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83話

 祭り当日。午後七時五十分―――――


 ゴミを捨てた後も幾つかの屋台を回り、そしてようやく綾女たちは二の鳥居をくぐった。

 人通りはさらに多くなる。他の人との間隔は一メートルもない。少しでも気を抜くと、あっという間にみんなとはぐれてしまいそうだ。

 一番前に遼と友愛、二番目に昂輝と七海が並び、綾女は一番最後を歩く。

 もう少しで花火が始まる。

 このとき、綾女は浮かれていた。

 彼女は昔から友達が少なかった。それに魔導が発現してからは、その友達とも疎遠になってしまっていた。だから、家族以外の人と花火を見たことなんてない。


 ちょっと割高な屋台のたこ焼きを食べながら―――

 くだらない話をしながら―――


 そんな風にして、みんなで花火を見るのは初めてだった。

 綾女がもうすぐ始まる花火に思いを馳せていると、


「っっ⁈」


 通行人とぶつかった。

「あ、すみません」

 その人は軽く謝ると、そのまま歩いていく。

 まあ、これだけの人混みであれば他人とぶつかってしまうのは仕方のないことだ。

 綾女も、みんなに置いて行かれないようにそのまま進もうとする。

 しかし、そこではっと気が付いた。


「あれ、キーホルダーがない……」


 バッグにつけていたトラのキーホルダーが外れていた。そのキーホルダーは、以前、昂輝たちと勉強会をした時に、ゆめから貰ったものだ。綾女はそのゆめから貰ったキーホルダーを大切にしていた。

 慌てて足元を見てみると、そこにキーホルダーが落ちていた。おそらく先ほどぶつかったときにバッグからとれてしまったのだろう。

 綾女はすぐにそのキーホルダーを拾う。そして、再びバッグにつけようとするが、

「あっ、千切れてる……」

 チェーンの部分が千切れてしまっていた。これではバッグにつけることはできない。

 仕方ないなと思いながら、そのキーホルダーをバッグの中にしまう。


「あの~、そろそろ前に進んでくれませんか?」


 その時、後ろにいた参拝客に注意されてしまった。

 この場所は人が混雑している。立ち止まっていれば、後ろに迷惑をかけるのは必然だ。

「す、すみません」

 すぐに綾女も前に進み始める。

 足を動かし始めて、綾女は気が付いた。


 さっきまで目の前にいた昂輝たちの姿が見当たらない。


 彼女の前にいたのは子ども連れの三人家族。その先も見てみるが、昂輝たちらしき人を見つけることはできない。

「も、もしかして、はぐれた……」

 まさかの事態に、綾女は途方に暮れてしまった。


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