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93話

 八章 第二


 綾女がお見舞いに来てくれてから数日後、俺の風邪も完全に治った。

 そして、今日は土曜日。

 俺は、電車で一時間ほどかかる場所にある動物園に来ていた。その目的は、綾女とのデートだ。


 ゲートの前で佇みながら、時計を確認する。

 時刻は午後一時四十五分。集合時間は午後二時。

 遼曰く、デートで恋人を待たせるというのはご法度だというので、俺は万一にも綾女を待たせることのないよう、集合時間の三十分前に来ていた。

 それから数分後、スマホでネットサーフィンをしていると、横から声をかけられた。


「昂輝」


 聞きたかった恋人の声。

 振り返ると私服姿の綾女がいた。

 上半身は落ち着いた色の冬セーターにコートを組み合わせ、下半身は黒のタイツとカジュアルなショートパンツを合わせている。

 服のそれぞれが、もともとの綾女の可愛さを絶妙に引き立てていた。

 これは決して、恋人としての贔屓目なんかではない。実際に彼女を見た道行く人々のほとんどがその美貌に目を奪われていた。

「その服、綾女によく似合ってる」

 もちろん、口に出して褒めるのも忘れない。

 服装を褒めると、綾女はほんのりと頬を染める。

「あ、ありがと。ところで、もしかして、待たせちゃったかしら?」

 これに対する返答の仕方も遼が教えてくれた。

「ううん、俺も今来たとこ」

 なんでもこうして恋人に気を使わせないようにするべきなのだとか。

 しかし、俺の返事に対して、綾女がクスッと笑った。


「ど、どうかした?」


 何か間違っただろうか……?


「……ウソばっかり」


「えっ?」


「私、実は昂輝よりも早く来ていたの。さっきまで、向こうのベンチで休んでいたわ。昂輝ったら全く私に気が付かないから、面白くなってちょっと様子を見てようと思ったの」


 ……まったく気が付かなかった。


「ふふ、私に気を使わせないように嘘をついてくれたのね。ありがと」


 そう言いながら俺の頭を綾女がポンポンと叩く。

 嘘がバレバレだったことがとても恥ずかしい。


「と、とりあえず、入ろうか」


 照れを隠すように、さっと彼女の手を取り、ゲートへと急ぐ。


「ふふ、そうね」


 手を引かれながら、彼女は嬉しそうに笑っていた。


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