97話 パレード！

　ワァァァァ！！

　鳴り響く歓声。

　多くの人達が笑みを浮かべて、このお祭りを楽しんでるのはいいんだけど……

「はぁ……」

　どうしてこんなことになったんだろ……？

「ん？ ソフィア嬢、どうしましたか？」

「……いえ、なんでもありません」

　危ない危ない！

　今の私はルスキューレ公爵家のご令嬢にして、第一王子たるセドリックの婚約者として公の場に出ているのだ。

　まぁ、婚約者といっても仮婚約だけど。

　今は私のステータス鑑定の儀式と合わせて、私も当事者として関係している歴史に残るであろう大事件！

　魔王ナルダバートの侵攻を退け、魔王を打ち倒すという大偉業を祝うお祭りの真っ最中なわけだし。

　このお祭りには、たとえ相手が魔王だとしても屈することはないっていう意思表示。

　そして魔王に生贄として指名されたけど、私にはなんのダメージもないこと国内外に広くアピールする意図がある。

　そんな状況で婚約者であるセドリックと一緒に屋根のない馬車に乗り、パレードに参加して王都の大通りを進んでいる今！ 笑みを絶やすわけにはいかない！！

　とはいえ……

「はぁ」

　周囲にバレないようにため息を吐くくらいは仕方ないと思う。

　目が覚めてから３日、国内外へのアピールのためにもできるだけ早く鑑定の儀式をやってお祭りを開催する必要があるのはわかる。

　けど！ ここまで大規模なものにしなくてもいいじゃん！！

　まだ本調子じゃない上に、セドリックと２人で馬車に乗って仲良くパレードに参加する羽目になるなんて！

　しかも、このパレードが終わったら王城で祝賀パーティー……うぅ、胃が痛くなってきた。

『ご主人様、大丈夫でしょうか？』

　大丈夫じゃないよ〜……

『ご主人様、情けない声を出さないでください』

　酷いっ！ 声を出さないでくださいって、別に声には出してないもん！ 心の中で思っただけだもん！！

　それに、生まれたばかりなのにルーちゃん辛辣っ！！

『っ！？ も、申し訳ありません……』

　そ、そんなに落ち込まなくても。

　ほら、別に怒ってないし！ ルーが私の代わりに冒険者ソフィーとしてこのパレードに参加してくれてるだけでも助かってるし！！

『可能ならば、ご主人様と代わって差し上げたいのですが……』

『まぁ、それは流石にまだ難しいから仕方ないわよ』

　っ！ さ、さすがはルミエ様。

　当然のように私とルーの念話に介入されるとは……

『ルーは２日前にソフィーの並列存在と並列思考によって生み出されたばかりの人格。

　流石にまだ違和感なくソフィーの代わりを完璧にこなす事は不可能よ』

　まぁ、それはそうですけど。

　今回の一件で特別推薦試験の結果と合わせて一気に世界に知れ渡るであろう冒険者ソフィーと、当事者たる私とを結びつける者が出てくる事は容易に予想できる。

　もともと魔王ナルダバートを打ち倒した立役者だし。

　公爵令嬢ソフィア、イコール、冒険者ソフィーってイメージを払拭するためにも、新しき英雄である冒険者ソフィーとしてもこのパレードに参加する必要があった。

　そこで、ルミエ様に助言をもらいながら並列存在の使い方を練習して。

　並列存在で作り出された分体の意識は本体(オリジナル)である私が自由に調整できることが判明。

　前世の記憶を参考に試行錯誤を繰り返し、偶然確立された新しい人格がルー。

　同じように新しい人格を作れっていわれても多分もうできないし、どういう原理でルーが生まれたのか私自身にもいまいちわからないんだけど。

『ご主人様……』

　と、とにかく！ 前世の記憶にあるものに例えると人工知能にして、私のサブブレイン！！

　ルミエ様いわく、違う人格とはいえ私のスキルで生み出されたルーと私には魂の繋がりがあって、ルーは私の一部でもあり、私の相棒でもある……らしい。

　ルーが誕生したときになにやら呆れたように息を吐いて、苦笑いしてたけど。

　ルミエ様がいうのなら多分そうなんだろう。

　とはいえ、まだ誕生して２日だし、ルミエ様のいう通り違和感なく私の代わりをするのは難しいから仕方ない。

「ふふっ」

「ソフィア嬢？」

「お気になさらず」

　ルーは私の子供みたいなものだし、まだまだ産まれたばかりで世間知らずのルーは私がしっかりと守ってあげるからね！

『……はい、よろしくお願いします』

　あれ？ なんかちょっとルーから呆れたような雰囲気を感じるんだけど……

『気のせいです』

　そ、そう？

『それよりもご主人様、あまり念話に集中しすぎるとセドリック殿下や王都の人々に訝しまれてしまいます』

　わ、わかった！

　そうだよね、仮とはいえ私はセドリックの婚約者で未来の国母の地位にいるわけだし。

　公の場にいるときはしっかりしないと！！