囚われのマイダーリン
聖剣。それは元々聖なる都と呼ばれた、聖地エリューンにもたらされた。しかし聖女はビルド国に嫁いでしまい、エリューシオンから聖剣は失われた。
聖地がある聖王国・エリューシオンは、聖女と聖剣を返還せよといまだに要請しているが、ビルド国はそれを無視し続けている。その結果、聖王国は強行策を取る。
それこそが全ルートで必ず発生するイベント『聖女誘拐』である。まさか学園に通ってない私にも発生するとは思わなかった。
いや、よく考えたら学園に通わないシルスルートでも発生していたから、これは必然なのかもしれない。
ちなみに一番好感度が高い相手が助けに来るテンプレイベントである。
私は首に特殊な魔封じをされていた。聖剣のみを封じる枷。見た目は綺麗なチョーカーだ。何故私が大人しくしているかと言うと、人質を取られたからだ。それも、従わなければ町を爆破すると脅された。
さすがの私も備えなしで町中の人間は守れないし、ルイスが人質にとられてしまっては手が出せない。しかも相手はルイスを見せなかった。その場で人質にとるようなアホならばそこでゲームオーバーだったのだが『貴女の最愛の人は我らの手の内にある』と言われてしまえば従わざるをえない。
仕方なく馬車に乗っているなう、というわけだ。念のためコッソリジェリーちゃんにルイスを探させ、守るように指示。さらにスライム達に町を警護させた。今後はこんな不手際をおこさせない!スライムはあと少しで町を制圧します。後はルイスさえ見つかれば問題なし!
暴れなかったからか、聖剣を封じられただけで私は拘束されていない。
「ああ、お会いしたかったですよ!聖女様!」
「………………」
私は会いたくなかったよ。早く帰りたい。ジェリーちゃん、早くルイスを見つけてくれないかなぁ…ルイスさえ見つかれば、こんな自分に酔ってる系馬鹿、血祭りなのに。わっしょいわっしょいと目の前の自己陶酔馬鹿を血祭りする妄想で気を落ち着かせる。
「あの卑怯で性格が悪いビルドの人間が貴女の名を騙って学園にいましたが、私にはすぐ偽物だとわかりましたよ!」
「……………………」
ああ、だからか。学園にスパイがいたわけね。お兄ちゃんの忠告を真面目に聞いとけばよかったわ。今さら後の祭りだけども。
「何故、何も話してくれないのですか?まさか、口がきけぬのですか?」
「……貴方と話したくないだけよ」
私は目を合わせずにそれだけを告げた。男は必死で私の気を引こうとしたが、私は全て無視した。
転移陣を使い、数日でエリューシオン王都にたどり着いた。私は城で客人として扱われているらしく、広い部屋に世話役の侍女付きだった。
移動中も城についてからも、私は相手がだしたものは食べなかった。ルイスが非常時用に用意してくれた水や食物があるのだから、怪しげな食べ物を食べる必要などない。誰もいなくなってからこっそり食べた。
「聖女よ、お願いですから水だけでも……」
「……………………」
私は一言もしゃべらない。壁を眺めるだけだ。
「…聖女様、我らは敵ではありません。不当にも貴女を捕らえていた蛮族達からお救いしたのです」
私はその蛮族の王族の血筋ですよ。相手にする気も起きない。
ただ、目を伏せてやり過ごす。彼らは自分の言葉が正しいと信じて疑ってない。話すだけ無駄だ。どれほど心を尽くそうが、それはあくまでも一方的な自己満足。彼らはあくまでも誘拐犯なのだ。私の意思を無視して拐っておいて、自分が正しいと疑わない馬鹿に何を言っても無駄だ。
侍女が着替えさせようとドレスを持ってきたが着替えない。お風呂も浄化魔法で入らない。敵の施しなど受けない、と完全拒否した。
唯一私が喋るのは、ルイスの安否確認だけ。
「彼に会わせて」
「それはできません。ただ、彼は丁重に扱っていますよ」
この男は嘘つきだ。私はため息を吐くと、また男を無視した。
そして、夜。歴史があるだけあって、この城はやたらと広かった。だが、大体目星はついている。見ていないのはもう地下だけだ。気配を消し、城の地下…地下牢に行った。丁重に扱っていますよと言ったので貴賓室なんかから調べたのは完全に失敗だった。
私が封じられたのは聖剣だけで、魔法も使えるしルイス特製ポーチがあるから武器もある。
城の地下はかなり広く、ルイスは見つからない。死んだ目をした男や女が牢の中にいるだけだ。
静かな地下牢の奥で、叫び声がした。
「お前がいるから、聖女様は私を見ないのだ!聖女様をたぶらかす悪魔め!!」
半裸の男を容赦なく鞭打つ上等な服を着た男。というか、半裸の男………
シルスじゃね?
とりあえず助けよう。牢は開いてたから、音もなく背後に忍び寄り…
「嘘つき」
男を容赦なく殴り飛ばした。多分だが、先程の言動からしてルイスとシルスを間違えたのだろう。鍛えあげたシルスだからさほどダメージはないようだが、これがルイスだったらと思うとゾッとする。
「ち、違います!これは…この者は悪魔なのです!貴女は騙されているのです」
「卑怯者。人質をとって私を連れ去ったあげく、大事な人をこんなに傷つけるなんて…大嫌い」
静かな怒り。赤い炎よりも熱い、青い炎みたいに。男は私の大嫌い発言に必死で弁解している。これ以上聞きたくなくて、最低男を気絶させた。
さあ、仕返しの時間だよ!!




