87話
間章
秋祭りが終わった後、七海と友愛は、綾女の家に来ていた。
今日は、女子三人でお泊り会をすることに決めていたのだ。
それぞれお風呂に入り、パジャマに着替えて、綾女の部屋に入る。
七海が、事前に買い込んでいたお菓子を机の上に広げた。
みんな机の周りに腰を下ろし、紙コップに自分の好きな飲み物を注ぐ。
「それでは~、かんぱ~い」
七海が音頭をとった。
「か、かんぱーい……」
「かんぱい♪」
綾女と友愛も、それに伴ってコップを合わせる。
コップを合わせると、綾女は中に入ったジュースを二、三口飲んだ。
部屋を見回す。
こんな風に家に友達を呼んだのは初めてだ。初めてのことに自然と心が躍る。
「楽しかったわね~、お祭り」
七海が机の上にあるチョコスナックに手を伸ばした。
「うん。ななちゃんがリンゴ飴をかじろうとして、歯を痛めていたのが面白かった」
「なっ、あれは仕方ないでしょ~。あのリンゴ飴がびっくりするぐらい硬かったんだから」
「リンゴ飴は、かじるんじゃなくて、舐めるものよ」
「えっ、そうなの? いつもガリガリってやってたから知らなかったわ」
「あはは、ななちゃんの歯、すごく丈夫なんだね」
「友愛、それって、褒めてるの?」
「えっ、あっ、もしかして褒めれてないかも……」
友愛の天然じみた発言に七海と綾女が笑う。
友達とこうやって自分の部屋で話し、笑いあうのは楽しい。綾女は、このひとときを満喫していた。
「それにしても、桂君、花火大会のときはかっこよかったわね」
「あ、うん、私もそれ思った。あやちゃんがいなくなったとき、勢いよく探しに走っていちゃった」
「綾女を探すのに必死だったもんね~。それに、ちゃんと見つけ出して」
「体育祭のときも、倉庫に閉じ込められたあやちゃんを見つけてたよね」
「そうそう、ヒロインのピンチに駆けつけるヒーローって感じだった。わたしがそのヒロインだったら、キュンッてきちゃうわね」
「私も遼くんがいるけど、あのときの桂くんはかっこいいな~って思っちゃった」
七海と友愛はそう言いながら、うっとりとしていた。ただ、その目は、心なしか綾女の方に注がれている気がする。
綾女は何か良くない雰囲気を二人から感じ取っていた。
「……でっ!!」
そのとき、七海が綾女に詰め寄る。
「そんなヒーローに見つけてもらった感想は?」
うっ……、やっぱり来た。
助けを求めるため、友愛の方を見る。
しかし、彼女の目もキラキラと輝いていた。
七海も友愛も乙女の顔だ。
「そ、それは、嬉しかったわよ……」
目を逸らしながら答える。
すると、七海と友愛は、「きゃー」と黄色い声を上げた。
「や、ヤバいわ。あのクールでツンツンしてた綾女が、は、恥ずかしがってる」
「あやちゃん、あやちゃん、それで、あの後、何があったの?」
「えっ、なにがってどういうこと?」
友愛の食いつきっぷりに戸惑う綾女。
「なにって、花火のとき、桂君と二人きりだったじゃない? 帰って来た時には手をつないでたし。それで何もないとは言わせないわよ?」
「うっ」
綾女はあの時のことを思い出す。
見つけてくれた昂輝に嬉しくなったこと。
彼と二人で花火が見たいと思ってしまって、自分が彼の腕にしがみついてしまったこと。
告白しようとした自分を彼が抱きしめたこと。
自分の告白を奪うようにして彼が想いを伝えてくれたこと。
思い出すと、自分の顔が一気に熱くなっていくのを感じた。
そんな自分を見られたくなくて、綾女は手近に置いてあったクッションを取り、自分の顔を隠す。
「綾女~、唸っても、恥ずかしがっても無駄よ。洗いざらい話してもらうわ」
七海が両手の指を卑猥にくねくねと動かす。友愛もこくこくと首を縦に振っていた。
どうやら二人は自分を逃すつもりがないらしい。
「……昂輝から告白された」
「「きゃ~」」
「うう……」
顔が熱い。
「昂輝って呼んでるんだ~」
「で、で、なんって告白されたの?」
「そ、それは秘密。……あれは昂輝が私だけに言ってくれた言葉だもの」
「ぐっ、綾女が可愛い……」
「あやちゃん、乙女だね~」
あっ、余計なことを口走ってしまった。
「じゃあ、じゃあ、その後は?」
「ま、まだ言わないとだめなのっ?」
これ以上は自分の心がもちそうにない。
「ハグとか?」
なんでこうも七海たちは、ピンポイントで当ててくるのだろう。
「…………」
恥ずかしさで身が縮こまる。
そして、そんな沈黙を友愛たちは肯定と受け取った。
「ハグしたんだ~」
「それで、それで?」
「も、もう、これでおしまいっ。そ、それ以上はしてないわっ」
この話題はさっさと終わらせてしまうに限る。
それに、これ以上のことを聞かれるのはマズい。あと残っているのは、自分から昂輝にしたキスしかない。
「ほんとに~?」
「ほ、ほんとうよ……」
「そういえば桂君、私たちと合流した時、唇をケガしてたような……」
「そ、そんなはずないっ! 私、初めてだったけど、歯は当てなかったものっ」
クッションを顔から離し、綾女は前のめりになって否定する。
すると、綾女の目の前には、ニヤ~っと笑っている二人の顔があった。
「キス、したのね」
「しかも、ファーストキスだったんだ~」
そこで、綾女は自分が嵌められたことに気づく。
「~~っっ」
耐えられなくなって、綾女はもう一度、クッションに顔をうずめた。
そんなこんなで、七海と友愛による追及は夜通し続けられたのだった。




