成功……なのかな??
マチさんとマリオットの不毛すぎる会話はまだ続く。
「地味にも何も、姉さん完璧に嫁ぎ遅れじゃない」
「うぐっ!」
大体こっちでの結婚適齢期は20歳前なので、23歳のマチさんは若いが嫁ぎ遅れの部類には入る。
「しかも、仕事以外はダメダメでしょ?掃除が苦手てお部屋が汚部屋になっちゃうし」
「うぐぐっ!!」
「…別に、掃除が好きな旦那を見つければいいんじゃ……」
そうそう。キールいいこと言うわ!ルイスみたいな主夫ができる旦那様、いいですよ!!マリオットがどうだかは知らないけど。
あと、地味にキールが無視されてる。
「基本的にほぼすっぴんで化粧すらしない、寝癖もそのまま!女子として終わってる姉さんでも好きなんだよ!!」
「マリオット……?」
「だから、どうしようもない姉さんでも大事にするから、僕と結婚して!!」
おお、マリオットがついに言った!!マチさん良かったね!!
「異議あり!!」
マチさんは、某裁判ゲームのように異議があるらしい。
「プロポーズが残念すぎる!!」
「…確かに」
「そうだね」
「あれはないですよねぇ…」
「だなぁ…」
「なんつーか、愛が足りない?」
私、ルイス、キール…店員さん達に、常連と思われるお客さんまでもが頷いていた。プロポーズとして、あれはない。
「くっ……」
「せめて結婚指輪と薔薇の花ぐらいほしい!!」
マチさんよ…もはや誉め言葉は諦めたのかい?聞いてて悲しいよ。せめて指輪と花ぐらい、なんとかならないかな?
「…ルイス、代用できそうなものある?」
「うん。カップル用の試作だけど…いいよね?エルシィにはもっといいの作るからね。花は…こないだ薔薇が育ちすぎたから刈りまくった奴が……うん、こんなもんかな」
シンプルな魔石付きのペアリングを私に渡し、瞬く間にただの薔薇を花束にカスタマイズするルイス。流石はルイス。嫁力がそろそろカンストしてるんじゃなかろうか。
「よし!じゃあこれを…」
「エルシィ、流石にマリオットとは初対面だから…ね?」
ルイスが服とブラシとメイク道具をもって微笑んだ。
そして、久々のエルサール姿である。だいぶ不自然な気がするが、大丈夫…だよね??
さっそくお店に降りる私。従兄であるお兄ちゃんのふりをする。
「やあ、マリオット!話は聞かせてもらったよ!!」
カリスマオーラで不自然さはカバーしちゃうよ!
カリスマシャワー!フルボリューム!!
辺りにカリスマの輝きが満ち溢れた。普段より派手に輝いております。カリスマオーラを出しすぎた結果、皆さんかしこまってしまった。全員頭を下げての土下座スタイルである。私、頭が高いとか言ってないよ。頭下げなくていいよ。
「えーと…とにかく!我が友マチが所望した品はここにある!マリオット、きちんと素直に言いなさい。君は彼女をよく知って…いや、君以上に彼女を知る人間はいまい!君ならば、彼女が望む最高のプロポーズができるはずだ!!」
「エルサール様……」
至近距離でカリスマシャワーを浴びたせいか、感動して涙を流すマリオット。
「ありがたや、ありがたや」
「すげーな…心が洗われるようだ…」
カリスマシャワーになんか妙な効果でもついたのか、何故かお客さん達に拝まれている。輝いてるから、光の浄化もしちゃったのかな?
「ぐうっ…」
やや邪悪なキールはナニかに耐えている。よかった、キールにまで拝まれたらどうしようかと思ったよ。
「エルサール殿下!僕は…僕はやりきってみせます!!」
マリオットはそう言うと、まっすぐマチさんの元に歩いていった。そして私を拝んでいたマチさんの手を取り、ひざまずく。薔薇を渡し、反対の手で指輪を差し出した。
「姉さん…僕と結婚して」
「マリオット…」
「結婚してくれるなら…僕は……姉さんの望む『あしすたんと』になってみせる!誤字の指摘から、写植貼り…べたもとーん貼りも、食事の準備にスケジュール管理…なんなら姉さんの本の営業までこなすよ!!」
「末長くお願いします!!ぜひ結婚してください!!」
そうして、ペアリングをはめた二人は抱き合った。お客さんから拍手が起こる。よかったね、マチさん!
うまくいったみたいなので、私はさっさとルイスの所に戻った。
「まさか、あの本を受容するとは…」
「弟さん、マジで店長を愛してるんだなぁ…」
店員さん達が遠い目をしていた。彼らは受容できないらしい。
「どんな内容?」
差し出された本は厚みがなく…いわゆるベーコンレタスな同人誌だった。マチさんは色々布教しており、女性に大人気なんだとか。確かに、男性は受容しにくいネタだね!
内容はマリオットがあんあん言わされまくるもの。全力で見なかったことにした。しかも、相手がお兄ちゃんだなんて知りたくない。一応名前がちょっと違うが、見た目からして明らかにわかるヒトにはわかる。
ちなみにマリオット攻めもあるらしいが、心底どうでもいい。
「エルシィ、何が書いてあったの?」
「ルイス…この世には知らぬ方が幸せなことがあるんだよ!絶対知らない方がいいよ!!」
必死で話す私に、首をかしげるルイス。ルイスはマチさんの本を知っていたらしく、表紙を見ただけで中身を察していた。
すでに自分または兄をモデルにしたら不幸にするからね、と脅しておいたらしい。さすがはルイスだね!具体的に何をするかわかんないから怖いね!!
「マチ、愛してる!!」
「リオきゅん、好き好き大好きぃぃ!!」
こうして、マチさんは無事マリオットと結ばれたのだった。
ちなみにアイザックはイオリアたんの萌え萌えキュンにやられて、幸せそうな表情で鼻血流しながら気絶していた。お店を汚すなよ。もちろん命の危険はありませんでした。
そして数日後、糸目冒険者とマリオットのベーコンレタス同人誌が大ヒットしたらしい。
そして、武装したキールがマチさんの店に走るのを見て、慌てて追いかけた。
キールの攻撃はルイスの試作品により完全に無力化されたあげく、倍返しされていた。流石はルイス。マチさんはキールに謝罪していたが、残念なことに例の同人誌は世界的ヒットになってしまったのである。
とりあえず、マチさん編はこれにて終了です。




