甘やかなとまり木《3》
――行方不明?
周囲から一斉に声が上がる。驚きと、まさかという疑いの混じった動揺が室内を満たした。
「どういう状況で? 前後関係はわかっているのですか」
私の質問に、文官は震えながら答えた。
「滞在先の館が火災を起こしたそうです。あまりに急に燃え上がり、消火する暇もなくあっという間に館中が炎に包まれたそうですから、不始末による火災とは思えません。何者かが周到に準備をして火を放ったのでしょう。館の者たちは逃げ出すだけで精一杯で、陛下をお助けに行くこともかなわなかったと……護衛の者やシラギ様ともども、そのまま行方がわからなくなり……」
ひっと侍女が息を呑んだ。私の身体も冷たくなっていく。火事が起きて行方不明って、それはつまり……。
「旧派閥の……レジン卿のしわざですか!?」
恐怖と怒りに震えながらルーチェが低く言った。文官はわからないと首を振った。
「レジン卿も必死に陛下の行方をお探ししているとのことです。すぐそばに川が流れておりますし、もしや火を逃れて飛び込まれたのではと……」
テルミナの領主が、現在の旧派閥の中心人物だ。国内最大の敵と言っていい。そんな人物の館に滞在した公王が火災に遭って行方不明――少々出来すぎ、かもしれない。
「それで川は捜索しているのですか!? 下流の土地から何か連絡は!?」
「随行の者たちはどうしているのです!?」
次々質問が飛び出すが、文官だって急ぎの一報を受け取ったばかりだ。まだ詳しいことは何もわからない。ほとんどまともに答えられなかった。
「みんな、落ち着きなさい」
そっと深呼吸し、震える指を握り混んで隠して、私は騒ぐ人々をたしなめた。
「こちらが冷静さを欠いては、余計に混乱が増すばかりです。落ち着いて状況を確認しましょう。この話を知っている人はどれくらいです? はっきりしたことがわからないうちは、できるだけ内密にすべきですが」
「さ、さようにございますね……私は報せを受け取ってまっすぐこちらへ参りましたから、まだ他には言っておりません。しかしこうした話はすぐ伝わってしまうかと」
文官の言葉にうなずく。使者が既に他の人に言っているかもしれないし、でなくてもじきに現地からの噂が届くだろう。完全秘匿は無理として、パニックにならないよう対策を立てるべきか。
「あなた方は戻って、できるだけ騒ぎにならないよう周りを抑えてください。可能な範囲でかまいません。それと、ナディオに今すぐ来るよう伝えてください」
文官たちに指示を出して退出させる。侍女たちは不安そうに仲間同士であれこれしゃべっていた。こんな時、彼女たちは主である私を励まし支えるのが役目なのだが、室内でいちばん落ち着いているのが私という状態だ。自然、励ますより頼る側になってしまった。
「公妃様、陛下はご無事でしょうか」
「一体何者がこのような恐ろしいことを」
私に聞かれてもどうしようもないことを言ってくる。何かしゃべってないといられないのはわかるが、もう少し落ち着いてくれないかな。
「そのようなことを申し上げて、公妃様を不安にさせるものではありません」
ルーチェだけはなんとか自制心を発揮して、リーダーらしく侍女たちをたしなめた。
しかしそれでみんなが黙り込むと、今度は沈黙が重苦しくてかなわない。動いていれば少しはまぎれるだろうと、私は用事を言いつけることにした。
「貴族や役人たちの前に出なければならないことも考えられます。いつそうなってもいいように、準備をしておいてください」
公妃というものは、緊急時だからと部屋着のままスッピンで駆けつけるわけにはいかない。いつでも人前に出られるよう、着替えて待機しておくくらいがいいだろう。
言われて気がつき、あわあわと侍女たちが動き出す。それを眺めながら内心焦れて待っていると、呼び出した相手がようやくやってきた。
「お呼びとうかがい参上いたしました」
砂色の髪の男がテンションの低い声で言って、私の前に膝をつく。私の配下にある密偵たちのまとめ役だ。まだ三十そこそこと若いが、とても有能で頼りになる。ナディオは公王行方不明の情報をすでにつかんでいたようで、状況を簡単に説明しても驚くようすはなかった。
「あなたたちに頼みたい仕事はふたつです。まずひとつは、できるだけ現地の情報を入手すること。それからもうひとつ、噂が広がり始めたら、逆の噂を流してください」
「逆、ですか」
「ええ。陛下はご無事で、すでに帰路についていらっしゃると。噂を抑えられないなら、どれが真実かわからないようにして、パニックが起きるのを防ぎましょう。混乱はしますが、絶望だけが広がるのは困りますからね」
「……公妃様は、陛下はご無事とお考えですか?」
これといって特徴のない顔立ちの中、目が思慮深い色をたたえて私を見つめている。さあ、と私は首を振った。
「まだ何もわかりません。ですが、旧派閥が陛下の暗殺を企んだにしては、あまりにお粗末だとは思いませんか? これでは疑ってくれと言わんばかりです」
「さようにございますね」
「むしろ私の方が聞きたいのですが……あなた、陛下から何か聞かされてはいませんでしたか?」
疑いよりも期待を込めて尋ねたが、ナディオは頭を下げて否定した。
「いえ、わたくしには、何も」
「……そうですか」
なーんか怪しいなあと思いながらもそれ以上は追及せず、できるだけ正確な情報をと重ねて命じてナディオを下がらせる。彼らはちゃんと働いてくれて、じきに私の知りたい情報を次々届けてくれた。
「館の住人に犠牲者は出ていないのですね?」
「はい。夜間のことでしたが、気付いた者が館中に知らせて回ったので、避難が間に合ったようです」
「行方不明は陛下と近習の者ばかり、と」
「ご寝所の辺りが最も火勢が激しく、随行の者たちも近付くことができなかったそうです」
「レジン卿のようすは?」
「必死になって捜索の指揮を取っておいでだそうです」
「これ幸いと喜ぶわけでもなく?」
「ここで陛下が亡くなったとなれば、レジン卿はむしろ立場を悪くなさいます。完全なる事故であり、暗殺の企てなどなかったと証明されても、重大な過失であることは否定できません。よりにもよって陛下のお命を奪うような過失を犯したとなれば、今後中央で政権を握ることなどかないません。他の貴族たちが黙ってそれを許しはしないでしょう」
「そうね」
今誰よりも追い詰められているのは、レジン卿かもしれない。あまりいい印象のないおじさんの顔を思い出す。気の毒とは思わないが、ざまあと思う余裕もなかった。
「公妃様は冷静でいらっしゃいますのね。陛下がご無事でいらっしゃるとの、確信をお持ちなのですか?」
私が落ち着いて対処しているものだから、侍女たちの動揺も収まってきた。期待のこもる質問に、できればそのとおりと答えて安心させてあげたいけれど、今の段階ではまだうなずけない。
「そこまでの確信はありませんが、まだ遺体発見の報告がありませんからね」
「そんな、不吉なことをおっしゃらないでくださいませ」
いや、そういう連絡がないうちは希望があるんだよと言ったつもりだったんだけどな。
火災現場の捜索って、どのくらい時間がかかるのだろう。小さな民家ではなく大きな館だから、焼け跡から遺体を探す作業は難航するのかも。でもそろそろ、そういった報告が入ってきてもいい頃合いだと思うんだよね。密偵も向かわせているし。
今現在、遺体はひとつも見つかっていない。話に聞くようすだと逃げ後れた人がいてもおかしくない、というより、いない方がおかしいくらいの火事だったのに。
私だって本当は不安だ。今すぐ現地へ駆けつけて捜索に参加したいくらいだ。それを懸命に抑えて、焦るなと自分に言い聞かせる。
知れば知るほど、不自然さが出てくる。そこに希望がある。そもそもあのカームさんが、そう簡単に殺されるだろうか。十分に警戒して乗り込んだ敵地なのに、あっさり火事でやられましたなんて信じられない――信じたくない。
……でも、無事ならなぜ姿を見せないの。
カームさんの馬鹿。無事なら無事だって、早く安心させてよ。いつまで雲隠れしてるのよ。
期待と不安の間で揺さぶられながら、じりじりと情報を待つ日々が続いた。平気そうな顔をとりつくろっていても、食欲は落ちたし夜もよく眠れない。どうしてもやつれてしまい、侍女たちを心配させた。やはりくい止められず噂は広がり始め、市民たちまでが動揺しているらしい。ナディオが私の指示に従って逆の噂を流してくれたので、デマも加わってジーナの街は大混乱だそうだ。
……これ、何か手を打たないと危険かな。混乱に乗じて犯罪が増えたりしないだろうか。騎士団に命じて見回りを強化してもらわないと。
今私にできる限りの手をあれこれ打ちながらさらなる情報を待っていると、珍しく宰相がやってきた。
「このような時に申しわけございませんが、公妃様との面会を求めていらっしゃる方々がおいでです」
部屋に入ってきた宰相は、白髪が目立つ頭を下げて奏上した。見た目は柔和そうな人だが、中身は辣腕の政治家だ。カームさんには内乱時から忠誠を誓い従ってきた人で、もっとも信頼できる相手ではある。が、実はあまり私との仲はよろしくない。別に険悪なわけではないが、私を公妃に迎えることにははっきり反対していたし、今でもいい顔をしていないのだ。カームさんにとって不安要素にしかならないから、というのが理由だった。妃に求められる条件を、私があまり備えていないのでしかたがない。妾にするという話だったら反対も何もしなかったんだろうけどね。
行方不明との報せを受けてから、宰相とは何度も顔を合わせて話をしてきたが、呼ばないのに向こうからやってきたのは初めてだ。面会希望と聞いて、ものすごく嫌な予感がした。そもそもそんな連絡を宰相が取り次ぐ辺りがもう普通じゃない。
「どういった方々です?」
「ダヴィ卿とその夫人、マデラ卿、エルリー卿、他数名の貴族たちにございます」
――うわお。
思わず私は扇を開いて口元を隠してしまった。シャブリエ夫妻と取り巻きたちか。
「何をしに来たのか、会わなくてもわかりますね」
ついため息をついてしまう。どうせあれこれ責めたてられるんだろうな。
「私的な面会ではなく、謁見室で行いましょう。よろしいですか?」
どうせなら堂々と受けて立ってやる。そう言うと、宰相はうなずいた。
「では、支度をして向かいます。用意を頼みます」
「かしこまりました」
退出していく宰相を見送り、私は身支度を侍女に頼んだ。ドレスはいつでも出られるようなものを着ているからいいとして、このやつれた顔をごまかさないと。
化粧を濃いめにして、髪も綺麗に結い直してもらった。身なりが崩れていると、いっそうやつれた印象を与えるからね。敵に弱っている姿など見せられない。
「公妃様、こんな面会お断りになってもよろしいのでは」
髪飾りをつけてくれながら、心配そうにルーチェが言った。
「会いたくないのは山々ですが、会っておかないと余計にうるさくなりそうですからね。それに私が閉じこもって震え上がっているなどと思われるのも癪です。こんな時だからこそ、動じていないという姿を見せるべきでしょう」
鏡で仕上がりを確認して立ち上がる。差し出された扇を受け取り、扉へ向かった。
「……このお姿を見れば、公妃様が十分にご立派な方であることは誰の目にもわかりましょう。最初から認める気のない方々に腹が立つばかりです」
「ありがとう。その他大勢に否定されるより、身近な人がそうして認めてくれることの方が私には大きいです」
誰もから好かれたいなんて思っていない。もともと嫌われ者のいじめられっ子スタートだ。だからバッシングは平気。ほんの少しでも、私を理解して応援してくれる人がいるなら大丈夫。それが大きな励ましになる。
……でも、カームさんがいないと、いつまで耐えられるかわかんないよ。私がここにいる理由はただひとつ、彼の存在だけなのに。だから早く帰ってきてくれないかな。
侍女たちを従えて謁見室へ向かえば、すでに顔ぶれはそろっていた。居並ぶ貴族たちの先頭は、失脚したロットル侯に代わって近頃台頭してきたダヴィ卿。そのそばには奥さんのペルラおばちゃんが、今日もふくよかな身体をキンキラキンに飾りたてていた。余計なお世話だけどシャブリエ家の家計がちょっと心配になるな。
近衛の騎士と記録係の文官、そして宰相が見守る中、私は公妃の座に着席した。主のいない隣の座がなんともさみしく、心細さを覚える。
「公妃様におかれましては、急なお願いに応じていただき恐悦に存じます。我ら一同、いてもたってもおられず馳せ参じました。礼を欠きましたこと、なにとぞお許しくださいませ」
代表してダヴィ卿が口を開く。私は鷹揚にうなずいて先をうながした。
「こたびの騒動におきまして、公妃様はいかなる対策をお考えにございましょうか。いまだ陛下の行方は知れず、混乱が広がるばかりです。これを収めるべきは留守を預かる公妃様のお役目。しかし公妃様はお部屋に閉じこもってほとんどお顔をお見せにもならぬとか。ご病弱な公妃様には、あまりに衝撃が強すぎたことと同情申し上げますが……なにかしら対策は立てねばなりませぬ」
しゃべっているのはダヴィ卿だけだが、全員が突き刺すような目を向けてくる。私はダヴィ卿が口を閉じるのを待って、ゆっくりと答えた。
「対策というのは陛下をお探しすることですか? それとも市民にまで広がり始めた動揺を鎮めることですか? いずれも大勢の人手が動いています。まったく手つかずで放置しているわけではありませんよ」
「承知しておりますが、これといって成果は上がっていないではございませんか。もっと有効な手を打つ必要がございます」
「有効な手とやらに、心当たりでも?」
うなずき、こころもちダヴィ卿は身を乗り出した。
「公妃様にばかりご負担を強いるつもりはございません。正直なところ、まだお若く嫁いでこられたばかりの公妃様には、この事態は荷が重すぎましょう。この私に捜索の指揮権をお与えいただき、すべてをお任せくださいませんか」
私は首をかしげた。
「あなたに?」
はい、とダヴィ卿は頭を下げた。
「公妃様の代わりに、私が事態の収拾にあたらせていただきます。万一陛下がお戻りにならなかった時のことも考えて、あらゆる方面から手を打ちませんと」
……ふーん。カームさんがいなくなった場合の対策、ね。
たしかにそれも考えるべきなのだろうが、この男の口から言われるといかにもきな臭いな。
「捜索ならば、レジン卿が頑張っていらっしゃいます。ジーナの治安維持はもとより騎士団の職務です。あなたにお願いすることはありませんよ」
「これはしたり。主君の無事は臣下全員の願いです。我らにも案じる権利はございましょう」
「権利がないなどとは言っていません。探したいのなら好きにしてかまいませんが、個人的な行動ではなく私の許可を得て名代という立場を名乗る必要はないと言っているのです。私は別に衝撃で臥せっているわけではありませんし、宰相も尽力してくれています。今現在、あなたに名代を頼む理由はありません」
「部屋にこもってろくに対策も立てられずにいらっしゃるのに、ですか?」
非難と嫌味の混じった言葉に、私はにこりと微笑んだ。
「こもるしかないでしょう? 私がうろうろしていては、報せを持ってくる者や指示を受けに来る者たちが困るではありませんか。それとも、人を動かすのではなく私自身に陛下を見つけ出してほしいとでも?」
「……ほう、公妃様は手を打っておいでだとおっしゃるのですね。ならば早く成果を聞かせていただきたいものです」
さらなる皮肉は黙って笑顔で受け流した。何を言われようと、彼に全権をまかせるなんてできない。いくら有力貴族だからって、それは越権行為だ。王宮が中心となって事にあたるのが当然で、第三者にゆだねる話ではない。
普段ならこんなことを言い出せるはずもない。カームさんが行方不明になり、私が王宮を預かっているからごり押ししてくるのだろう。ここで一気に発言権を強化しようと考えたのか。非常時に活躍する姿を見せつけて、既成事実的に権力を掴むつもりか。
舐めるなよ。どれだけ頼りなかろうが、私は公妃だ。カームさんから留守を任されたのだ。好き勝手にさせるものか。
「はなはだ不安ではございますが、そうまでおっしゃるのでしたらいましばらくはお任せいたしましょう。ですが、万一の場合はどうするのか、公妃様はお考えにございましょうか?」
旦那の横からペルラ夫人が口を挟んできた。例のねっとりとした視線で私を見つめている。
「そうですね、あまり考えたい話ではありませんが、その場合はまずお葬式ですね」
「そのようなことはお聞きしておりません」
一瞬イラっとしたな。ぴしゃりと私を叱りつけたあと、ペルラ夫人は再びねっとり言った。
「かねてより危惧していたことが、現実になってしまいました。お世継ぎを儲けられないまま陛下が身罷られることになってしまったらと、それを案じて今までも公妃様にはお話ししてまいりましたが、この事態を迎えてどうお考えなのです? よもやあなた様が女公王として立たれるとはおっしゃいますまい? 歴史上そうした例がないとは申しませんが、その場合公妃も王家の血筋でした。しかしながらあなた様は他国のご出身、それも素性あやしきお生まれです。欠片たりとも資格をお持ちではないことは、承知しておいででしょうね?」
私は閉じた扇を口元に当て、鼻で笑ってみせた。
「ペルラ夫人は妄想と現実の区別がついていないようですね。私よりもよほど静養が必要なのでは? 無理せずすぐ退出してかまわないのですよ」
びきっと顔を引きつらせて身を乗り出しかける妻を、ダヴィ卿がさえぎって強引に下がらせた。
「失礼を……ですが、妻の懸念は臣下一同に共通するものにございます。お答えをいただけますかな」
「たしかに、万一の場合は後継者を選出する必要がありますね。しかし今この場で話し合うことではないでしょう? あなたたちに相談することでもありません」
「我らは代々リヴェロ王家にお仕えしてきた臣下です。他国より嫁がれてまだ一年も経っておられぬあなたにそう言われるとは、心外なかぎりですな」
「でも事実です。あなた方が口出ししてくるのは越権行為以外の何ものでもありません。心配せずとも、宰相や役人たちと話し合って、もっともふさわしい人を選びますよ。万一の場合は、ですがね」
まだカームさんが死んだと確定したわけでもないのに、あまり先走るなと釘を刺す。しかしダヴィ卿は引き下がらなかった。
「検討するまでもないでしょう。ふさわしい人物ならば、王家直系の血を引かれるお方がいらっしゃるではございませんか」
誰を指しているのか、名前を出されなくてもわかった。私はすっと目を細めた。それを口にするとは大した度胸だ。今の宮廷で最大のタブーだというのに。
「あなたの言うのがウルディク王子のことならば、私の考えなど関係なく却下ですよ。認められるわけがないでしょう」
「昔のいきさつ、そしてご本人の資質を思えば、ウルディク殿下ご自身を玉座に据えるわけにはまいりません。そこは同意いたします。ですが、殿下のお子様ならば、これからの教育次第でよき王となっていただけるはず」
「ウルディク王子のお子様は、すでに全員他界されているはずです」
話には聞いて知っていた。内乱で殺されたわけではなく、病死や事故死でみんな幼いうちに亡くなったのだ。それがもしかすると誰かの仕組んだことだとしても、カームさんの指示ではない。子供を殺すくらいならウルディク王子も殺している。肝心のウルディク王子を生かしたまま子供だけ殺してもしかたないじゃないか。
わかりきったことをわざわざ言ってくるということは、何か大きな隠し玉を持っているのか。警戒する私に、ダヴィ卿は勝ち誇った笑みを見せた。
「もう一人、誰にも存在を知られていなかった御子がいらっしゃるのですよ。当時殿下のお傍に仕えていた者がご寵愛を賜り、身ごもっていたのです。発覚すれば母子もろとも処分されると恐れ、女は身を隠しました。縁者を頼って遠い地でひそかに御子を産み、誰の子かを隠して育ててきた――高貴の血を受け継ぐ御子はすでに立派な男となっておられます。誰よりもふさわしき後継者でしょう」




