井から下りてくるソレは。
「やめて」
「殺せ」
多くの顔を持ち。
「死にたくない」「ああぁぁあああ」
「まだまだまだまだ」
多くの腕を持ち。
多くの足を持ち。
「なんで」「お前が」「コロして」「私は」「ああああああああああああ」「ひどい」「ママあ」「死ね」「いやだ」「まだまだ」「全部」「痛い」「ぎゃぁあ」
多くの絶望を、持っていた。
「……《見切り》」
名称:№‰∧合✕⊕€
Lv:‡2¿
―――詳細不明。
「お願い」
「殺して」




