表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/114

78話

7章に突入しました!

話の区切り上、若干長くなってしまったかもしれません。

 七章


 七章 第一


 文化祭の夜、夢を見た。

 そこは、どこかの病室だった。

 一人の少年と一人の少女がいた。どちらも小学校低学年ぐらいの年齢だ。

 少年は、目の前のベッドに背を預けている少女に折り紙を教えていた。


「ねー、こーくん、次はどうやって折るのー?」

「えーっとね、たしかこうやって……」


 少年が口で説明しながら実際に折って見せる。


「―――――あっ、できた」


 しばらくして、二つの折り鶴が出来上がる。


「こーくん、すごいねー」

「えへへ、ありがとう。あーちゃんの鶴もきれいだねー」


 二人で、自分たちの折った鶴を見ながら笑い合う。


 あれ、こんな出来事を経験したことがあったっけ?


 そんな記憶はないのに、なぜか懐かしいと感じた。


          ***


「えっ、今日はおそくなるの?」

「ごめんね~。突然、仕事が入って、今日中に片づけないといけないのー。あっ、そろそろ仕事に戻らないといけないから切るわね。晩ご飯だけよろしく」

 そう言い残すと、母さんは電話を切った。

 携帯をポケットにしまうと、リビングの方から志藤さんがやってきた。

「桂くん、さっきの咲希さんから?」

「うん。母さん、今日は遅くなるらしい。ごめんね、せっかく今日も来てくれたのに」

「いえ、桂くんが謝ることではないわ。それに咲希さんにはいつも練習を見てもらっているのだし」


 いつものごとく、今日も志藤さんは魔導の練習をするために家にやってきていた。

 帰ってきたときにはまだ母さんがいなかったから、志藤さんにはリビングでゆめと遊んでもらっていた。

「うーん、それじゃあ、今日はもう帰ろうかしら。咲希さんが帰って来てから練習を見てもらうのも悪いし」

「ほんとごめんね」

「いえ、いいのよ……って、あれ?」

 志藤さんが声を上げる。

 視線を下げると、志藤さんの服の裾をゆめが掴んでいた。もちろん、ゆめは今トラの着ぐるみを着ているからゆめトラバージョンだ。


「ゆめちゃん、どうしたの?」

 ゆめはじっと志藤さんを見つめる。

「あーちゃん、もう帰っちゃうの?」

「ええ、今日はもう……」


 しかし、その言葉が続く前に、

「ゆめ、あーちゃんと一緒にご飯食べたい。……だめ?」

 ゆめが服の袖を引っ張る。

「うっ」

 志藤さんがゆめトラに捕食された。

 これは助け船を出した方がいいかもしれない。


「ゆめ、志藤さんは、今日はもう魔導の練習をすることができないから、おうちに帰るんだよ」

 ゆめの隣にしゃがみ込み、優しく諭す。

 しかし、


「にぃは、あーちゃんと一緒にご飯を食べたくないの? ゆめは一緒に食べたい」

 ゆめはつぶらな瞳でそうお願いしてきた。


 …………ごめん、志藤さん。俺はゆめトラに敵わない。


 俺は、ゆめの頭を優しく撫でる。


「それじゃあ、志藤さんがご飯食べるって言ってくれたらね」


「っっ⁈」


 まさかの裏切りに志藤さんが恨めしそうにこちらを見やった。

 俺は視線でごめんなさいと謝意を伝える。

 すると彼女は、はぁっとため息をつき、次には優しく笑った。


「わかったわ。それじゃあ、ゆめちゃん、一緒に晩ご飯を食べましょう?」

「やったー!!」

 志藤さんが了承すると、ゆめは両手を挙げて喜んだ。

 俺と志藤さんは互いに見つめ合って笑う。


「よし、それなら今からお兄ちゃんが晩ご飯を作ろうか」

 俺は立ち上がり、キッチンの方に向かおうとする。

 しかし、志藤さんが俺を呼び止めた。

「あっ、晩ご飯なら私が作るわよ」

「えっ、いいよ。志藤さんはお客さんだし」

「桂くんにはいつもお世話になっているから、たまには何かしてあげたいの。だから、桂くんはゆめちゃんと一緒に遊んであげて」


 うーん、まあそういうことなら……


 それに、俺も志藤さんの手料理を食べてみたいと思った。だって、俺も男なんだから。

「わかった。それならお願いしようかな。ほら、ゆめ、志藤さんがご飯を作ってくれるから、リビングでお兄ちゃんと遊ぼうね~」

「うん! あーちゃんのご飯、楽しみ~♪」

 俺はゆめの手をひいて、リビングへ行く。

 志藤さんも俺たちについてきた。リビングとキッチンは同じ部屋にあるからだ。


 俺はゆめとソファーに座り、テレビとゲーム機の電源をつける。

 志藤さんがご飯を作っている間、ゆめとレーシングゲームでもして時間をつぶしておこう。

 ゲーム機が起動し、軽快な音楽が流れる。

 それと同時に、


 ズダンッ


 とてつもない轟音がキッチンから響いてきた。


「「っっ⁈」」


 俺とゆめが一斉にキッチンの方へ振り返った。

「ど、どうかした?」

 俺は、ゆめをその場に座らせたまま、志藤さんのもとに駆け寄る。

 キッチンに行くと、そこには包丁を持った志藤さんとまな板の上で真っ二つに切断された人参さんがいた。

「えっ、なにもないわよ?」

 駆け付けた俺を見て、志藤さんがキョトンとする。

「いや、さっき、すごい音がしたけど……」

「ん? 音ってもしかしてこれ?」

 直後、志藤さんが包丁を勢いよく振り下ろす。


 ズダンッ


 また人参さんが両断された。

 俺は冷や汗が顔から流れるのを感じた。

 そんな俺とは対照的に、志藤さんはすまし顔だ。

「人参って固いわよね。本当に切りづらいわ」

 三度、志藤さんが包丁を振り上げる。

「ストーップッッ!」

 俺の体はとっさに動いていた。すぐさま、志藤さんの手から包丁を取り上げる。

「お、俺が晩ご飯を作るから、志藤さんはゆめの遊び相手になってあげてよ」

「え、だめよ。私が作るってことになったんだから」

「お、おねがいっ」

「だめよ。こればかりは譲れないわ」

 このまま志藤さんに料理を続けさせると、彼女が怪我をし兼ねない。いや、確実に怪我をする。

 しかし、彼女もなかなか諦めてくれなかった。


「わかった。それなら一緒に作ろう。このままいくと、志藤さんが怪我をしそうだし」

「そ、そんなことないわよっ。ただちょっと、料理が初めてなだけで……」

 うん、それは明らかに危険なやつだ。

 はぁっと息をつきながら俺は一旦ゆめのところまで戻る。

「ゆめ、お兄ちゃんは志藤さんと晩ご飯を作ることになったから、ちょっとの間、一人で遊んでてくれるかな?」

「うん、わかった。にぃ、頑張って」

 ゆめもさっきの轟音を聞いて察してくれたのだろう。優しく励ましてくれた。

「志藤さん、俺が野菜を切るから志藤さんは、ピーラーで野菜の皮を剝いてくれないかな」

 俺は志藤さんのもとに戻るとそう提案する。

 この人に包丁を持たしてはいけない。本能が俺に忠告していた。

「……わかったわ」

 志藤さんも渋々ながら承諾する。


 こうして俺たちの料理(ちなみに相談の結果、献立はカレーになった)が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ