40話★
「でも、どうするよ。リレーまでそんなに時間はないぜ?」
リレーはダンス競技の次だ。
つまり、このダンスが終わるまでに志藤さんを見つけ、入場門まで連れて行かなければならない。
「たしか、ダンスって四分ほどだったよな?」
「ああ、だからグラウンドや校舎をあてもなく探し回るのは無理っぽい」
星華学園は中等部と高等部が一緒になっているため、学園の敷地面積が広い。遼の言う通り、むやみやたらに探し回っても時間内に見つけることは不可能だろう。
リレーは得点が大きく、グループの勝敗に直結する競技だ。もし、志藤さんがリレーを無断に欠席すれば、確実に他のメンバーからの批判が殺到する。
彼女がさらに学園で孤立することになってしまう。
ふと、屋上で彼女と会った時のことを思い出した。
彼女はあの場所で一人だった。
歌っている彼女はどこか孤独で寂しそうだった。
「志藤さん……」
パンフレットを握る手に力が入る。
たしかに、彼女は自分から他人との距離を取っている。
しかし、それは彼女が好きでやっていることではない。
自分の魔導で他人を傷つけたという負い目から、そして、自分と関わることで他人を傷つけまいという決意からの行動だ。
こんなにも他人を思いやる彼女が、これ以上、学園で孤立するのは耐えられなかった。
どうしてもリレーに出してあげたい。
そして、彼女を孤独から救ってあげたい。
その時、中等部女子がグラウンドに入場するBGMが流れ出す。
競技が始まってしまったようだ。
タイムリミットの近づきを知らせる音楽に焦りが募る。
いったいどうしたら…………
静かに目を閉じる。
必死に彼女がいそうな場所を思い浮かべる。
屋上、教室、学食……
ぱっと思いつく候補はいくつかある。
しかし、いずれの場所も確信するまでには至れない。
「こ、昂輝、本当にどうするよ……」
「……」
音楽が止まった。生徒の入場が終わったのだろう。
早く彼女を見つけなければならない。
でも、いったいどこに……
「――――っっ⁈」
すると、本当にふっと、とある場所が思い浮かんだ。
自分でもなぜその場所が思い浮かんだのかよくわからない。しかし、なぜか彼女はそこにいるという確信はあった。
俺は、一目散に駆け出す。
「お、おいっ」
遼はいきなり走り出した俺に困惑する。
「ごめん、すぐ戻る」
それだけ言うと、俺は彼女がいるであろう野球部グラウンド(ばしょ)に向かって走っていった。




