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おめでとう、ルイス

 ルイス視点になります。

 夢にまで見たこの瞬間。



 幼い頃…不本意ながらまだ女装をさせられていた頃に、天使に出会った。

 天使の名前はエルシィ。あの頃のエルシィは大人しくて女の子らしい子だった。それから彼女は予想外の方向に成長したけど、変わらず僕に笑ってくれて…僕はずっとずっと彼女が大好きだった。


 ヒルシュ伯爵…いや、お義父さんにエスコートされて、エルシィがゆっくりと僕の方に歩いてくる。


 真っ白なウェディングドレスは、エルシィの希望だ。純白のドレスなんて、デビュタントの女の子ぐらいしか着ない。でもエルシィが『貴方の色に染まります』という意味があって遥か遠い異国の結婚衣装なんだ。ずっと憧れだったんだと彼女が言ったから、僕は全力で純白のウェディングドレスを仕立てあげた。彼女が着たいと望むなら、僕は常に全力で作る。

 白いヴェールもドレスも下着も…今彼女が身につけているものは全て僕の最高傑作だ。


「ルイス」


 エルシィが微笑む。彼女を連れて神父様の元へ。


「新郎、ルイス=クレバー」


「はい」


「汝、病めるときも健やかなるときも新婦を愛し、守ることを誓いますか?」


「はい、誓います。何があろうとエルシィを守って見せる」


 僕に迷いはない。自分の持てる全てで彼女を愛し、守るんだ。


「新婦、エルシィ=ヒルシュ」


「はい」


「汝、病めるときも健やかなるときも新郎を愛し、守ることを誓いますか?」


「はい、誓います!この聖剣にかけて、ルイスは私が生涯守り抜きます!!」



 聖剣が輝いて、僕の手にも現れた。





 はい?





 エルシィの手に聖剣。

 僕の手にも聖剣。


「おめでと~、聖女な勇者様の旦那様~」


 やたらユル~い声が聞こえてきた。恐らく聖剣エクステリアだろう。


「心が今、完全に結ばれたから~、聖女な勇者様の旦那様も私が使えるよ~になりました~。どんどんパフパフ~、おめでと~」


 そう言って聖剣は消えた。





 うおおおおおい!!

 結婚式のこう、厳かなムードが完全にぶち壊しだよ!!エルシィもビックリしすぎて固まってるし!!

 僕も驚きすぎて固まっていた。意外なことに、神父様が誰より早く再起動を果たした。


「こここここに、新たなる夫婦が誕生した!聖剣にも祝福されし夫婦に、幸あれ!!」


 ありがとう、神父様!最初めちゃくちゃ動揺してたけど、上手いことまとめてくれました!いやもう、僕本気でどうしようかと思ったよ!!


 ちなみに、毎回結婚式に出てきていたのかと後でエクステリアに聞いてみた。間延びしたしゃべり方の聖剣は『同じだけ深く愛した場合だけだから、めったにないよ』と答えた。僕のクッッソ重たい愛と同じ?

 ああ、でもよく考えたら彼女は僕を救うために傷つきながら修行に明け暮れていた。僕は歓喜でさらにおかしくなってしまいそうになった。


 結婚指輪も当然僕が作った。そして指輪交換をした瞬間、僕らの服が輝きだした。


「ルイス!?」


「大丈夫。作動しただけだよ」


 エルシィのドレスと僕の服に施された仕掛けが作動した。僕の服は翡翠色に染まり、エルシィのドレスは瑠璃色に染まった。


「わああ!スゴい!ルイス天才!!」


 あっという間に珍しい純白の婚礼衣装が鮮やかな互いの瞳の色…この国本来の婚礼衣装に姿を変えた。


「まだだよ、エルシィ」


「え?わああ!」


 ヴェールやドレスが変形を始めた。すらりとしたマーメイドラインから、プリンセスラインに。布地がクシュクシュと動いて花になり、ヴェールは斜めかけの花飾りつきになった。


「ルイス天才!!うわあああ、鏡が欲しい!!」


「マカセテクダサイ」


 ジェリーちゃんが鏡に変身した。エルシィのドレスはシンプルな大人っぽいものから、可愛らしいものへと変身していた。


「素敵!可愛い!!」


 笑顔でくるくる回るエルシィこそ世界一可愛い。


「父様、母様、オメデトウゴザイマス」


「ありがとう、ジェリーちゃん!」

「ありがとう、ジェリー」


 鏡姿のままだけど、ジェリーが笑っている気がした。


「いやはや、長生きはするものだ。聖剣にも驚きましたが、ドレスも素晴らしい仕掛けですな。では、誓いの口づけを」


 神父様、超メンタル強い。大好きなエルシィにキスをして、僕らは今日本物の夫婦になった。


「ルイス君、エルシィさん、おめでとうございます」


 キールさんが花を撒いている。


「似合わない」


 僕もそう思う。だから頷いた。祝福をするために撒くモノだけど、彼に僕らを祝福する気はないと思う。


「まったく、失礼な人たちですね!私は一応あなた方に感謝してます。あのままでは、私は悪戯に他者を害するロクデナシでしたから。私を救ったつもりなんて無いのでしょうが、気がつくきっかけにはなりました。ありがとう…それから、おめでとうございます」


「ありがとう!」


「…貴方がエルシィを害そうとしたことは許しませんが…祝福の言葉は受けとります。ありがとう」


 以前の僕は盲目で閉鎖的だった。


「エルシィ、おめでとう!」


「ギルマスありがとー!つか、ギルド抜けて大丈夫なの!?」


 馬鹿騒ぎも大嫌いで、エルシィを独り占めすることだけが望みだった。地下には自作の拘束具がたくさんある。


「大丈夫、大丈夫!こんなめでてぇ日に働いてらんねーって!エルシィはギルドにとって勇者様だからな!!おめでとう!」


「ありがとう!!」


 エルシィを無理矢理独り占めしなくてよかった。嫌がらないかもしれないけど、きっとこんな風には笑ってくれなかっただろう。


「エルシィさん!」

「エルシィちゃん!!」

「エルシィさまああああ!!」



 だって、こんなにもエルシィは愛されていて…大切なものがたくさんあるから。


「ルイス、おめでとう」


「兄さん……」


 両親が号泣していた。


「よかった、本当によかった…でもエルシィちゃん、ルイスに耐えられなくなったらいつでもうちにいらっしゃい!」


「え」


 号泣しながら縁起でもない事を口走る母。


「ああ、そうだな。ルイスから必ず守るよ!」


「…どういう意味かな?」


 いくら両親といえども言い過ぎだ。さらに言おうとした僕の前にエルシィが立った。


「ルイスから逃げるなんてありえないです。私、本当にルイスが大好きだから」


 どんなにイラついても、エルシィはいとも簡単に僕の怒りを鎮めてしまう。


 こうして、この日、僕らは婚約者から本物の夫婦になった。

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