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51話(3)

「ばか……」

 桂昂輝が「おやすみ」と言った時、綾女の目は冴えていた。というか、顔が熱くて当分の間眠れそうにない。

 先ほど彼は、素の自分のことを可愛いと言ってくれた。

 それだけで、胸の奥が温かくなった。


 彼女は彼の方に振り向く。彼はすでに眠ってしまっていた。

 彼は、自分が魔導を使えると知った時も怯えず、あまつさえ、魔導を制御できるようになるよう協力までしてくれた。

 今になって思う。

 もしかしたら、あの時、教室で魔導を暴走させた自分を助けてくれたのも彼なのではないかと。

 それに、体育祭では倉庫に閉じ込められた自分を見つけてくれた。

 そして、今は大道寺くんや笹瀬さん、牧原さんたちとも仲良くなりつつある。

 本当に彼が来てからすべてが変わった。

 彼に感謝してもしきれない。


 ――――加えて、本当に最近、彼に対して抱く感情がある。


 彼が笑うと自分も幸せになる。

 彼に優しくしてもらえると心が弾む。


 きゅっと心が締め付けられるようだが、むしろそれが心地いい。甘く酸っぱいこの気持ち。

 今の自分では、まだこの気持ちに名前をつけることはできない。


 ――――でも、別にいい。

 

 彼とまた話せるのであれば。

 彼とまた一緒にいられるのであれば。


「う、うん……」

 彼が寝返りをうち、彼と向き合う形になる。

 その寝顔を見て、また、自分の心臓が大きく跳ねたのがわかった。


 やっぱり眠ることはできそうにない。

 この後、彼女は明け方近くまで起きることになり、結局、あまり寝ることはできなかった。


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