表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/114

108話

 オペ室の扉の上では、手術中、と赤色のランプが光っている。


 綾女はオペ室前のベンチで座っていた。

 咲希さんは隣のベンチで目を閉じ、祈るように両手を合わせている。


 自分も昂輝の無事を祈っていた。

 ただそれと同時に、自分自身を強く責めた。


 あのとき、自分が迷わず魔導を行使していれば。

 自分が恐怖に怖気づかなければ。


 もし、これで昂輝がいなくなってしまったらどうしよう。


 そんなことは考えたくなかった。

 でも、ついつい考えてしまう。


 すると、赤色のランプが消えた。

 中から医師と看護師、そしてベッドで眠る昂輝が出てくる。


「お母さん、昂輝君はなんとか持ちこたえてくれました」


 そんな医師の言葉に咲希さんの涙があふれる。

 綾女もほっとするあまり全身の力が抜けた。

 綾女はあまり宗教の類を信じない質だが、このときばかりは神様に感謝した。


 まだ昂輝を救うチャンスをくれた。

 しかし、彼の容態は予断を許さない。すぐにでも、彼に魔力を移さなければならない。

 今回、彼の容態が急変したことで、そのことを思い知らされた。

 迷っている暇なんかない。

 迷っていれば、次こそ彼と会えなくなってしまう。


 昂輝を連れて、もとの病室に帰ってきた。

 咲希さんは、昂輝がオペ室から出てきてからずっと、彼の手を握っている。


「咲希さん、さっきは途中でやめてしまって、本当にすみませんでした」


 綾女は、申し訳なさのあまり、勢いよく頭を下げた。


「いいのよ。晃くんもこうして無事だったわけだし」


「……昂輝への魔力の移譲は今夜行おうと思います。それで、一つお願いがあるのですが、魔力を移す前に少しの間、私に時間をくれませんか? 下でやりたいことがあるので」


 咲希さんは怪訝そうに首を傾げたが、やがてゆっくりと頷いた。


「ええ、もちろんいいわよ」


「ありがとうございます。それでは一度失礼しますね」


 そう言って、病室を後にしようとする。

 しかし、咲希さんが手を掴んできて、自分を引き留めた。


「ねえ、綾女ちゃん、私に隠していることがない?」


 その問いについ動揺が漏れ出そうになる。


「ごめんね、さっきの綾女ちゃんの様子があまりにもおかしかったから、気になっちゃって」


 ああ、なんでこの人はこんなにも鋭いのだろう。

 だが、本当のことをこの人に伝えることはできない。伝えれば、咲希さんは自分が魔導を行使することを止めるはずだ。たとえ息子の命がかかっているとしても。

 この人はそれほどまでに優しい人なのだ。


 綾女は静かに首を振る。


「いえ、隠していることなんて何もありません。さっきのは、昂輝の命が自分にかかっていると思うと怖くなっただけです。もう大丈夫ですから」


「ほんとう……?」


「はい、本当です。だから心配しないでください」


 これ以上詰め寄られると、自分の心の内を吐露してしまいそうになる。

 弱い自分に負けてしまいそうになる。


「それじゃ、ちょっと下に行ってきますね」


 そうして、咲希さんの手を引きはがし、病室を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ