43話★
四章
四章 第一
体育祭の翌日、星華学園では通常通り授業が行われていた。今は、一日の最後である六時間目。科目は、川島先生が受け持つ物理だ。
昨日の体育祭の疲れが抜け切れていないのか、授業中にうつらうつらしている生徒もちらほらといる。しかし、川島先生は仕方ないなっと苦笑いするだけで彼ら彼女らを起こそうとはしない。
それに、今日はなんだか授業のペースもいつもよりゆっくりだった。おそらく、川島先生も今日だけは大目に見てくれているのだろう。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
本日最後の授業の終了を告げるチャイムが流れた。
人間というものは実に不思議だ。授業中に眠くなる時は、何をしてもその睡魔に抗えないにもかかわらず、授業終了のチャイムが鳴れば必ず目を覚ますのだから。
二年C組も例に漏れず、うつらうつらしていた生徒たちは全員目を覚ました。
「よし、今日の授業はここまで。さて、お前ら、一週間後には何が迫っているか知っているか?」
川島先生は教壇に立ったまま、教室を見回す。
生徒たちのほとんどは苦虫をつぶしたような表情をしていた。
「そう、一週間後には中間テストだ。体育祭ももう終わったんだし、そろそろ勉強をしておくんだぞ~」
現実を突きつけられ、生徒たちはウゥっと唸る。
川島先生はそれだけ言い残すと、教室を後にした。
放課後になったので、周囲の生徒たちは帰宅の準備を始める。テスト一週間前からのいわゆるテスト週間では、部活動をすることが禁止されている。そのため、生徒たちは図書館に行くか、帰宅するかの二択になるのだ。
「はぁ、テストか~」
星華学園の授業スピードは以前の学校よりも早い。俺もきちんと勉強をしないと悲惨な結果になりそうだ。
早く帰って勉強に勤しむべく、俺は帰り支度を始める。
すると、隣の席にいた志藤さんが話しかけてきた。
「ねえ、桂くん、今日の放課後のことだけれど……」
「ああ、テスト週間だし、しばらくお休みする?」
予想通り、志藤さんの用件は、魔導の訓練についてだった。
とはいっても、今日からテスト週間が始まる。志藤さんも勉強に集中したいだろう。ま、そのあたりは母さんに伝えておけば大丈夫なはずだ。
「あ、えーっと、そういうことじゃなくて……」
「え、違うの?」
「うん、桂くんのお母さんには、まだまだたくさん教えてもらわないといけないことがあるから」
「でも、テスト週間だし、勉強もしないといけないよね?」
「う、うん。だからね、放課後、桂くんの家で勉強してもいいかなって。そ、そしたら、魔導の練習もできるし、テスト勉強もできるでしょ?」
「まあ、それはそうだけど……」
「あれ? 志藤さん、昂輝の家で勉強するの?」
「「っっ⁈」」
俺たちが話していると、そこに遼も加わってきた。遼のそばには七海もいる。
「あー、えーっと……」
志藤さんが魔導師であることについては、まだ遼たちに話していない。そのため、どう説明したらいいものか俺は頭を抱えた。
「ええ、桂くんのお母さんに最近お世話になっているし、今日も用事があるから、そこで勉強をしようかなって思ってるの」
遼の問いに答えたのは志藤さんだった。
「え、じゃあさ、じゃあさ、俺たちも昂輝の家に行っていい?」
「えっ⁈」
突然の遼の提案に驚く。
すると、七海も遼に追随した。
「あ、いいわね。みんなで勉強したほうが捗るし、さんせー」
「で、でも、突然みんなで行くのは……」
志藤さんは俺たち家族の都合を気にかけたのか、遼たちに待ったをかけようとした。しかし、そんな彼女を俺は制する。
「いや、いいよ。といっても一回母さんに聞いてみないとだけど」
「お、ありがとな、昂輝」
「やったねー、みんなで勉強会だー」
ウキウキな遼と七海。
志藤さんは心配そうにこちらを見る。
俺はそんな彼女に心配しなくていいと伝えるため、首を横に振る。
体育祭でのリレーが終わった後、志藤さんは少し明るくなった。話しかければ応じてくれるようになったし、仏頂面以外の表情も見せるようになっている。そんなタイミングでのみんなでの勉強会だ。もしかしたらこの機会に遼たちと仲良くなってくれるかもしれない。そんなことを思ったため、俺は遼たちの提案にのっかることにしたのだ。
「じゃあ、桂君、早くお母さんに連絡を取って、取って」
七海が俺を急かす。
わかったよ、と言いながらポケットからスマホを取り出した。すばやく、メッセージを打ち込み、送信する。
返信はメッセージを送った直後に返ってきた。
そこには、いいよ、とだけ書かれている。
「母さん、いいって」
「「やった~」」
こうして俺の家で勉強会を開くことが決まった。




