熱き闘い 《3》
午後の競技も滞りなく進んでいく。中間発表ですべての騎士が現在の状況を知ったので、負けているチームはますます加熱していた。百足競争はどちらかと言うとお笑い種目なのに、みんな必死にゴールを目指していた。続く借り物競争でもやたらと殺気立っていた。
「団長ーっ! 剣貸してくださいっ」
「馬鹿もん、陛下のお傍に控えながら剣を手放せるか」
「だってそう書いてあるんすよ! 貸してくださらないと失格じゃないすか! 頼んますよ!」
「こら勝手に取るな!」
「女官長! 女官長はどこだ!? ハンカチを貸してくださいーっ」
「『シオルさんの飼い犬』――って誰それ!? 犬連れてきてんの!?」
「『愛の証』とかわけわかんねえ! 独り者にケンカ売ってんのかゴルァ!」
――断っておくが、お題を書いたのは私ではない。侍従たちが書いてくれた。ちゃんとこの会場内で手に入れられるものと条件をつけておいたから、愛の証もきっと見つかるだろう。意外にあっさり見つかったワンコは、はしゃいでゴールと反対方向へ駆け出していた。頑張れ。
観客と一緒に阿鼻叫喚の騒ぎを笑っていると、イリスが本部席に飛び込んできた。
「チトセ、来てくれ!」
私の返事も待たずに問答無用で担ぎ上げる。そのままものすごい勢いで走って、一位でゴールインした。
「よかった……楽なお題で助かった」
私を下ろして息を整えるイリスに、係が確認にやってくる。イリスはお題が書かれた紙を見せ、それから私を指差した。
係の侍従がぬるく笑ったので嫌な予感がした。
「イリス、なんて書いてあったの」
「ん? 『会場内で一番可愛い女の子』」
「…………」
私は無言でイリスの頭をはたいた。周りから笑いがあがる。伝え聞いたらしい観客席からも、遅れて笑いがあがった。
この馬鹿たれが、よくも恥ずかしげもなく。
「なんで怒るんだよ」
なんでも何もあるか。周りの反応に気付かないのか。会場中からバカップル認定されているんだぞ。そういう場合は、あそこにいる金髪の美幼女あたりを借りてくればいいのに、美人でもない恋人を連れてくるなんてアホだろう!
「えー、まあ、一応合格ということで」
「異議あり! ティトシェ様はたしかに可愛いが、一番ってほどじゃないぞ」
笑いながら判定した侍従に他チームから抗議の声があがった。
「見え見えのお世辞はかえって姫に失礼だろう! はっきり言って姫は十人並みだ!」
……ふ、そのとおりですね。ええ、事実ですから怒りませんよ。悪いのはイリスだからね。今言った連中の顔を覚えておいてやろうだなんて、そんなこと考えていませんよ。ふふふふふ。
「ルーラちゃんこそが一番の美少女と主張する!」
「馬鹿言え、いちばんはリリアだ!」
「お前ら単に自分の好みで言ってるだけだろう。客観的に見てもっとも愛らしいのはロロだぞ」
「人間から選べよ、この竜馬鹿が! そしてそれは客観的な認識じゃねえ!」
「人間とは指定されていないんだから十分に対象内だろう!」
「――そういうことだ」
ひとり落ち着いて、イリスは胸を張った。
お題が書かれた紙を掲げ、通りのよい声を響かせる。
「細かい指定はなく、単に『一番可愛い女の子』とだけ書いてある。そんなの主観的なものだ。だから僕にとって世界でいちばん可愛い子を選んだ。これが失格か?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
束の間、辺りが静まり返る。毒気を抜かれた後、どっと白けた顔で騎士たちは顔をそむけた。
「あーはいはい、もう合格でいいっすよ。けっ」
「ちくしょー、堂々とのろけやがって」
「どうせ俺は彼女いない歴二十三年だよ……失恋記録更新中だよ……」
「男は顔じゃない。顔じゃないって誰か言ってくれ。騎士は強さこそが重要だろう!?」
「イリス様はめっちゃ強いけどなー……」
勝ち誇るイリスにあらためて一位の判定が下される。拍手と笑いの中、私は無言で本部席へ戻った。くそう、耳が熱い。
あとでイリスにしっかり言い聞かせておかないと。ああいう台詞は人前で言われたらいたたまれない。ふたりきりの時に言ってくれたら、私にとってもイリスが世界でいちばんかっこいいって答えるから――と。
少しの間羞恥心に耐える必要があったが、すぐにみんな次のレースに気を取られて私達のことなんて忘れてくれた。ほっとしてその後の進行を見守る。
騎馬戦でまたウィレムの出番が回ってきた。障害物競争の時とはまったく違う、真剣な顔をしていた。ちょっと不安そうでもあり、絶対にかっこ悪いところは見せられないと気合を入れているようでもある。
大将のハチマキは得点が倍なので、さすがにウィレムを大将にするのはやめておいた。各隊の大将はトトー君、イリス、ザックスさんと普段どおりだ。
騎士たちに混じって、お笑いグループも参加していた。騎馬隊にはデイルを将に据えたマッシュファミリーが、飛竜隊にはオリグさんを将とする参謀官たちがいる。
これは地竜隊がちょっとだけ有利かな? 将はウィレムでも馬は騎士たちだもんね。
「エリーシャ見てろよぉっ! 俺は愛のために闘う!」
号令とともにデイルの雄叫びが響き、マッシュチームが飛び出していった。あーあ、悪目立ちして集中攻撃受けてるよ。本当に馬鹿様なんだから。
反対に参謀官チームはしたたかだった。作戦を立てるのはいちばん上手な人たちだからね。混戦状態のフィールドを巧みに泳ぎ、オリグさんの死人並みの気配の薄さを活かして、背後から狙ってはハチマキをゲットしている。そうこうするうちに目をつけられて逆に狙われるようになったが、伸ばされた腕をオリグさんはそよそよとかわしていた。実に不気味な動きである。
ウィレムも頑張っていた。ハチマキを取るまでにはいたらないが、取られないよう逃げ回ることには成功していた。これは馬役の騎士たちのおかげだろうけれど、ウィレムも癇癪を起こしたり勝負を投げ出したりせずに、必死になっている。
なんとかハチマキを取ろうと、狙いをつけて突撃していった。しかし残念、相手に気付かれ、あっさり防御された上逆にハチマキを奪われてしまった。彼らはそこで脱落。下がって試合終了を待つしかない。
がっくりとうなだれるウィレムの肩や背中を、馬役だった騎士たちが叩いていた。荒っぽく見えるけれど表情は明るいから、多分なぐさめているのだろう。ネヴィラ夫人は不満そうにしているけど、いい風景だと思うよ? 親なら喜んでやってほしいな。
「行くぞ!」
「ザックス、覚悟!」
イリスとトトー君の声が響いて、私はあわてて彼らの姿をさがした。なんと、二人が同時にザックスさんに襲いかかっていた。どうやら一番勝っているチームをまず下し、その後飛竜隊と地竜隊で勝負しようという作戦らしい。
「くっ、卑怯な!」
いえいえ、これも騎馬戦の醍醐味ですよザックスさん。デイルみたいに頭空っぽで突っ込むのではなく、作戦を立てて闘う競技なんだから。
「隊長!」
「隊長を守れ!」
「させるかいっ」
「てめえらの相手はオレだ!」
周りで生き残りの連中も闘っている。騎士の本領発揮だ。初めて経験する競技とは思えない戦いぶりが繰りひろげられている。そして隊長たちの戦いは、やはり同時に狙われたザックスさんの負けだった。イリスにハチマキを奪われ、悔しそうに離脱していく。
となると、いよいよイリスとトトー君の勝負だ。
一旦距離を取って体勢を整えた彼らは、全員で雄叫びをあげながらぶつかり合っていった。
剣も槍も使わず素手でハチマキを狙い合う勝負って、どっちが強いんだろう?
そんな疑問に、結局答は与えられなかった。猛然とぶつかり合ううちに双方の馬が崩れ、同時に脱落となってしまったのだ。イリスとトトー君の勝負は相討ちである。そしてそのすぐ後に、制限時間がきて試合終了が告げられた。
いちばん成績がよかったのは飛竜隊のようだ。イリスがザックスさんのハチマキを取ったし、参謀官たちも善戦したからね。
「いやあ、迫力でしたなあ」
「やはり騎士たちは戦ってこそですな」
近くの人たちが楽しそうに話している。私が退屈せずに見物できたくらいだから、今の勝負はかなり見応えがあったのだろう。若い女性陣は目を輝かせていた。
「トーヴィル様の凛々しいお姿、かっこよかったわねえ。あんなふうに激しく動いてらっしゃるの、初めて見たわ」
「いつもおっとりしてらっしゃるのに別人みたいに気迫に満ちて、失礼だけどああ本当に騎士なんだわって実感しちゃった」
「そうなの! そうなのよ。普段のトーヴィル様って、本当に穏やかで他の騎士たちとは違うじゃない? 小柄だしあれでちゃんと戦えるのかしらって思ったこともね。いえ、隊長なんだし、戦えるに決まってるんだけど」
ふむ、どうやら滅多に見られないトトー君のバトルモードにギャップ萌えしているらしい。「ザックス、覚悟!」っていう声には、私もけっこう驚いたもんね。トトー君があんなに好戦的になっているところって、初めて見たかもしれない。
最近背が伸びてきたし、子供っぽさが抜けてどんどんかっこよくなっていくトトー君にファンが急増中なようだ。その気持ちはよくわかる。でもイリスだって同じくらいかっこよかったぞ、と私は内心で主張しておいた。
あんまり女の子たちに騒がれたくはないけれど、少しは誉めてやってほしいこの複雑な気持ち。わがままと言わないで。
そんなふうに選手も観客も興奮に包まれた運動会が、やがて最後の種目を迎えることになった。
大トリの花形競技と言えば、やっぱりリレーでしょう。各チーム六人の選手が入場してくる。ザックスさんはすでに制限数いっぱいまで出場しているので、この種目には出られない。イリスとトトー君はそれぞれのチームのアンカーだ。
そしてウィレムもいる。彼は第一走者で走ってもらう。目立つけれど大丈夫、参謀官やデイルたちも一緒だから。
第一走者はゲスト選手ばかりだ。多少は鍛えているウィレムにとって、けっして不利な勝負ではないだろう。
最初に徹底的に差を見せつけて突き落とし、次の騎馬戦ではみんなで力を合わせることを経験してもらう。そして最後は純粋にレースを楽しんでくれるといいなと思ったけれど、見たところそんな余裕はなさそうだな。緊張しているようだ。スタートしたとたん転んだりするなよ。
竹っぽい木で作ったバトンを手に、第一走者たちがスタートラインに並ぶ。この勝負の結果が総合成績に大きく影響する。リレーは得点が高く設定されているので、大逆転も可能なのだ。各チームの応援にもひときわ熱がこもっていた。
「本気で走ってくれよ! とにかく全力で足を動かせ!」
「最初が肝心だ、頼んだぞ!」
「なんでもいいから最低限転ばずに走ってくれ!」
参謀官やマッシュファミリーは野次に余裕で応えているけど、ウィレムは少し青ざめているようだ。大丈夫かな、本当に転んだりして。
「用意――」
号令がかかり、第一走者がいっせいに走り出す。
ウィレムが真剣に本気で走っているのがよくわかった。転ばずバトンも落とさず、懸命に走っている。現在トップだ。対戦者は騎士じゃないけれど、接待試合でもないから気を抜いたら負けてしまう。それをよくわかっているようで、最後まで全力で走り抜いた。
無事に次の走者へバトンを渡し、その場で転がったウィレムを素早く係の近衛騎士が運び出した。後続の邪魔だからね。じきに他のチームもバトンタッチしていく。ここからが本番と会場の声援は高まったが、ウィレムはしばらく顔も上げられずに肩を上下させていた。お疲れさま。よく頑張った。
燃え尽きた彼を置き去りに、レースは続いていく。鍛えられた騎士たちとはいえ、こういうレースには慣れていないようで、時々転ぶ人がいた。バトンタッチでもたついたり、バトンを落としてしまう光景もよく見かけた。幼稚園の頃からやっていたってそういう失敗するんだもんね。むしろ彼らは初めてなのに上手と言うべきだろう。
急に順位が転落したり、見事な追い抜きを見せたり、一瞬も目が離せない。いよいよアンカーにバトンが渡った時、トップは地竜隊、少し遅れて飛竜隊という順位だった。
トトー君の背中を猛然とイリスが追う。後続にどんどん水を開けていく。でもふたりの間の距離は、なかなか縮まらない。
コーナーを過ぎて直線コースを走り、もう一度コーナーへ。少しだけ距離が縮まったかな? でもゴールまであと少しだ。
最後の直線コースで二人同時にスパートをかけた。あれだけものすごいスピードで走っていたのに、疲れも見せずにさらに速くなるんだからもう地球人の感覚ではあり得ない。彼らがオリンピックに出たらドーピングを疑われるレベルだね。
結局、順位は変わらないままトトー君が先にゴールした。わずかに遅れてイリスが走り終える。「くっそー!」という声がここまで聞こえた。
……あとでうんと優しくしてやろう。かっこよかったよっていっぱい誉めて、ご機嫌取ってあげよう。うん。
割れんばかりの拍手と歓声の中、ウィレムが顔を輝かせていたことに、私は満足して終わった。
総合成績は、ザックスチームが一位を保持した。前半の貯金が効いたようだ。
その後ろは必死の追い上げを見せた地竜隊が二位で、飛竜隊が三位。ラスト直前までは逆だったんだけどね、やはりリレーが決め手となった。
負けたチームはものすごく悔しがりつつ、同時に楽しそうでもあった。またやりたいという声が多く上がり、毎年の恒例行事になりそうな雲行きだ。でも次からは他の人にお任せしますよ。今回は目的があったから主導したけど、毎年企画するほど私は運動会に思い入れはない。
「ああいう勝負はこれまでしたことがなかったからな。ふたを開けてみれば意外な展開があったな」
後日、いつもの顔ぶれで一の宮の談話室に集まって、運動会を振り返った。
「地竜隊と飛竜隊の成績がなあ。たしかにザックスの言うとおり、竜に頼った弊害ですな。これは訓練内容を見直さねば」
ハルト様の言葉にアルタがうなずき、笑いながらも鋭い視線を部下たちへ向ける。イリスとトトー君は、複雑な顔で頭をかいたり肩をすくめたりしていた。
「実によい機会でした。日頃見下されがちな我々騎馬隊にとって、けっして能力は劣っていないのだと知らしめることができたのはありがたかったです。姫には感謝いたします」
ザックスさんがいい笑顔で言う。当初の目的以外にも成果を上げられてよかった。イリスたちも、知らず慢心や油断があったようだから、現状を知るいい機会になっただろう。
「それで、肝心のクロシエル家はどうなったの?」
ユユ母様が尋ねる。私はトトー君と顔を見合わせ、ちょっぴり笑った。
「悪くないよね?」
「……まあ、本人はね」
聞いたところによると、ネヴィラ夫人は私とイリスによる陰謀だと言いふらしているらしい。ウィレムを陥れて恥をかかせるために仕組まれた、フェルナリス家の嫌がらせだとあちこちで吹聴しているそうだ。うん、おおむね間違いじゃないね。フェルナリス家は関係ないけれど、私の意図はおっしゃるとおりだ。
「でもウィレムを地竜騎士にしたがっていたことは、お茶会に出ていた人たちがはっきり聞いていたからね。実力も伴わないのにコネでもぐり込ませ、そのせいで恥をかくことになったんだもの。文句を言ったって恥の上塗りにしかならないわ」
参謀室によると、クロシエル家とフェルナリス家の確執は世間のよく知るところで、ネヴィラ夫人が悪口を言いふらしたところで今さら驚く人はいないらしい。フェルナリス家側は露骨に悪口を言ったりせず、受け流したりチクリとやり返したりしているそうだから、たいていの人はクロシエル家の方が一方的にかみついているのだと承知しているそうだ。
今回のことでも、ネヴィラ夫人の言い分を真に受ける人は少ないだろうという話だった。あれだけあからさまなモンスペだもの、そんなものだと思ったよ。まともな人なら、クレーマーだとわかって見ているはずだ。
「そっちはほっといても問題なさそうよ。で、ウィレムだけど……」
もう一度トトー君に目を向けると、珍しく彼は口元に笑みを浮かべた。
「本気で竜騎士を目指す気になったみたいです……」
トトー君の言葉にみんなが目を丸くした。
「本気で?」
「運動会が、いい方向へ作用したみたいで……」
始めは癇癪を起こしていたけれど、逃げるのを許されずその後の競技に強制参加させられるうちに、騎士たちの団結力というか、みんなで一緒に盛り上がることというか、つまりはむさくて汗くさい世界に魅力を感じたらしい。
騎馬戦で成績を出せずすぐに脱落してしまっても、誰にも責められたり馬鹿にされたりせず頑張りをねぎらわれたあたりから気持ちが変わっていったようだ。これはトトー君による指示だったのだが、彼が真剣に頑張っているなら結果がどうあれちゃんとねぎらうようにと部下たちに言っていたそうだ。おかげでウィレムはいじけ続けることなく、最後には騎士たちと一緒になって、イリスとトトー君のデッドヒートに夢中で声援を送るようにまでなっていた。地竜隊チームの勝利で終わり、肩を抱き合って大喜びした結果、みんなでアツくなる快感が癖になったと。男のロマンってやつですかねえ。よくわからない。
「育て方が悪かっただけで、本人の資質はそう悪くなかったようですね。運動会の一件だけで今までと百八十度変わることは不可能でしょうけど、ちょっとは改善されるといいですね」
「ふむ……せっかくよい方向へ向かっているのなら、そのままにしておくのはもったいないな。いっそ親元から引き離して教育しなおすべきかもしれぬ」
ハルト様が考える顔で言った。
「親の影響を受けたままでは、一度の経験などすぐに薄れて消えてしまう。本格的に騎士団に入れて、歪んだ考えを矯正してやるべきだろう」
「できますか? 今さら」
首をかしげる私にハルト様は苦笑し、みんなもなにやら意味ありげに笑った。
……なんだよ。
「ここに成功例がいる。それまでの生活と離れ、己を見つめなおし、変わることができた者がな」
「…………」
私は黙ってカップを取り上げ、お茶を飲んだ。くすくすと周囲から笑いが上がる。ええい、うるさい。わかりましたよ、ウィレムがしっかり更生できるよう、今後も協力してやろうじゃないか。
私がこの人たちからたくさんのことを教えられたように、彼もいい経験をしていけたらいいね。
「さすがに竜騎士団には入れられませんから、地方の騎士団へ入れることになりますが、それをクロシエル家が承諾しますかな」
「本人が騎士になりたがっているのだ、どうにかなるだろう。竜騎士を目指すための修行だと言えばよい。遠くへ行く方が親からも離れられてよいしな」
「……修行して、竜騎士になれると思う?」
私はイリスとトトー君に尋ねた。彼らは首をかしげつつも、頭から否定はしなかった。
「本人の努力次第かなあ。あとは、運?」
「身分と家柄にあぐらをかいていた今まででも、あの程度までにはなれていたんだから、本気で努力すればもっと伸びるだろうね……まだ十八歳だし、可能性はあるよ」
「お前がそれを言うと妙な感じだな」
十八歳の天才騎士にみんなが笑う。誰もがトトー君みたいにはなれない。でも本当の本気で必死に頑張れば、いつかウィレムが竜を得る日も来るかもしれないね。
「来年は絶対にうちが優勝してやるからな。いつまでも天下を取っていられると思うなよ」
「我々とて日々たゆまぬ努力をしているのだ。今からあわてたところで簡単に追い越せると思うな」
イリスとザックスさんが楽しそうに火花を散らしている。黙っているけど、トトー君も負けるつもりのない顔だ。私はユユ母様と笑い合った。
男って本当に闘うことが好きだね。付き合いきれないよ。
こうしてローシェンに運動会という文化が生まれ、その後各地へと広がっていったというのは、おまけの話。
***** 熱き闘い・終 *****




