おかえり
後始末はお兄ちゃん達にお任せして、ルイスと帰宅することになった。ジェリーちゃんは気をつかってくれたのか、今夜はまだ町にいるエリューシオンのスパイが暴挙に出ないようパトロールすると言って出ていった。
「ルイス、ただいま」
「エルシィ、おかえりなさい!」
ギュッと抱き合う私達。ルイスの匂いと自宅の匂い。帰ってきたのだと、力が抜ける。なんだかんだで緊張していたみたい。
「…なんか…帰ってきたんだなぁって感じ。安心する」
しばらく抱き合っていたら、呼び鈴の魔具が目覚ましかってレベルで鳴り響いた。
「「…………………」」
ご近所さんがいないから問題ないが、凄まじい連打である。
「…出ようか」
「やだ」
ルイスが可愛い。やだってなんですか。どうしよう。私もひっついていたいけど、この鬼気迫る連打がもし近隣の村で死傷者が出るレベルのナニかが起きたと知らせるものだったら?
「…ルイス」
ルイスは私の意思をくみ取り、静かに離れた。玄関を開けると、涙と鼻水で顔面ぐちゃぐちゃのマチさんが飛び込んできた。
「エルシィぢゃああああん!!無事!?貞操は無事!?怪我してない!?お腹すいてない!?うあああああん!!心配したんだよ!心配したんだよおおお!!」
「えと…元気だよ」
号泣するマチさんをよしよしする。
「だからエルシィさんは無事ですって言ったでしょ?勇者の称号は伊達じゃないんですよ。ほら、店長。皆も今日はソッとしとこーって遠慮してるんだから、帰りますよ」
いつも真面目に働いている店員さんは優しくマチさんに話しかけた。
「イヤダアアアアア!エルシィぢゃああああん!!」
「働かないならオーナーにチクりますよ。そろそろ戻んないとリル(女性のバイト店員さん)だけじゃ厳しいです」
店員さんと目があった。マチさんは働きたくないとか言っているので、無理矢理店員さんに引きずられていった。
「…あのさ、ルイス」
「…行こうか、エルシィ」
「え?」
「きっとエルシィのお母さんも心配してる。僕は夜にエルシィを独り占めする予定だから、皆を安心させてあげようよ」
「ルイス??」
いや、気持ちは嬉しいけどどうしちゃったの?今までの彼なら、破壊の限りを尽くして私を暫くはなさないだろう。復讐はじっくりやる予定みたいだからいいとして……
「ルイスはそれで平気?」
心配なので直球を投げてみた。ルイスは苦笑する。
「平気、ではない。だけど今回の事で、僕だけじゃエルシィを守りきれないって理解した。どんなに強力な武器や防具があったって、人質をとられたらエルシィは…エルシィ達はそっちを助けるために武器も防具も捨ててしまう」
「ルイス…」
それは、その通りだ。結局武器も防具も使い手次第。実際に最強の魔法剣を持っていた私は捕まった。
「エルシィを本気で守るなら…もっと周囲や他人とも関わらなきゃいけない」
今のままではダメなんだとルイスは話した。
「だから、ちゃんとする。ヒルシュ伯爵家や冒険者ギルドとも向き合うよ。もっと懇意にしていれば、ここまでの事態にならなかったはずだから」
「ルイス…」
ルイスは今までの可愛らしい彼と違い、凛々しくてかっこよかった。どこか表情も大人びていて、町に向かう道中に何があったか教えてくれた。
先ずは近いので冒険者ギルドに顔をだした。
「エルシィ!?無事だったか!」
ギルドマスターが頭をガシガシしている。地味に痛いが心配をかけたようだ。
「うん。特に危害を加えられたりはしてない。色々手伝ってくれたんだって?ありがとう」
本来冒険者ギルドが国同士の争いに介入することはない。しかし冒険者ギルドは諜報員を使い、情報収集をしてくれたらしい。ギルドマスターは内緒な、と笑った。
「だから殺しても死なないって言ったじゃないですか」
「そんなこと言って、エルシィさんが簡単にやられるとか許せないって諜報員志願したのは誰でしたっけ?」
「…誰でしたっけね。言いますねぇ、グリッド君」
キールはヤバい奴だから近づかない方がいいと言ったのに、グリッド君はすっかり仲良くなったらしい。たまに話してるのを見る。まあ、キールは気に入ったモノには寛容なので特に害はないだろう。つーか、キールが動いたとか意外。
「…ありがとう?」
「…ホットドックの借りは返しましたよ」
「それ、まだ気にしてたの!?」
何年前の話だよ!びっくりするわ!
「あれは本気で餓死の瀬戸際だったんですよ…」
「そ、そうなんだ…」
死んだ魚みたいな目をするキールに何も言えなかった。
ギルドの皆から、心配したんだよとか無事でよかったとか、無事に帰ってきやがって!賭け金返せ!とか言われた。とりあえず、最後の奴には無言でビンタしておいた。
「エルシィちゃん、帰ってきたって!?」
商店街のおじちゃん、おばちゃん達がやってきた。
「ただいま~」
「無事でよかった!ほら、これ持っていきな!」
「エルシィちゃん…!元気そうでよかったよ!あ、これ新製品ね」
さりげなく品物を押し付けられる。すでに両手で抱えきれなくなっているんですが……
商店街のおじちゃん達と話していたら、ガラガラと馬車が爆走しているような音がして、ギルド前で止まった。
「エルシィ?」
「姉様!」
そして、冷気を放つお母様と可愛い弟がギルドの入り口で美しく微笑んでいた。




