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110話

 目を覚ますと、そこには白い天井が広がっていた。

 キョロキョロとあたりを見回す。すると、近くの椅子で眠っている母さんを見つけた。

 さらには、自分に体を預けて眠る綾女の姿も。綾女は俺の手をぎゅっと握っていた。

 そこで、俺は全てを思いだす。


「そうだ……、俺、学園で突然意識を失ったんだった」


 ベッド上でずっと動いていなかったからか、体は重く感じた。しかし、倦怠感などはない。


「もしかして、綾女が助けてくれたのかな……」


 そういえば、意識を失っているとき、綾女の声が聞こえてきた。彼女の声が聞こえてきたのが嬉しかった。

 だが、思い出したのはそれだけではなかった。


 五歳から七歳の記憶。自分が魔導師だった記憶も蘇ってきた。

 綾女が使った魔導は、記憶を媒介にして他者に魔力を移譲するものだった。だから、自分の魔力が戻ってきたことで、この頃の記憶も戻ってきたのだろう。

 

 ん、そうするともしかして……


 そこでハッとする。


「綾女っ、綾女っ」


 俺は気持ちを焦らせながら彼女の肩を揺すった。


「ん……」


 強く揺すられ、綾女は目を覚ました。まだ眠たいのか、目元をこすりながら起き上がる。

 やがて、その綺麗な瞳と目が合った。


「綾女、大丈夫?」


 その問いに対して綾女は、


「……すみません、どなたですか?」


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