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嫁の実家には、多分妖精さんがいる

「エルシィちゃん、埃っぽいかもしれないからちょっと掃除してから……あら?」


 客室の窓は開いていた。埃っぽさなどなく、愛らしいレースの調度品で統一された乙女部屋だった。

 赤いリボンがアクセントで、真っ白なレースで溢れている。ルイスが服を売ってたお店みたいだ。

 しかも、フリフリの愛らしいワンピースがベッドの上にあった。ヘッドドレスとスリッパ、ショールまである。


「エルシィちゃんに似合いそうね!着てみてくれないかしら!あ、ルイスの部屋からもっと持ってくるわね!」


「ええ!?」


 何故ルイスの部屋!?お義母様にその後あれこれ着せられた私ですが、結局最初のワンピースになりました。白いレースが清楚で、着心地がよくゆったりしていたからです。


「エルシィちゃん、可愛いわ……」


 お義母様は娘がほしかったそうで、ご満悦である。


「ありがとうございます」


 ふと視線を感じたら、ルイスがちょっとだけドアを開けて部屋から見ていた。しかしルイスは私に気がつくとすぐドアを閉めてしまった。


「あら、ルイスったら…エルシィちゃん、お義母様が美味しいご飯を作ってあげるからね」


「…ありがとうございます」


 逃げたルイスにしょんぼりした私を、お義母様が慰めてくれました。お義母様のお手伝いをしようとしたのですが、今日はお客さんだからゆっくりしていてと客室に戻されました。


 客室には、ティーセットと大好きな桃のタルト。あれ?さっきはなかったよね?紅茶はルイスのブレンドだった。

 さらにベッドの上には私が好きな恋愛小説の新刊。机には好きな花が飾られている。これもさっきまではなかったよね?


「……至れり尽くせりとはまさにこの事」


 タルトと紅茶は美味しい。小説も面白いけど…私はなんだか寂しかった。


「ドウシタノ?」


 確かこの子はルイスの精霊さんだったはず。つまり、この子を説得すればルイスが出てくるかもしれない!


「ルイスがいなくて寂しい。ルイスが足りない」


 駄目だ、説得以前に悲しくなってきた。


「ルイスがほしい……」


 ポロポロ涙がこぼれる。


「ナカナイデ!」

「ルイスハヘタレナダケ!」

「ルイスヘタレ!」

「エルシィナイテルッテイットクネ!」


 何故だ、精霊さんが増えた。精霊さんは分裂する生き物だったっけか。そしてルイスがなんだか落とされている。


「ルイス、私が嫌いになったのかな?」


『ソレハナイ!!』


 全員から力強く否定された。


「ほんとに?」


『絶対ナイ!!』


 やはり力強く否定された。


「ルイス、ヤキモチヤキ」

「エルシィ、カワイイスキダカラ、ボクラ二ナカヨクスルナッテイッタ」

「ルイス、ケチケチ」

「エルシィ、スキスキ」


 そうなのかな?嫌われてないのかな?でも、きっと嫌われてないからお茶を用意したり、精霊さん達を来させたんたよね、多分。


 余所見をしていたら、テーブルの菓子が山盛りになっていた。


「……………妖精さんがいる」


 この部屋には妖精(ルイス)さんがいる気がした。そういや、昔も泣いてる私にお菓子をたくさんくれたっけ。しかし、妖精(ルイス)さんがいると指摘すると、逃げる気がする。というか、私に感知させないとかすごすぎる。今度どうやったか聞こう。


「……たくさんあるから皆で食べよっか」


「ワーイ」

「ナカマヨンデクル!」


 精霊さん達のおかげで少し浮上しました。







「エルシィちゃん、ご飯よ~」


 お義母様に呼ばれて夕飯をいただくことになった。お義父様も帰宅していて、ルイス以外の皆で夕飯となった。


「エルシィちゃん、たくさん食べてね」


 どれも美味しいけど、特にこのしょうが焼きが味が染みてて美味しい。あ、スープも好きな味だ。


「ルイス、これおいし……」


 そこで、ルイスが居ないことに気がついた。美味しかったご飯が、急に味気なくなる。しかも、ルイスのご飯の味だから余計に切ない。


「す、すいません!ちょっとトイレ!」


 泣きそうだったので二階の廊下にダッシュして隅っこで丸くなった。


「ふえぇ………」


「エルシィ?」


 心配したシルスが来てくれたらしい。優しく頭を撫でてくれるシルス。


「うっ、えっく…」


「痛ってえぇ!?」


 くわあああああんという音がした。床でくわんくわん鳴る金ダライ。頭をおさえて倒れているシルス。真ん中がへこんでいるので、恐らくシルスの頭に直撃したのだろう。


 ふわり、と私の手にタオルハンカチが落ちてきた。こんなもんいらん。こんなのくれるぐらいなら、ルイスが抱きしめてくれたらいいのに。


「うっえっ……」


 情けないけどぐしゅぐしゅ泣く私。精霊さん達がよしよししに来てくれたらしい。皆優しい。


「…エルシィ、骨は拾ってくれよ」


「…………………は?」


 何かを決意した様子のシルスは、ルイスの部屋のドアを破壊する勢いで殴った。


「この、馬鹿ルイス!!エルシィをこんなに泣かせて、何をぐじぐじしてやがんだ!!テメェの事情なんか知ったことか!!これ以上エルシィを泣かすなら、俺がエルシィを貰うからな!!」


「……………え?」


 普段から温厚なシルスが、ガチギレした。

 シルス、私の意思は?

 混乱する私を抱き上げようとするシルスを見上げる。


「エルシィ!エルシィは僕のだ!兄さんになんかやらない!!」


 ルイスがシルスの手を振り払い、私を抱きしめた。


「なら、泣かすんじゃねぇよ!!」


 ルイスの頭にシルスの容赦ない拳骨が炸裂した。あれは痛い(過去何度も体験済み)


「いったぁぁぁ…」


「とりあえず、ちゃんとエルシィと話せ!ぐじぐじすんのはかまわねぇが、泣かすんじゃねぇよ!!」


 それだけ言うとシルスは一階に行ってしまった。これはシルスがくれたチャンスに違いない!


 私は、ルイスにためらいなく土下座した。


「うちに帰ってきてください!!」


「は?え?」


「ルイスがいなきゃやだ!ご飯だって『エルシィは美味しそうに食べるね』ってルイスが笑ってくんないと味気ないし、寂しいよおおお!!うわああああああん!!」


「エルシィ!?な、泣かないで!」


「泣かしたのはルイスだもん!ルイスが悪いんだもおおん!!うああああああん!!」


 説得するはずが、私は完全にだだっ子と化していた。ここでも女子力の低さが現れている。


「ぼ、僕が悪かった!何でもするから許して!いや、許さなくていいから泣き止んで!」


「じゃあ、ずっと一緒にいて!あと、添い寝とお風呂!」


「うっ!?わ、わかった!」


「毎日」


「毎日ぃ!?えっと…」

「ルイスはやっぱり私に飽きちゃったんだ…」


 泣き止んだが、また泣きそうだ。


「飽きてないから!大好きだから!僕のせいでエルシィが好きなことを出来なくなったと思ったら申し訳なくて…!」


「なにそれ」


 ルイスはシルスから私がルイス死亡の未来改変のために頑張った話を聞き、本来女子らしいものを好む私に対価を払わせルイスは何も知らずにいたことを恥じた。さらに私に相応しくないと考えて今回の家出に至ったらしい。


「ルイス、ひどい」


「うん、ごめん」


「そんな私が勝手にやらかした事で責任感じて離れるなんてひどい!!」


「そっち!?」


「ルイスのばか!私はルイスが大好きだから、生きてて欲しくて自分でこの道を選んだの!そこに後悔なんてない!」


 もう少し花嫁修行もすべきだったという後悔はあるが、そこは棚上げしておく。


「エルシィ…」 


 ルイスがそっと私を抱きしめて……キスしてくれるんだと目を閉じたが、キスが来ない。目をあけたら、ルイスは固まっていた。やたら顔がひきつっている。ルイスの目線を追うと、階段で覗いている義父様、義母様、シルスがいた。


 照れ屋さんなマイハニーが荒ぶったのは言うまでもない。

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