交渉と小悪魔様
鼻血噴水事件により少し時間がかかりましたが、無事に書類ができました。準備は万端!また目隠しをして、いざ謁見の間へ!
ルイスに手を引かれて歩く。うふふ、幸せ~。私、ルイスが手を繋いでくれるなら一生目隠しをしててもいい。
「あっ!?」
そんな邪念を抱いていたら、階段につまづいた。ルイスが支えてくれる。森の香りが近い。ルイスは今日もいい匂いです。
「大丈夫?ごめんね、僕が目隠ししてなんて言ったから…」
「いやいや、大丈夫!私、ルイスが手を繋いでくれるなら一生目隠ししててもいいとか余計なこと考えてたからつまづいたのよ」
「え?」
「あ」
しまった。本音がポロリした。ルイスがなんか震えている。
「ひゃあ!?」
頬に触れたら、熱い。どうやらルイスは赤面しているらしい。見たかったが、私は目隠し中である。
「え、エルシィが望むなら…僕はいつだって手を繋ぐよ…」
抱きとめられた身体から、激しい鼓動を感じる。嬉しい…ルイスが私にドキドキしてくれている。
「ルイス……」
そっと距離をつめるが、ルイスは震えるだけで動かない。こ、これは……イケる!私はそのままルイスにキスしようとした。
「イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ、いい加減にしろぉぉぉ!!じゃなかった!いい加減にしてくださぁぁい!!ここは敵陣みたいなモンなんスよ!?それをもう暇さえあればイッチャイチャ、イッチャイチャ…羨ましいから家でやってくださいよぉぉ!!ちくじょぉぉ!!」
「「すいませんでした」」
ルイル君が多分泣いた。なんか、アイザックとシルスからも悲しげな気配がする。本気ですまんかった。なにせリア充爆発しろと地味にラブラブバカッポーに呪いを送っていた私。モテない残念脳ミソ筋肉売れ残りガールだった私である。その気持ちは大変よくわかります。家でがっつりやります。
ようやく謁見の間についたらしい。
「お初にお目にかかる。国王陛下で間違いないだろうか」
アイザックにならい、私達も礼をとった。見えなくとも動きはわかる。しかし、相手は多分全裸のおっさんである。見えないが、壮絶にシュールな絵面であろうことは想像に難くない。後にアイザックが礼をとったら股間が目に入り、拷問だったと切なげに語った。珍しく奴が涙目だった。さすがに可哀想だった。それは見たくない。
ルイスから国王は豚みたいな油ギッシュなおっさんだったと聞いた。目隠しを提案したルイスに心から感謝した。
「…そうだ。そなたらは何故服を着ておるのだ…はっ!ついにあの悪魔が城からいなくなったのか!?そなたらが追い出してくれたのか!?」
「…いえ、残念ながら違います。ジェリー」
ルイスが穏やかにジェリーちゃんを呼んだ。ジェリーちゃんは私の腕からルイスの側に移動した。
「ハイ、父様」
「…………!?すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません」
コメツキバッタ並みの高速土下座をする王様。
「うちの子を誘拐したそうですね」
「ゆ、ゆうかい!?」
「はい。この子は我が国で賊から村を護っていました。しかも、稀少な固有種で人語も解する子です。逃がした賊に拐われたみたいなんですよね」
「……知らん!わしは何も…」
「ジェリー、ちょっと『調教』が足りなかったかな?」
「ソウデスネ」
ジェリーちゃんがにゅるりと王様に近寄ろうとした。
「ひいぃっ!?な、なんでもする!!なんでもするからそれだけは許してくれぇぇ!!ひいぃっ!?」
ビシッとジェリーちゃんの触手鞭が王様に当たった。
「父様ヘノ、口ノキキカタガナッテマセン。再調教シマス」
「ひいいぃっ、お許しを!御慈悲をください!お願いいたします!!」
「じゃ、これにサインしてね」
悪魔の笑みだった、とシルスは後に語った。小悪魔なルイスも素敵…!
「これは…こんな……」
「父様ノ言ウ通リニシナサイ」
「はいぃ!!」
「契約完了。こっちにも書いてー」
「喜んでぇぇ!!」
「はい、どーも。これは僕特製の契約書でね?約束を破ると、死神型の使い魔が殺しにくるから」
流石はルイス!頭いい!!天才だね!!
「あ、今回の件、我が国に苦情を言っても無駄だよ。スライム1匹に男が全員全裸にされたあげく調教されて城が落ちたなんて恥だから言えないだろうけど。余計な事したら、またジェリーが遊びに来ちゃうかもね」
「しません!なーんにもしません!!2度と関わらないようにいたします!2度と関わらないでください!!忘れます!生きててすいませんでしたぁぁぁ!!」
「なら、よし」
ルイスはあっさりと王様から欲しいものをもぎとった。
「…悪魔か」
「悪魔だな」
「…胃が痛い」
アイザック、ルイル、シルスはなんもしてないのにお疲れモードです。悪魔?小悪魔ですよね。仕事もできるルイス、最高です。
「ルイス、危ない」
天井から黒づくめの男達が、落ちてきた。ルイスを庇い、聖剣を展開する。危ないのでルイスは抱っこしておく。聖剣の魔法であっさり麻痺する刺客達。
「ジェリーちゃん、ヤっちゃえ」
「い、いやあああああああ!!」
可哀想な刺客達は、ついさっき王様を助けに来たんだって。私たちが王様に危害を加えたと考えて襲いかかったんだって。本当に運が悪かったね。王様は何にもされてないのに粗相をしていた。調教のトラウマが蘇ったらしい。
こうして、私達は無事に自国に手土産持参で帰りました。帰りもドラン君にのせてもらおうとしましたが、アイザックが全力で拒否したのでしかたなく転移してあげました。
数日後、例の隣国では虹色スライムが奉られるようになり『エルシィ=ヒルシュ』も怒らせてはならないと法律まで制定されたそうです。
どうやらルイスが私と勘違いされた結果らしい。ルイス、確かに中性的だもんね。そういうわけで、私が呼び出されました。
「エルシィちゃん、何やらかしたの?おじ様怒んないからいってごらん?」
「私は無実です!」
本当に(私は)何もしてません。犯人は主にルイスとジェリーちゃんです!笑ってるアイザックにムカついて、ついシャイニングウィザードをかましてしまった私は悪くない。
そのせいで、きっと隣国の王様もボコられたに違いないと判断されたのは明らかに失敗でしたけども。
「それよりおじ様、これどうしよう」
実は隣国から帰ってきたら、ジェリーちゃんが重くなってた理由が判明した。ジェリーちゃんはお腹に貴金属を大量に隠していたのだ。
「…まあ、返せって言われなかったら掠奪された村もあることだし、ヒルシュ領にあげちゃえば?」
「そうします」
多分関わりたくないからでしょう。返せって言われませんでした。なので、貴金属はヒルシュ領の村の防壁修理や食料購入に使われました。
その後隣国の王様はスライムが…スライムが…とうなされるようになったが、掠奪をしなくなり、それなりにいい政治をするようになったとか。めでたし、めでたし?




