79話 獄炎の檻
あの男の人が……玉座に座って、私達を見下ろすあのなんか爽やかそうな感じの金髪の美男子が不死の呪王と恐れられる魔王ナルダバート?
「ふふっ、まぁソフィーが驚くのもわかるわ。
けど……正真正銘、アイツが魔王ナルダバート本人よ」
「っ……!」
ま、マジですか! これは……なんか思ってたのと違う。
数多の不死者を従え、不死者の王国セカンデスを治める不死の呪王と恐れられる不死者の王っていうくらいだから、もっと禍々しい見た目をしてるのかと……
「ガイコツじゃない……」
もっと、物語とかに出てくるリッチとかみたいな感じでガイコツだと思ってたのに全然違うじゃん!
見た目だけでいうと、全然普通の人じゃん!!
そりゃまぁ、肌の色が病的なまでに真っ白で全然生気が感じられないけど……
「ほう、貴様が第一王子セドリックの婚約者、ソフィア・ルスキューレですか」
「っ!!」
さっきも思ったけど……この声。
ルミエ様の話を聞いて、今朝の魔法陣を通して宣戦布告してきたのは魔王ナルダバート本人じゃないかもって思ってたけど……やっぱり本人だったのか。
「クックック、それで?
他の者達はその娘を生贄としてこの私に差し出しに来た王国の使者か何かですか?」
うん、やっぱりルミエ様が話してた魔王ナルダバートのイメージとは全然違う。
ルミエ様は真面目でお堅い性格っていってたけど、私達を完全に見下してて傲慢にしか見えない。
「私達がソフィーちゃんを貴方への生贄として差し出すための使者……?」
あっ、やばい……
「燃え尽きなさい」
「なっ!?」
一瞬で魔王ナルダバートを中心に謁見の間に巨大な魔法陣が展開された!
ふふん! さすがはお母様っ! 魔王たるナルダバートですら驚嘆する展開速度!!
「これは……」
「獄炎の檻」
ゴォゥッッッ!!!
「おぉ〜」
すごい。
一瞬で魔王ナルダバートを……私達より前方の空間が炎に包まれた!
それに、真っ赤な炎がすさまじい勢いで燃え上がってるのに……
「全然熱くない?」
不思議だわ。
普通これはどの炎なら結構な熱の余波が私達のところまで届くはずなのに。
「それはね、私があの炎をコントロールしているからよ」
コントロール!
「すごいです!」
「ふふふ、このくらいは朝飯前よ」
「さすがはお母様!!」
冷たい眼差しで敵である魔王ナルダバートを見据え、燃え尽きなさいって告げるお母様……もうカッコよすぎるっ!!
これが〝炎姫〟と呼ばれた元Sランク冒険者であるお母様の実力!!
「確かに凄まじい炎です」
まっ、とはいえ……有象無象ならともかく相手は不可侵存在とされる八魔王が一柱、不死の呪王ナルダバート。
いくらお母様がすごくて、並の相手なら消し炭にしたであろう攻撃といっても、この程度で終わるはずがないよね。
けど、いかに魔王といえども! この炎の檻からそう簡単に脱出することはできないはず。
本当なら一対一で私がぶっ飛ばしてやりたいところだけど……さすがに私1人で魔王の相手をするのはムリ……こほん! ちょっとだけ荷が重いし。
なにより! イストワール王国の存亡が、王国に住う大勢の人々の命が掛かっているのだ!
たとえ卑怯だといわれても構わない。
ここはみんなで力を合わせて、お母様の炎の檻に捕われてる魔王ナルダバートの体力を少しずつ削っていけば……
「しかし……私の城を燃やされるのはいただけませんね」
パチンッ!
「……ぇ?」
なに、これ……今、いったいなにが……?
指を鳴らしたような音が鳴り響いた瞬間、魔王を捕らえていたお母様の炎の檻が。
謁見の間を包み込んでいた燃え盛る炎が……最初からなにもなかったかのように掻き消えた?
「クックック、驚きましたよ。
まさか脆弱なる人間の身でありながら、この私に暖かいという感覚を与えるとは」
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