ランチタイムと告白大会
お腹がすいたなぁと思ったら、なんとルイスが昼食を用意してくれたとのこと。なんという女子力…いや、嫁力!見た目だけ整えても、私はまだまだ…いや全くルイスには及ばない…!!
町外れの丘はデートスポットで、夕方や夜にカップルが来ると冒険者仲間が言っていた。しかし、昼だからか今は誰もいなかった。風が気持ちいい。
「はい、エルシィ。熱いから、気をつけて」
淹れたての紅茶を渡される。茶葉とポットも持参してました。ルイスの紅茶は最高で…あれ?
「今日の紅茶はいつもと違うね」
「今日は特別だからね。奮発したんだ。違いをわかってくれて嬉しいよ」
いつものも好きだけど、いい香りがする。
「いつものルイスが作るブレンドハーブティも大好きだよ」
「……うん。エルシィはいつもさりげなく僕の努力を認めてくれるよね…嬉しいな」
ルイスが笑ってくれた。それはとても幸せそうで、私も自然と笑顔になった。
「ルイス、いつもおいしいお茶とご飯をありがとう」
「ああ、冷めないうちに食べて!温かいほうが美味しいから!」
ルイスは私の前に重箱弁当を並べた。やたら今日、豪華だなぁ。食べるのもったいないぐらいに盛りつけも完璧だ。
「お、美味しい!!」
この甘いだし巻き…絶品!!いやいや、こっちのピーマンの肉詰めも…肉汁が……いやいやいや、この肉巻きおにぎりもうますぎる!!
夢中で私はお弁当を平らげた。どれも私の好物で、野菜もたっぷりな素晴らしすぎるお弁当でした。
「エルシィ」
ルイスが緊張した表情で話しかけてきた。
「何?」
「今日の弁当には、僕ができる全てを込めたんだ。技術も、心もありったけを詰めこんだ」
「…うん」
確かに、普段のお弁当とは違った。ルイスはどうしたのだろうか。
「エルシィが望むなら、毎日作るよ。エルシィは勇者様で、聖女で…僕の稼ぎは必死に休みなく働いても、君の半分にも満たない。いや、1割程度しかない。君ほど僕は強くないどころかひ弱だし、君みたく綺麗じゃなくて容姿は平凡だ。男女問わずモテないし、性格も悪くてつり合わない。君のように誇れるものなど何もない、つまらなくて心の狭い人間だ。エルシィ、君についていけないのが悲しかった。兄さんみたいに僕は強くない。危険な場所に行くのを見送るのだけなのが、辛くて仕方なかった。でも笑顔でお土産と話をしてくれるのが楽しみで、どうしたら君を引き留められるか…どうしたら僕が君の帰る場所になれるかなって、いつだって考えていた。君が魔王を倒した報酬に僕が欲しいと言ってくれたと聞いて、僕がどれ程嬉しかったかわかるかい?都合のいい夢なんじゃないかと何度も何度も父に聞き返したよ。今の生活は夢みたいに幸せだ。これからも君のために毎日美味しいご飯を作るよ。可愛い服も作る。君が快適に生活できるよう全力で努力する。なんだってするよ。だから、結婚…はまだできないから、婚約してください!!お願いします!!僕にこれからも君と過ごせる約束をください!!」
ルイスに土下座されました。土下座?どげざ…え?
「え?」
あたまがまったくついていけてませんよ??こんやくってなんだっけ?なんで私はルイスにどげざされてるの??
「これ、給料3ヶ月分の婚約指輪なんだ!受け取って!!」
こんやくゆびわ?私は首をかしげた。こんやく、ゆびわ……?
「つけてあげる…よく似合うよ、エルシィ」
「ありがとう?」
左手に指輪がはめられた。よくわからないが、誉められたからへらりと笑った。
「エルシィ、それはオーケーってことなんだよね!?僕と婚約してくれるんだよね!?そうだよね!?」
なんか思考がまとまんないけど、ルイスがしたいならそれでいいと思う。
「うん。ルイスがしたいならいいよ」
「やったぁぁ!!愛してるよ、エルシィ!!」
「うん……ん?」
あいしてる……愛してる!?私の脳みそは、ここに来てようやく再起動した。
「こここここ、こんやくうぅ!?え!?なんで!?ルイスはつまらなくなんかないよ!?えええええええ!?」
「エルシィ…だめ?婚約してくれるんだよね?」
ルイスが不安そうだ。とんでもなく混乱しているが、確かなことはひとつだけ。
「婚約、お受けします。嫁らしいことは何もできないけど…ルイスのお嫁さんになりたい、です」
「エルシィ!」
ルイスに抱きしめられた。たくさんキスをされる。
「る、ルイス…くすぐったいし、恥ずかしい…」
「ああ、夢みたいだ」
ルイスは聞こえなかったのか、頬ずりをしてくる。恥ずかしいが、幸せだ。
そういえば、さっきルイスが言ってた中に気になる部分があった。聞くのが怖いが、聞かねばなるまい。
「ルイス、私が魔王を倒した報酬にルイスと暮らしたいって望んだのを知ってたの?」
「うん。正確には『私の夢は、大好きなルイスと穏やかな家庭を築くことです。だから、欲しいのはルイスだけ。爵位もいりません。勘当してください。ただ、ルイスと穏やかに暮らしたいのです。どうか私は無きものとしてください。褒美には、許されるなら…ルイスが欲しい』って言ったんだよね?」
私は頭を抱えた。おじ様ぁぁぁ!!ルイスのお父様ぁぁぁ!!ルイスには上手くぼかして言っとくねって言ってたよね!?何スーパーどストレートに伝えてるんだぁぁ!!しかも一言一句間違ってないよ!!完璧だよ!!
「……言いました」
ルイスは嬉しそうに頬を染めた。え?待て。ということは、ルイスは報酬として側にいたの?幸せの絶頂から突き落とされたような気分になる。
「エルシィ?」
「ルイスは…報酬として側にいたの?」
声が震える。違うと言って欲しい。
「違うよ。うちの両親と兄さんは僕がエルシィのストーカーになるんじゃないかと本気で心配してたから、泣きながらよかったって喜んでくれたよ。兄さんもエルシィを逃がさないよう頑張れって言ってくれた。僕も嬉しすぎて頭がおかしくなりそうだったんだよ。僕は心から望んで、君と暮らしていたんだ」
「そっか」
よかった。ホッとした。
「実際、夢みたいに毎日幸せだったよ。でもね…」
「ん?」
「夢みたいに幸せでも、もっと欲しいと願ってしまった。ちゃんとした関係と約束が欲しくて、君にもっと触れる理由が欲しくなった」
「ルイス…」
これってさ、これってさ?鈍い私でも期待してしまう。
「エルシィ、君が好きだよ。正式に婚約して、僕の恋人になって、成人したら結婚してください」
「は、はい。私は…私もルイスがしゅきだよ。あの、嬉しいです。もっと嫁力が上がったらプロポーズするつもりだったんだけど、こんな私でもよければ、ぜひお願いしましゅ」
ところどころ噛んだ。死にたい。私はどうしてこう、肝心なとこでダメなんだ!?
「…頭がおかしくなりそう。すごく嬉しい」
ルイスは私をぎゅうぎゅう抱き締めて頬擦りする。噛んだ残念なお返事でも、彼は満足だったらしい。
「エルシィの花嫁修行は僕のためだったんだね!邪魔しなければエルシィからプロポーズされてたのかぁ…ちゃんと協力すればよかった」
「…ルイス」
「ん?」
「邪魔してたって何?」
「あ」
ルイスは真っ青になって冷や汗をダラダラ流す。いいから話せと無言で圧力をかけたら、あっさり白状した。
「…エルシィとちょっとでも長く暮らしたくて、精霊達に邪魔するようお願いしてました。エルシィが僕が欲しいと言ったのは、僕の家事能力を学ぶためだったんだとショックでした」
「う…」
これは私も悪いので責められない。勇気を出して、嫁力皆無だろうともプロポーズをするべきだったのだろう。
そういえば、家事を教えて欲しいと言ったときのルイスはどこか悲しそうだった。傷つけてしまったのだろう。
「…ルイス、目を閉じて歯を食いしばれ」
「うん」
ルイスは素直に応じた。勇気を出して、彼に触れる。重なったルイスのくちびるは、プルプルでした。微かに甘い花の香りがした。初めてのキスは、女子力完全敗北の味がしました。
ようやく両想いになりました。シルス(ルイス兄)は特にルイスのストーカー化を心配しており、積極的にエルシィに群がる悪い虫を排除していました。
元来鈍いですが、それもあってエルシィは自分が非常にモテることを知りません。
蛇足として、この世界では強い人が男女問わずモテます。なのでルイスはモテない部類になります。




