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簡単に名義を貸してはいけません

 朝日の光で目が覚めた。ルイスとだとよく眠れるなぁ…あら、ルイスはまだ服を着てない。目の保養…とうっとり眺めていたら、ルイスが目を覚ました。


「ん…えるしぃ?」


「うん。おはよう、ルイス」


「……いい夢だなぁ。エルシィがいるなんて…」


 うん?これは現実ですぜ、ルイスさんよ。いや、しかしルイスさんたら色気が……エロいですぞ!?


「ルイス…?」


「こんな美味しそうな格好をしてるんだから、食べていいよね?」


「え?はい。どうぞ」


 即答である。

 ルイスが寝ぼけているのは理解している。しかし、たまには私だってルイスに襲われてみたいのだ!ちなみに私はルイスのシャツだけを着ている。







 そして途中で完全に覚醒したルイスは、布団みのむしと化した。


「ルーイス」


「……ううううう……」


 エルシィはルイスをよんだ。

 ルイスはうめいてぷるぷるしている。


「ルイスぅ」


「……あうううう…」


 エルシィはルイスをつついた。

 ルイスはうめいてぷるぷるしている。

 布団からルイスが出てきません。仕方ない。


「ルイス、お腹すいた」


 エルシィはハラペコのじゅもんをとなえた。


「!!!今すぐご飯を作るね!」


 ルイスはふっかつした。


 ルイスは素早く服を身に付けるとキッチンに走った。今日もルイスのご飯は絶品です。珍しく私もお手伝いしました。



 リンゴーン、とドアベルが鳴った。我が家のドアベルはインターホンみたいに鳴らすと家中に音が響くマジックアイテムなのだ。もちろんルイスの作品である。


「僕が出るよ。エルシィは食べてて」


「いや、念のため私が出る」


 まぁ、敵意があれば我が家のセ□ムことジェリーちゃんの餌食になって我が家にたどり着けないだろうが、念のためだ。


「やあ、ちょっといいかな?」


「……お忍びですか?」


「ああ、お願いがあってね」


 お客さんはお兄ちゃんことこの国の王太子殿下でした。




 ルイスがお兄ちゃんにお茶と茶菓子を出してくれた。私達はまだ朝ごはん途中。


「格差がすごいな」


 それは私もそう思った。私たちの…というか私の朝食はスクエアフレンチハニートースト&フルーツ&生クリーム盛り合わせとサラダ、スープ。当然盛り付けも美しく、トーストはもはやケーキみたいになっている。

 ルイスはシンプルにシナモントースト&フルーツ、サラダ、スープ。

 お兄ちゃんはクッキー(市販)である。


 なんとなくかわいそうだからお兄ちゃんにトーストを分けてあげよう。


「お兄ちゃん、あーん」


「あーん…うん、美味しいな。エルシィが作ったのかい?」


 私が切り分けたトーストを美味しそうに食べるお兄ちゃん。ただトーストしたのではなくフレンチトースト風なんだよね。私にこんな美味しいものは作れません。サラダのレタスちぎったりトマト洗ったりはしたよ。


「んーん。ルイスが作ったんだよ」


「ルイス君は料理のてんさ……」


 お兄ちゃんが固まった。ルイスを見ているらしい。


「?」


 しかし、ルイスはニコニコしている。


「??」


「エルシィ、我が妹よ。頼みがある」


 お兄ちゃんの顔色は青いを通り過ぎて白い。


「うん」


「ルイス君にあーんをしてくれ!今すぐに!!」


 何故に。

 しかし嫌ではない…いや、ルイスも食べたかった

のか!


「はい、ルイス。あーん」


「あーん…おいしい」


 ふにゃりと笑うルイスは可愛い!ルイスに数口切り分けて食べさせる。珍しくルイスは恥じらって嫌がらず素直にあーんをされている。


「た、助かった…」


 お兄ちゃんがホッとしていたが何故だろうか。


「エルシィ、僕のトーストもひと口あげる。はい、あーん」


「あーん」


 しかし可愛い嫁からのあーんに思考は吹き飛んだ。




 朝食を食べ終わると、お兄ちゃんが話しかけてきた。


「さて、エルシィ。頼みがある」


「はいはい?」


 こう見えて忙しいお兄ちゃん。直接出向くなんて、どんな用事だろうか。


「エルシィは王立高等魔法学園に行くつもりはないのか?」

「ないね」


「…即答だな」


「まぁね。行く意味がわかんないし」


 王立高等魔法学園。それは、ゲームである熱愛☆魔法学園の舞台である。シルスルートのみ話が出てこないが、私は攻略対象に微塵も興味がない。逆に変なフラグが立っても困るから行きたくない。


「なら、名前を貸してくれないか?」


 お兄ちゃんは愉しげな表情をしていた。これはなにかをやらかす気だな。


「いいよ」


 エルシィ=ヒルシュは社交界に出る予定がない。そういうのは弟が得意だから必要もない。社交界的には半隠居の身だし、名前を貸してお兄ちゃんが何かやらかそうと傷つくような名誉もない。

 そもそも社交界にもごく稀にしか出ないから、お兄ちゃんが私に化けても誰も気がつけまい…アイザック以外は。


「ありがとう、妹よ!」


「………自殺志願者?」


 私に抱きついたお兄ちゃんが、一瞬で壁まで逃げた。お兄ちゃんは何かに怯えている。


「エルシィ!ルイス君にハグとキスしてあげて!」


「…はい?」


 あ、ルイスが拗ねてる。


「やきもち?ルイスったら!私はナルシストじゃないからお兄ちゃんに興味はないよ」


「そう…なの?」


「うん」


 何が悲しくて同じ顔をした男に惚れるのか。私はお兄ちゃんを兄的な存在と認識している。


「ドキッとか」

「お兄ちゃんだと思ってるから全くしない」


「権力あるし」

「興味ない」



「「…………………」」



 ルイスがお兄ちゃんに微笑んだ。どうやらお兄ちゃんは無害だと判断したらしい。


「すみませんでした、お義兄様」


「うん、色々釈然としないけど助かったからいいか。目的も達成したしね。じゃあ今日は失礼するよ。気が向いたら城に遊びにおいで、エルシィ。もちろんルイス君と一緒にね」


 こうして、お兄ちゃんは帰っていきました。これは強制力ってやつなのかな?私は絶対学園に行かないし。

 しかし、お兄ちゃんがヒロインってことはジャンルがベーコンレタスに??


 あまり深くは考えないことにしました。

 こうして、残念な悪役令嬢へと話は繋がっていくのです。

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