84話
祭り当日。午後七時五十三分―――――
人波にもまれながら、なんとか俺たちは拝殿までたどり着いた。
「た、大変だった……」
神様の前だというのに思わず息をついてしまった。
すると、隣にいた遼が得意気に笑う。
「だろ? 毎年のことなんだけど、本当にこの祭りは規模がでかいからなぁ」
「さあさあ、さっさとお参りを済ませてしまいましょ? 早くしないと後がつっかえるわよ」
たしかにここでぼさっとしていると、後の人の邪魔になりそうだ。
俺は財布から小銭を取り出す。投げ入れるのは、ご縁があるようにと五円玉だ。
アンダースローで軽く投げると、五円玉はカランという音を立てながら賽銭箱へと吸い込まれていった。
賽銭を投げ入れると、二礼二拍手一礼と神社の作法に従う。
「よし、参拝も終わったし、そろそろ花火会場まで移動するか」
俺たちの参拝が終わったタイミングで遼がそう促す。
なんでも、俺たちが花火を見る場所は拝殿から少しだけ外れた場所にあるらしい。拝殿の両脇には木々が生い茂っており、左側の林をしばらく進むと、開けた場所に出ることができるそうだ。そこからだと花火がよく見え、人もいないから穴場スポットだと神社に来る途中で遼が話していた。
七海と牧原さんが遼の先導に従ってついていく。
俺もその後についていこうとする。
しかし、そこではっと気が付いた。
「遼、志藤さんの姿がないっ⁈」
すぐに周囲を見回したが彼女の姿が見当たらなかった。
「えっ⁈」
遼も驚きの声を上げる。あたりをきょろきょろと見るが見つけられないようだ。
「と、とにかく一旦この人混みから抜け出しましょ? ここにいたら迷惑になるわ」
「うん、わかった」
そうして俺たちは左に逸れて、人混みから抜け出す。
人混みを抜け出すと、すぐに後ろを振り返り、志藤さんを探す。
しかし、目の届く範囲に彼女の姿を見つけることはできなかった。
「ね、ねえ、あやちゃんのスマホに電話をかけてみない?」
「そ、そうね。一旦かけてみるわ」
牧原さんの提案に七海が頷き、鞄からスマホを取り出す。そして、アプリから音声通話を開始した。
しかし、
「……繋がらない」
「えっ」
電波が届かない地域でもないから、もしかしたら志藤さんのスマホのバッテリーがなくなってしまったのかもしれない。
「な、なら、社務所で放送をかけてもらうとか……」
「だめだ、友愛。花火までもう時間がない」
遼が腕時計を見ながら呟いた。
俺も腕時計を確認するが、現在の時刻は午後七時五十五分。
社務所で放送をかけたとしても、花火の開始時刻までに志藤さんと落ちあうことはほぼ不可能だ。
残り五分を切っているという現実が俺の焦りを増長させた。
「……、志藤さん」
志藤さんは魔導のせいで俺たちと話すようになるまで他人との距離を置いていた。
当然、友達と一緒に花火大会に行くことなんてなかっただろう。
だとしたら、俺たちと行く花火大会を楽しみにしていたはずだ。
だから、志藤さんのためにもこの五人で花火を見たかった。
ふと、体育祭のときのことを思い出した。
あのときも、志藤さんがリレー前に姿を消したのだ。そして、俺は時間ギリギリで彼女を野球部の倉庫から見つけ出した。
あのとき、彼女のことを一心に考えていたら、ふと、彼女の居場所が分かった。
そんなこと、普通はあり得ない。彼女を見つけることができたのはただの偶然だったのかもしれない。
でも、もしかしたら今回も彼女の居場所が分かるかもしれない。
俺は目を閉じ、彼女のことを想う。
彼女は今どこにいるのだろうか――――
居場所を教えてほしい――――
強く祈る。
「っっ⁈」
すると、前回と同じようにふっと、とある場所が頭に浮かんだ。
本当に根拠もなにもないが、今回も志藤さんがそこにいるという確信があった。
「……遼、先に行ってて」
「えっ」
遼が声を上げる。
「志藤さんの場所が分かった。ちょっと行ってくる」
「おいっ、ちょっと待っ―――――」
俺は遼の制止を待たず、再び人混みへと駆けだした。




