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狩り…の、はずが……

 さて、そろそろ狩るかなと思ったら、なんだか様子がおかしい。森を抜け、平原に出たものの…雑魚にあわないのだ。


「…ルイス、いつでも結界に籠れるようにしておいて。なんかおかしい。全員、すぐ戦えるように…!」


 地面から巨大な…蛇!?いや、アースドラゴンか!ドラゴンといいつつも知性は低くトゲトゲした蛇みたいな魔物だ。こいつのせいで平原から魔物が逃げたらしい。


「ルイス!」


「うん!」


 新人にこいつの討伐は無理だ。敵の注意を引くためにドカドカと足音をたてて走る。

 ルイスが結界を展開してアースドラゴンからの攻撃を防ぐ。流石はルイス。


「エルシィさん!?」


「生態系を崩したら困るから、一掃するわ!」


 聖剣を出そうとしたら、服が反応した。あれ?尻尾が出たよ??ふっさふさだね。

 まぁいいや。とりあえず倒そう。地面に聖剣を突き立て、一気に水を注いだ。穴から飛び出るアースドラゴンを切るだけの簡単なお仕事です。


 サクサク切っていく。アースドラゴンもなかなか美味しい。しかし、数が多いな~。でも疲れないし普段より素早く動ける。これはもしかせずともルイスの服についてる魔力付与の効果かな。

 ん!?地下から何か…来る!!


「エルシィ、下!!」


「!!」


 ルイスの声よりも早く、瞬時に退避していた。


「ギャアアアアアアア!!」


「アースドラゴンクイーン!こいつのせいで増えてたのか!」


 卵も自分も水びたしにされてクイーンはお怒りです。私もお怒りですよ。今日は猪肉が食べたかったのに。アースドラゴンクイーンは腹がでかくてドラゴンぽい奴です。ちなみにキングはいません。クイーンと言いながら雌雄同体です。


 怒りのままにアースドラゴンクイーンに頭突きをした。聖剣?まだ地面に刺さってます。喚べば来るけど、その隙にかじられたらやだし。




 私に頭突きをされたナニかがパーンと弾けました。





「るいすぅぅ…」


 とりあえず殲滅したのでルイスの元に帰還したのですが、ショッキング映像的なエルシィです。血と肉片まみれであります。


「エルシィ、すぐ綺麗にしてあげるからね!」


 ルイスの浄化魔法であっという間に綺麗になりました。この魔法、便利だな。でも消えた汚れはどこに行くんだろ。


「まだまだ改良の余地があるね。服が無事でも顔とか出てる部分がベトベトに汚れるのは問題だ」


「それより、これ身体強化に防護結界に…どんだけ術式付与したの!?せめて身体強化は教えておこうよ!そしたら頭突きはしなかったよ!」


「ごめんよ、エルシィ。でも基本的にエルシィは『習うより慣れろ』だからマニュアル作っても見ないじゃない」


「………次からは見ます」


「なら、今度からは作ります」


 魔術師の新人さんが驚愕していた。


「1枚の服にこれだけの付与…」

「なのに問題なく起動している上に魔力ロスがないなんて…」


「ルイスは天才だからね」


 彼女達は頷いた。ルイスに尊敬の眼差しを向けている。普通魔力付与は一種類のみだ。複数だと使える人間が限られるし、どんな影響があるかがわからないから。ルイスは多属性持ちだから、その辺りを感覚的に理解している。正しく天才魔縫術師だ。



「ところでエルシィ、なんでまだ臨戦態勢なの?」


『え』


 流石はルイス。察しがいい。尻尾がパタパタと揺れた。


「うん、収穫に来るんじゃないかと思って」


「グルアアアアアアア!!」


「ルイス、結界」


「うん」


「エルシィさん、無茶だ!」


「大丈夫、大丈夫」


 空から降りてきたのは、ウッドドラゴン。木の様な鱗を持つドラゴン種で、さっきのアースドラゴンを好んで食べる。そして、養殖もどきをする迷惑な生き物だ。こいつは成体だね。5メートル級なのでドラゴンの中でもでかいかな。


 地面に転がるアースドラゴンの残骸をみて、ウッドドラゴンは怒り狂った。


「人間の小娘!ワシの獲物を横取りするとは何事だ!!」


「ここは人間の領地だ。正確には我が家の領地。人の土地に放置したから駆除されたのだ。お前のせいで人が死んだ可能性もある。文句を言われる筋合いはない」


 ここは地図上、ヒルシュ領です。訴えて勝つぞ!


「人間ごときが生意気な!」


 キレたウッドドラゴンの尻尾を回避したら、ルイスの結界をかすめた。しまった、ギリギリ射程内だったか!


「ルイス!?」


「大丈夫!」


 ルイスの言う通り、結界に揺らぎはない。ルイスも平然としている。

 新人もいるしさ?穏便に済ませてやろうと思ったが、気が変わった。


 瞬時に私はウッドドラゴンに踵落としをおみまいした。


「ガッ!?」


 脳震盪を起こしたところで、ウッドドラゴンをボコボコにしてやった。格ゲーの嵌め技並みの連打である。


「グッ、貴様何者だ!?」


 問いかけを無視して殴る蹴る。

 現在、推定30コンボ。


「ぐうう…人…獣人…?強い……強すぎる…」


 問いかけを無視して殴る蹴る。

 現在、推定85コンボ。


「ゆ、許してぐはっ!!」


 無視して殴る蹴る。

 現在推定125コンボ。


「ごめんなさ…ぐああっ」


 コンボ数が200を越えたところで、ウッドドラゴンが謝罪した。


「あ?」


 ようやく手と足を止めた。怒りと殺気を混ぜた闘気を容赦なく浴びせながら睨みつける。


「…ヒィッ」


 物理的にボコボコのベッコベコにされたウッドドラゴンは怯えていた。

 残念、もう遅いよ。


「ごめんで済んだら騎士はいらん!貴様は私のルイスを殺そうとした!ルイスを傷つけるやつは許さない…!結界が無ければルイスが死んでいた可能性もある!ルイスを殺そうとしたということは、私に殺される覚悟があるということだ!苦しみぬいて死ぬがいい!!」


 怯えて丸くなる生き物には、すでに最強種族たるドラゴンの威厳などなかった。だが私はルイスを傷つけるモノ、殺そうとしたモノに容赦しない。


「…エルシィ」


 またウッドドラゴンを殴ろうとしたら、ルイスが話しかけてきた。


「なぁに、ルイス。結界を解いたらダメだよ、危ないよ。怪我はしてない?大丈夫?ルイスに危害を加える愚かな生き物なんか、私がすべて滅するからね」


 ルイスに手を伸ばしたら、ルイスは私の手に頬擦りしてきた。仔兎様、本日はデレdayですか!?


「今の僕はそう簡単には死なないよ。エルシィが悲しむから、きっちり魔具で自衛してる。だから、そんなに怯えなくて大丈夫」


「………………え?」


「僕はちゃんと、エルシィのおかげでこうして生きている」


 ルイスに抱きしめられた。心音が聞こえる。ルイスは生きてる。震えているのは……わたし?


「ふ……うわああああああん!!」


「よしよし」


 ルイスの心音を聞いてホッとしたら泣けてきた。泣きだした私を、ルイスは根気強く慰めてくれた。


 そしてようやく泣き止み周囲を冷静になって見てみたら…


 大量のアースドラゴンの死骸。後で回収しなくちゃね。とりあえず後ででいい。

 怯えるウッドドラゴン。もはや逃げる力もない。これは別にいい。後でとどめを刺すだけだ。


 問題なのは、新人さん達も怯えきっていたことだ。完全にやらかしてしまった。どうフォローすべきだろうか…

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