51話(2)
俺は自室に戻ると、ベッドでゴロゴロとしていた。
今日のゲームをしている志藤さんは新鮮だった。
いつも学校では冷静でクールな彼女だが、意外にも負けず嫌いだった。
悔しさや喜びという感情を前面に出していた。
「今日の志藤さん、すごい貴重だったな」
俺は、彼女の新たな一面を見ることができて嬉しかった。
ふと時計を見ると、針は午後十一時を指していた。そろそろ寝る時間だ。
俺は、電気を消そうと、ベッドから起き上がる。
すると、
ピカッ
急に外が光った。
数秒後、
ゴロゴロ……
轟音が鳴り響く。
そういえば、今夜は雷雨になると天気予報で言っていた気がする。さっきの雷も結構近いようだ。
その後も、何度か雷が落ちた。
続いて、雨粒が地面にたたきつけられる音がし始める。
本格的に天気が荒れてきた。
俺は、今度こそ電気を消し、ベッドに寝転がった。布団を被り、寝る準備をする。
今日は体育があったため程よく疲れがたまっていたのだろうか、床に入るとすぐに睡魔が襲ってきた。
そうして、そのまま睡魔に誘われようとしていると、
トントン
自室のドアを叩く音がした。
「どうかした?」
ドアを開けると、そこには志藤さんがいた。
志藤さんはなんだかもじもじとしている。
「……なの」
「ん?」
彼女の声はとても小さい。それに対して、外では雨や風が吹き荒れているため、彼女の声を聞き取ることが出来なかった。
「……私、雷がすごく苦手なの」
「まあ、これだけうるさかったらな……」
このレベルの雷は苦手な人でなくてもビクッとしてしまうだろう。
志藤さんは俯いていた。
そして、
「だから……、そ、その……、い、一緒に寝てもいいかしら?」
とても言いにくそうに、そう言葉にした。
「――――へっ?」
志藤さんの手元を見ると枕があった。
どうやら本気でここで寝るつもりのようだ。
「で、でも、志藤さんは女の子だし、俺は、その、男だし……」
若干、何を言っているのかわからないかもしれないが、言いたいことは察してほしい。俺もかなり混乱している。
「わ、わかっているわよ! で、でも、どうしても雷はだめなの!」
ピカッッ ゴロゴロ……
その時、あたりが急に明るくなると同時に、一際大きな雷鳴が轟いた。
「きゃっ」
志藤さんが枕を落とし、俺にしがみつく。
女の子らしい、柔らかな感触が全身を襲ってくる。
「ししししし、志藤さんッ⁈」
志藤さんの突然の行動に俺は完全に混乱した。
「ご、ごめんなさい。少し、このままでいさせて」
そして、また雷が落ちた。
雷が落ちるたびに志藤さんはビクッと体を震わせ、雷が落ちていない間も肩をふるふると震わせている。
そんな彼女を見ていると、だんだん俺は落ち着きを取り戻した。
彼女の両肩に優しく手を置く。
「志藤さん、大丈夫。それに今日はここで寝てもいいから」
雷に怯える志藤さんがあまりにもかわいそうで、俺は彼女を自室に招き入れることにした。
「志藤さんは、俺のベッドを使って。俺は床に布団を敷いて寝るから」
そして、志藤さんは俺のベッドに、俺は一階にあった布団を自室に持って来てそれに潜る。
最初に感じていた睡魔は完全に吹き飛んでしまった。
「その、悪かったわね……」
布団に入ると、志藤さんがそう呟いた。
「さっきも言ったけど、雷は昔から苦手なの。子どもっぽいって思ってしまうけれどね」
その時、また雷鳴が轟いた。志藤さんはひゃっと可愛らしい悲鳴をあげる。
「いや、全然大丈夫。ほら、ゆめとかも雷を怖がるしさ」
「ゆめちゃんは小学二年生でしょ。私はもう高校生よ」
「怖いものに年齢なんか関係ないと思う。それに、雷を怖がる志藤さんはなんだか新鮮」
「それって、私のことを馬鹿にしてるんじゃないの?」
志藤さんがむっとしたのが、直接見なくてもわかった。しかし、また雷鳴が轟いたので、志藤さんは再び可愛らしい悲鳴をあげることになる。
「ちがう、ちがう。今日は志藤さんの新たな一面をたくさん見たなって思って」
「どういうこと?」
「ほら、志藤さん、ゲームをしている時は悔しがったり喜んだりしてたでしょ? それに今は雷に怯えている。志藤さんって、普段の様子を見ていると冷静でクールなイメージがあるから、今日は志藤さんの本当の姿を見られた気がして嬉しかったんだ」
「う、嬉しかったの? 幻滅したとかじゃなくて?」
「そんなわけない。志藤さんと仲良くなれたかなって思うし、それに、いろんな感情を出している志藤さんも可愛いしね」
「……」
志藤さんからは何も返ってこない。もしかして、もう寝てしまったのだろうか。
俺は、ベッドの方を見る。
彼女は背をこちらに向けている。そのため、彼女が実際に寝てしまったのかを知ることはできない。
そうこうしていると、また睡魔が戻ってきた。
「おやすみ、志藤さん……」
俺は、こちらに背を向ける志藤さんに小さく呟くと、夢の世界に誘われていったのだった。




