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転生幼女 信長の下克上!   作者: 寛喜堂秀介


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九 上総広常



 上総広常かずさひろつね

 上総国に大勢力を持つ大規模武士団の主。

 房総一円に猛威を振るった反逆者、平忠常たいらのただつねの子孫であり、源義朝の武威を支え続けた男。



「気に入らにゅな」



 遠くに広常の屋敷を見ながら、政子=信長はつぶやいた。

 時おり舌が十分に回らないのは御愛嬌だ。



「なにが気に入らないのです?」


「まず、上総という苗字が気に入らん」


「なぜに」


「なにやら馬鹿にされておる気がするのだ」


「いやなぜですか」


「わしはその昔、上総守を名乗ったことがあってな」


「いや、上総は親王任国しんのうにんごくですから、上総守は皇族しかなれないんですが……」


「あとで知った。即座に上総介に変えたが……えらく恥ずかしかったぞ。おにょれ」



 思いだしたのか、政子は羞恥で頬を染めながら魔王オーラを放射する。

 屋敷で飼われている馬が暴れ出したのか、馬のいななきが聞こえてきた。



「とりあえず上総を名乗る者など、潰さねばならぬ」


「たんに自分の黒歴史を消したいだけでは?」


「黙れい」


「……四月某日、幼女にののしられた。癖になってきた」


「おい雑記帳にそのようなこと書くでない! ……というか本気ではあるまいよな!?」



 と、そんなやりとりをしながら、一行は上総広常に出迎えられることになった。







「よう来られた、御曹司おんぞうし!」



 その男は無数の郎党を従え、馬上で門前にあった。



「おひさしぶりです。広常殿」



 頼朝は挨拶を返す。

 たがいに馬を寄せ、親しく語り合うふたりを見ながら、政子は不敵に笑っている。



 ――凄まじい面魂の男じゃな。



 厳つい。

 金剛力士こんごうりきしの木像に虎髭とらひげを生やしたてれば、こんな顔になるだろうか。

 年のころは五十過ぎ。頭髪は半ば白くなっているものの、赤茶けた肌はなめし皮の艶を保っている。



 ――この塩辛しおから声、勝家そっくりじゃわ。



 かつての部下である、柴田勝家をほうふつとさせる声。

 それが、なんとも政子を楽しい気分にさせる。

 この男、間違いなく戦場往来の古つわものだ。



 ――潰すのは止めて改名で許してやろうか……そうさな、柴田広常とかどうであろうか。



 そんな失礼なことを考えていると、当の広常と視線がかちあった。



「御曹司、この娘は?」


「ああ、紹介いたしましょう……政子殿、こちらへ」


「うむ」



 にい、と笑って、頼朝は政子を呼び寄せた。



「伊豆国の北条時政殿の娘、政子殿です」


「政子である! よろしく世話になるぞ、上総広常! ふはははっ!」



 呼び捨てながら、魔王オーラ全開で笑う政子。

 物理的な圧力さえ伴って放射されたオーラを受け、一瞬、目を見開くと、ややあって広常は豪快に笑いはじめた。



「グハハハハッ! 御曹司! この娘ただ者ではありますまい! 凄まじき面魂に気格オーラよ! 見込まれましたなあ!」


「四月某日、広常に背中をバシバシ叩かれた。絶対に許さない」


「御曹司もちっとは小娘を見習わねばなりませんぞ! こう、お父上のように覇気をぐわっと!」


「無茶言わないでください広常殿……まあ、この娘は監視兼……旅の道連れですよ」



 苦笑交じりに頼朝は笑った。



「さあさあ、御曹司、屋敷へ入って下され! ささやかではあるが宴席を準備しておる! 今宵はゆるりとお楽しみあれ!」


「……ずいぶんと気に入られたのう、小娘」



 信じられないものを見た、というような表情で、藤九郎がささやきかけてくる。



「なに、鬼と修羅で気が合ったのであろうよ」



 当然とばかり、政子は答える。

 答えて、それから政子はにやりと笑い、言った。



「――わしも、あの手の豪傑ばかは嫌いではないさ」




上総広常……上総国に強大な勢力を持つ、坂東独立志向の主。後に粛清される。

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