96話
本話から9章に突入します。
この物語も終わりが近づいてきました!
ここから一気に話が進む予定なので、どうか最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
九章
今日も、綾女は桂家で魔導の訓練をしていた。
文化祭では、歌によって魔導を発動することが出来たし、すでに綾女は魔導をほぼ完璧に制御することが出来るようになっていた。
咲希さんの指導のもと、二、三種類の魔導を練習し、今日の訓練を終える。
今日最後の魔導を解除すると、咲希さんが両手を鳴らした。
「綾女ちゃん、本当に魔導を使うのが上手になったわね~」
「ありがとうございます。でも、まだまだです。咲希さんのようにもっと上手に使いこなせるようにならないといけませんから」
「あらあら、そんなに謙遜しなくてもいいのに。綾女ちゃんは魔導師の素質が十分に備わっているわ。最初は魔導を暴走させてばかりだったのに、短期間でここまで制御できるようになったんだもの」
たしかに、魔導の訓練を始めたばかりの頃は、この部屋で魔導を暴走させてばかりだった。その度に、咲希さんに魔導を解呪してもらっていた。
今では、魔導を暴走させることなんてほとんどない。そう考えると、自分も魔導師として成長したんだと、ちょっとした感慨を覚える。
魔導の訓練も終わったので、二人は訓練の後片付けを始めた。
ある程度、片付けが終わりに差し掛かったとき、仕事で疲れていたのか咲希さんが、机の上に積み上げていた書類や本の束を倒してしまった。
書類や本は音を立てて、床一面に広がる。
「あっ、ごめんね」
「いえ、これぐらいすぐに片づけられそうですし、お手伝いしますよ」
綾女も散らばった書類や本を元に戻すべく、しゃがみ込んだ。
ほとんどが魔導に関する資料だったが、音楽や衣類に関する雑誌も混ざっている。
咲希さんも魔導ばかりじゃないんだ、と思いながら片づけていくと、ふと綾女の手が止まった。
「……あれ?」
目線の先には、一冊のアルバムがあった。
そのアルバムは落ちたはずみで開いてしまったのか、中の写真を見ることができる状態になっていた。
写真の中には、小さい頃の昂輝がいた。五歳から七歳ぐらいだろうか。今とあまり変わらない。
その写真は家族で旅行に行ったときに撮影したもののようだ。背景に山や湖といった大自然が映り込んでいる。
一度、昂輝の部屋でアルバムを見せてもらったことがあったが、そのときには、昂輝が五歳から七歳のころの写真が少なかった。目の前にあるアルバムは、そのとき欠けていた、昂輝が小さい頃の日常生活や旅行先での写真を集めたものであるらしい。
ただ、綾女は目の前の写真に驚きを隠せなかった。
――――写真の中の昂輝は、氷で鶴を作っていた。
その鶴は、熟練した職人が作り上げたように繊細で、今にも動き出しそうだ。
もちろん、写真の季節は真冬なんかではない。昂輝や周りにいる人が半袖を着用しているところを見ると夏のころだろう。
つまり、普通ならあり得ない光景が、この写真に収められていたのだ。
……もしかしなくても、これは魔導?
綾女がそう思うのも無理はない。それほどまでに、その写真は異様だった。
氷系の魔導であれば、この写真のような現象を起こすことができる。自分が使う魔導も、常人からすれば異様なものばかりだ。
しかし、この写真が魔導を撮影しているものとすると、写真の中の昂輝が魔導を使っていることになる。
昂輝は生来的に魔力を持っていないため、魔導を使うことができなかったはずだ。
たしかに、一度綾女が魔導を暴走させた際に、解呪の魔導を使ったことがあるが、あれは昂輝が綾女の魔力を利用して、発動させたものだ。しかし、写真の中での昂輝は、誰の魔力も利用することなく、自分の魔力で魔導を発動しているようにしか見えない。
「……どういうこと?」
綾女は驚きのあまり、目の前の写真から目が離せなかった。
違和感が頭の中を這いずり回り、自分を混乱させにくる。
「綾女ちゃん、そっちは終わった?」
目の前の写真に動揺していると、片付けを終えた咲希さんが声をかけた。
「あっ、もうすぐ終わります」
その声で綾女は思考を元に戻す。
アルバムも閉じて、その他の書類や本といっしょにまとめる。
結局、綾女は今見た写真のことについて、なにも聞くことはできなかった。




