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37話★

 昼食を食べ終えた後、志藤綾女は自分のテントに戻ろうと一人、グラウンドに出ていた。

 他の生徒はまだ昼食を取っている。彼女は一緒に食事を摂る友達がいないため、他の生徒よりも早く昼食を食べ終わっていたのだ。このように他人と距離をとって一人で過ごすのは慣れたけれど、やはり、寂しさを感じる。

 彼女は、テント付近に掲げられている大きな絵を見た。この絵は、各グループがそのグループのテーマに合わせて装飾したものだ。体育祭が始まる一か月ほど前から、装飾を担当する生徒たちが放課後に居残って書き上げた大作である。

 今年の白グループのテーマは十二支。目の前の絵には、鼠から始まり猪でおわる十二匹の動物が描かれている。

 たしか、十二支の物語には今描かれている十二匹の動物の他に猫も登場する。猫は鼠に騙されたことにより、神様の集まりに参加することができず、結果として、十二支に仲間入りすることはできなかった。

 彼女は、自分はまるでその猫であるように感じた。仲間外れにされ、一人ぼっちの猫。それは、現在誰ともかかわることもなく、孤独に過ごす自分自身と重なる。

 はあっとため息をつきながら、彼女は自分のテントに戻った。


「あら?」


 自分の椅子に便箋が一枚置かれていることにふと気が付く。

 彼女はその手紙を手に取った。四つ葉のクローバーが挿絵として描かれている可愛らしい便箋には、志藤綾女様へ、と丸っこい文字で書かれている。

「なにかしら」

 彼女は便箋から手紙を取り出した。そこには、十三時に野球部のグラウンドにある倉庫へ来てほしい旨が記載されていた。そこで、二人だけで話がしたいと書かれている。

 彼女は最初、こんなのは誰かのいたずらだろうと思った。彼女の周囲には敵が多い。現に、つい先日も教室で女子生徒三人に絡まれたばかりだ。こんな誘いに応じる必要はないし、応じるつもりもなかった。

 しかし、手紙の最後に記載されていた差出人の名前を見て、彼女の動きが止まる。


「……すーちゃん?」


 差出人には、西野すみれ、という名前があった。その名前は忘れるはずもない。唯一友達と呼ぶことができた少女。一緒に笑い合った少女。一緒に部活動に励んだ少女。そして、中学二年生のときに自分が無力だったゆえに傷つけてしまった少女。

 どうして今、彼女の手紙が自分の椅子に置かれているのか。一体どんな話があるというのか。綾女の頭は疑問でいっぱいになる。しかし、実際に彼女に会ってみないことには、それらの疑問が解決することはない。

 綾女は、この手紙に従って、彼女に会いに行くことを決意した。


 野球部のグラウンドは体育祭で使用されるグラウンドとは離れた場所にあるため、この近辺に誰も人はいない。綾女は、一人ゆっくりと指定された倉庫まで歩いていた。

 やがて、倉庫の前に到着する。

 現在の時刻は午後十二時五十八分。あと少しで、約束の時間だ。たしか、手紙では倉庫の中で話がしたいと書かれていた。

 綾女は、一度深呼吸をすると、倉庫の扉に手をかける。

 彼女に会ったらまずはなんと声をかけようか。

 そんなことを考えながら、綾女は倉庫の扉を目一杯押した。

 ギギーっという音を立てながら扉が開く。

 そして、綾女はその開いた扉から倉庫の中へと入っていった。


「約束の時間通りに来たわよ」

 しかし、その声は倉庫内に反響するだけで、返事は返ってこなかった。

 見たところ、倉庫内には人影がない。

「あれ? まだ来ていないのかしら?」

 彼女がそう疑問に感じたその時―――――、


 ギギー、ガチャンッ


「ッッ⁈」

 閉められる扉。そして、


 ガチャリッ


 鍵の閉まる音。

 綾女はすぐさま扉に駆け寄り、これを開けようとするが、もちろん開くわけない。ただガチャガチャと音を立てるだけだ。

「う、うそ……」

 彼女はその場に立ち尽くすしかなかった。


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