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ぬくもりへ一歩ずつ《5》




 傭兵たちが連れて行かれたのは、地竜隊の隊舎だった。

 個室完備、風呂もあり。しかも三食昼寝つき。文句なしに立派な宿泊施設だろうと言われて、彼らは嬉し涙を流していた。


「んなわけあるかよ……こんなとこで落ち着いて寝られるか」

「周り中竜騎士だらけって、なんの嫌がらせだよ」

「ひでえな、歓迎してやってるのに。そう嫌うなよ」

「仲良くしようぜ」


 縮み上がる傭兵たちに、面白がって地竜騎士たちがちょっかいを出している。あまりいじめないよう言っておくべきかもしれないな。


「希望があれば訓練にも参加させてあげるよ」

「んな希望しねえっ!」


 トトー君までさり気なくいじめているようだ。笑ってにぎやかな集団を眺めていたら、さらにうるさいのがやってきた。


「どれ、そいつらか? 街の傭兵ってのは。おお、なかなかの面構えじゃないか」


 群を抜いてでかい男が現れたので、小さくなっていた傭兵たちはさらにぎょっと顔を引きつらせる。威風堂々たる姿を、エナ=オラーナの民は誰もが見知っていた。


「り、竜騎士団長……」

「うむ、アルタ・ローグだ。よろしくな、諸君。今回は捜査に協力してくれて、礼を言う。ささやかだが差し入れを運ばせたから、まあ今夜は楽しくやってくれ」

「いや……お気持ちだけで結構なんで」

「なんだなんだ? 傭兵なんてやってる連中がそうびびるな! 心配しなくても、お前たちがちょっと小金をちょろまかしたとか、商人をだまして品物を横領したとか、そんな過去があってもいちいち咎めんさ。今後真面目に働くなら、不問にしてやる」


 なにやらわざとらしい言葉に傭兵たちがますますたじろいでいる。どうやら彼らの身元や経歴について、素早く調査が行われたらしい。手際のいいことで。

 顔と名前をしっかり覚えられ、今回の記録にも残される。四人は首根っこを押さえられたようなものだ。今後は本当に真面目に、身を慎まないといけない。特大の釘を打ち込まれ、肩を落としてため息をついていた。


「チトセ」


 アルタの後ろからもう一人やってきて、私を呼ぶ。その声と姿に、私は驚いて立ち上がった。


「お父様? こんなところに」

「うむ、少し時間があったので、視察がてら覗きに来た。そなたが金子を用立てるよう頼んでいると聞いたが、どうしたのだ」


 略装のハルト様が入ってきて、おちゃらけていた騎士たちが一斉に居住まいを正した。わからずにいるのは傭兵たちだけだ。彼らは何事かと、周囲とハルト様を見回していた。


「彼らに、報奨として渡すためです。犯人逮捕に貢献していただきましたので」

「ふむ?」


 ハルト様の目が傭兵たちに向かう。座ったままの四人を騎士たちが立たせようとするので、そのままでいいとハルト様は制した。


「失われていた許可証が無事戻ってきたのは、そなたたちのおかげなのだな。礼を言う。ご苦労だった」

「はあ……?」

「許可証、見つかったんですか!?」


 うなずきを返されて、私はほっと胸をなでおろした。よかった、やっぱりドルフが持っていたんだ。これで心配はなくなった。よかったよかった。


「許可証って、何の話だ」

「ドルフが持ち逃げした盗品です。悪用されて、王宮に不審者が侵入することになったら大変でした。みなさんのおかげで大事に至らず済みました。本当にありがとうございます」

「はあ? 王宮って……あいつ、そんなもん盗み出してたのか」

「げえっ、そりゃ下手すりゃ打ち首もんじゃねえか。俺たちは関係ねえからな! 本当に、まったくなんにも関係ねえから!」

「ああ、わかっとる、そう慌てるな。お前さんたちの無罪もこれで確定したわけだから、安心しろ」


 アルタが言っても傭兵たちは黙らなかった。


「それなら、もう釈放されてもいいだろう! 帰らせてくれよ!」

「今夜一晩くらいは泊まっていきなよ……すぐに釈放されたんじゃ、意味ないだろ」


 トトー君が抗議をいなす。


「きみたちのためだよ?」

「そ……っ、それなら、どっか別の場所に泊めてくれ! こんなとこ、牢屋に入れられるよりタチが悪いよ!」

「失礼な奴らだなあ。俺たちの隊舎がそんなに気に入らないかよ」

「ちゃんと掃除してるのにさ」

「いやそういう問題じゃねえから!」


 やかましい言い合いを不思議そうに眺めていたハルト様が、何か思いついたようにうなずいた。


「そうか、功労者にはそれなりの褒美が必要だな。よかろう、三の宮の離宮に用意をさせよう」

「へっ?」


 騒ぎが一瞬でおさまる。みんなが驚いてハルト様に注目していた。


「陛下、さすがに離宮に泊めてやるのはいかがなものかと」


 アルタの言葉に傭兵たちの顔が白くなる。ハクハクと口を動かしてハルト様を指差した。


「へい……陛下って」

「こら指差すな。不敬だぞ」


 そんな彼らに、ハルト様は穏やかな微笑みを返した。


「そなたらが満足できるだけの食事と、快適な部屋を用意する。もちろん報奨金もだ。それでよいかな? まだ不足があるか?」

「…………」


 もう何度も見た、無言の相談がまた行われる。周り中を竜騎士に固められて一晩すごすか、宮殿で近衛騎士に見張られながら豪華な一晩をすごすか。四人は冷や汗を流しながら検討していた。ここはもう、個人の好みの問題だろう。どちらがいいかは人によって分かれる。私ならこんなむさ苦しいところで一晩泊まるよりも離宮にお泊まり体験を選ぶが、彼らはどうするか。


 威勢の割に気の小さい傭兵たちは、豪華特典を辞退した。宮殿なんて場所、竜騎士の隊舎以上に居心地が悪くて、とても眠れそうにないとのことだった。彼らの言葉にハルト様は謙虚なことだと感心し、代わりに報奨金を割り増しして一人三万セン渡すことで決着したのだった。

 謙虚な傭兵たちは大喜びしていた。今夜は竜騎士たちと盛り上がるといいよ。楽しい夜になりそうだね。






 ――そこで終わるとばかり思っていたのに、私にはまだ続きがあった。


「チトセは一ヶ月間外出禁止だ。……と言いたいところだが、元々そなたはあまり出歩かぬゆえ、さほどの罰にはならぬな。街へ出ることを禁じるとともに、ユユについて茶会や園遊会に出席することを命じる」

「ええ!?」


 文句を言いかけた私を、ハルト様は厳しくにらんだ。


「トトーから報告を聞いた。今後は施療院へ向かうにしても、必ず護衛をつけるように。一人歩きはならぬ」

「そんな」


 私に同情してくれる人は誰もいなかった。宰相には鼻息ひとつで片付けられ、アルタには軽くゲンコツをくらい、ユユ母様と女官長からはため息まじりでお説教を受けた。参謀室に行って愚痴れば、私が悪いと笑われた。


「ばっかだねー、そういうのは自分の存在を表に出さないようにやるもんだよ。今回ので姫の顔がばっちり知られちゃったから、そりゃもう今までのようには行動できないよ。次からは警戒されるし、危険も増えるしね」


 ホーンさんの言葉に、他の参謀官たちもうなずいた。


「自分で動いてしまうところが、姫の浅はかさだな。なんのために参謀室には配下の密偵がいると思ってるんだよ」

「身分を隠して自由に動きたいなら、表で派手に動かず陰から糸を引くべきだな。警戒されない人間なんて、他にいくらでも用意できるだろう。思いつきですぐ飛び出してしまうから失敗するんだ」


 先輩たちの言葉に反論できず、私はただへこむばかりだった。そうしているとオリグさんがやってきて、私に分厚い資料の束を渡した。


「目を通しておきなさい」


 上司からの言葉はそれだけだ。自分で学べと渡された資料には、過去の事例とそれにまつわる失敗談が山ほど記録されていた。自分のしたことも似たりよったりだったのだと、否応なしに悟らされる。ただの失敗だけで終わればいいけれど、結果悲惨な末路を迎えた人もいて、厳しく叱責される以上に私を反省させたのだった。


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