26話

　学食に行くには、西棟の裏玄関から出るのが一番の近道だ。

　俺たちは今、西棟一階の廊下を歩いていた。

　遼との話題はもっぱら、間近に迫った体育祭についてだ。

「―――――でさ～、なんとか友愛と一緒に二人三脚に出られることになったわけ。何回、誘っても、友愛のやつ、『嫌だっ』の一点張りだったからな～」

　牧原さんは遼とは正反対の奥手で引っ込み思案なタイプだ。そんな彼女が、あんなに目立つカップル専用の競技に出ようとは思わないのだろう。

　そんな風に、遼と体育祭について盛り上がっていると、前から櫻木さんが歩いてくるのが見えた。

　生徒会の用事なのか、彼女は両手に大きめの段ボールを抱えている。女の子があれを運ぶのは大変そうだ。

　その時、ぱっと櫻木さんと目があった。

　目が合うと、彼女はふるふると首を横に振る。どうやら手伝いは要らないと俺に伝えたいようだ。

　さて、どうしようか……

　まあ、本人が要らないって言っているのだから、無理に手伝わなくてもいいだろう。

「あれ？ あの子って、櫻木さんじゃね？」

　すると、遼も前から歩いてくる櫻木さんに気が付いたようだ。

「なあ、なんか大変そうだし、俺たちも手伝おうぜ」

　そう言うと、遼はすぐ動き始める。こんな風に困っている人がいるとすぐに助けようとする遼の行動力には素直に感心する。

「そうだな」

　俺も遼に続くことにした。

「櫻木さん」

「はい？」

「その段ボール、俺が持つよ」

　遼が櫻木さんに声を掛けた後、俺は彼女が抱えている段ボールを指さした。

「えっ、いいですよ。これ、生徒会の仕事ですし」

「でもそれ、女の子が持つのはちょっと大変でしょ？」

「い、いえ、これくらい大丈夫ですよ？」

「ま、いいから、いいから。これ運んだら、友愛にも会えそうだからさ」

　遼のおどけた調子に櫻木さんは笑みをこぼした。

「ふふっ、大道寺くんは本当に友愛ちゃんのことが大好きなんですね。わかりました。それでは、お願いしてもよろしいですか？ 実は、これを生徒会室まで運ばなくてはならなくて」

「ああ、任せてよ」

　そうして俺は、櫻木さんから段ボールを受け取る。大きさの割に重いわけではなく助かった。