77話★
同時刻、舞台袖。
栗色の髪をした女子生徒が桂昂輝たちのライブを観ていた。
一曲目が終わり、会場はこれまでにない盛り上がりを見せている。
生徒会の仕事がたくさんあったけど、これを観に行けて良かったと彼女は思った。
ふと、彼女は志藤綾女の方をみる。すると、彼女の様子がおかしいように見えた。
若干、足が震えている。その震えはおそらく、緊張によるものではない。
もしかすると、過去のトラウマによるものだろうか。このままでは、志藤綾女はライブを続けることができない。
仕方ない、すこし助けてあげよう。
彼女は口を開く。そして、その言葉を口にする。
「【接続】」
***
「志藤さん、お疲れ様」
俺は、体育館の裏で階段に腰かけていた志藤さんに缶ジュースを渡す。
遼と七海は、クラスに戻り、牧原さんも生徒会の仕事があるからとどこかに行ってしまった。
「ありがとう」
志藤さんは、俺からジュースを受け取ると、プシュッと缶を開けた。
俺も自分用に買った缶を開け、一気に喉を潤す。
「終わったわね」
「うん」
俺も志藤さんも寒くなった青空を見つめていた。その顔は、やりきったという感情で満ちていた。
二曲目に入る前、志藤さんの様子がおかしくなったように感じたが、歌う頃にはいつもの彼女に戻っていた。
二曲目も一曲目に負けず劣らずの盛り上がりを見せた。俺たちのライブは大成功したといえる。
しばらく二人して空を見つめていると、志藤さんが口を開いた。
「桂くん、今回は本当にありがとう」
「ん?」
俺は視線を志藤さんの方に向ける。
彼女は依然と空を見上げていた。
「私、今回のライブを通じて、魔導に対する見方が変わったわ。私の魔導であんなにも観客のみんなが喜んでくれる、楽しんでくれる。今までは魔導が怖かったけど、もう怖くない。人を幸せにしてくれるものだって思える。それに、そんな魔導を使う自分を少しだけ好きになれたわ」
「うん」
彼女がそう思ってくれたなら、母さんも本望だろう。俺も素直に嬉しかった。
「それにしても、桂くんには助けられてばかりね」
「えっ、そうだっけ?」
「ええ。私が魔導を暴走させたときも、野球部の倉庫で閉じ込められたときも。それに、七海たちと友達になるときも、彼女たちに魔導のことを打ち明けるときも。いつも、あなたは私を助けてくれたわ」
彼女の言葉がむず痒い。だからこんなことを言ってしまう。
「最初会った時は逃げられるし、教室では睨みつけられたりもしたけどね」
「あっ、あれは仕方ないでしょっ。は、恥ずかしかったんだから……」
あのときのことを思いだしたのか、志藤さんは恥ずかしそうに頬を染めた。
たしかに、この学園に来て以来、彼女とは色々なことがあった。
屋上で彼女が歌っているのを見た。
教室で彼女が魔導を暴走させたのを止めた。
彼女が魔導の練習のために家に来るようになった。
彼女が遼たちと友達になった。
みんなでライブをした。
どれもいい思い出だ。
今は高校二年の秋。まだまだこの学園での生活は続く。
これからもこんな楽しい学園生活が続くのだろうか。
「あ、あのっ」
そんな風に物思いに耽っていると、志藤さんとは逆の方から声をかけられた。
俺が顔を向けると、そこには少し茶色がかった髪を二つに結んだ女子生徒がいた。
「す、すーちゃん……?」
その時、反対側から志藤さんの驚く声が聞こえた。
見ると、彼女は手を口元にあて、目元には若干涙を浮かべている。
もしかして、すーちゃんと呼ばれた女子生徒は、志藤さんと中学生時代に仲が良かった志藤さんの友達ではないか。
それなら俺はさっさと退散したほうがいい。二人だけで話したいことがあって、彼女はここに来たんだと思うから。
俺はすっと立ち上がる。
「それじゃあ志藤さん、俺、そろそろクラスの方に戻るね」
「えっ、あっ」
そして、そのままさっと教室の方へ向かう。
途中、二人の様子が気になり、ちらっとだけ後ろに振り返った。
志藤さんたちは手を取り合って何事か話していた。
――――二人とも満面の笑みを浮かべて。
6章が終わりました。今までたくさんの応援をありがとうございます!
まだまだ昂輝たちの話は続きますので、どうぞよろしくお願いします




