72話 伝説の力
「おぉ〜!」
大賢者たるマリア先生と、冒険王のガルスさんは当然として。
さっきまでロリコン疑惑で落ち込んでたとは思えない、この堂々とした姿!!
さすがは現人神と讃えられる皇帝陛下!
「ソフィー、ココアのおかわりは?」
「ケーキはどうする?」
「お兄様……」
さすがにこの状況でそれは呑気すぎですっ!!
アルトお兄様が展開した結界で守られてるとはいえ、目の前でマリア先生達の戦闘が始まろうとしてるのに……まったく、お兄様達はもっと緊張感というものを持った方がいいと思う。
「うんうん!」
「ソフィー……?」
「ケーキ、いらないのか?」
「うっ……」
そ、そんな悲しそうな顔をしなくても……
「ソフィーちゃん、もしかして……どこか体調でも悪いの?」
「「「なっ!?」」」
お、お母様っ! なんて爆弾発言をっ!!
超絶過保護なお父様達の前でそんなことをいえば……
「だ、大丈夫です!」
こうなっては仕方ないっ!
「そんなことより! 早くみんなでケーキを食べましょう!!」
本当なら私も参戦すべきなんだろうけど……伝説の英雄3人が勢揃いしちゃってるわけだし。
こうしないと、お父様達に手取り足取り構い倒されるのは明白!!
私達が王宮に行ってて留守の間に公爵邸に忍び込み、私達の話を盗み聞きしてた間者……いや! ネズミさんの相手をマリア先生達が3人でするっていうならば、ここは御三方に任せよう!!
ふっふっふ〜! やばい、ちょっと緊張してきた!!
相手は魔王ナルダバートが送り込んできたであろう刺客!
伝説に謳われるマリア先生達の実力、しかと見させてもらおうじゃないっ!!
「まったく、こんな状況で呑気な……」
すみません! でも仕方ないんです、ガルスさんっ!!
ここでもし、私がケーキを食べるっていい出して話題を逸らさなかったら……きっとマリア先生達のシリアスな雰囲気なんて一切気にすることなく、即座に私を部屋に運んで寝かしつけようとしただろうし。
「ふふっ、いいじゃない。
それだけ私達が信頼されているって事でしょう?」
「まっ、別に問題はないけどな。
そんで……いつまで隠れてるつもりだ? もうバレてるって言ってるのによ。
ほら、さっさと出て来い、出て来ないっていうなら……」
「っ!」
すごい重圧!!
ガルスさんの圧を向けらてるのは私じゃない上に、アルトお兄様の結界で守られてるのに鳥肌が立った!
「いやはや、こうも容易くバレてしまうとは……」
どこからともなく知らない人の声がリビング内に響き渡り……
「これでも隠密には自信があったのですけどね」
リビングの一角。
ガルスさん達の視線の先の空間が歪むように揺れ動き、いきなり姿を現した男が肩をすくめて苦笑いを浮かべる。
「初めまして。
私は魔王ナルダバート様が配下〝五死〟の一人、幻殺のジン。
以後お見知りおきを」
ふむふむ、外見こそ軽装だけど……立ち振る舞いが洗礼されてるというか、どことなく騎士を彷彿とさせる。
それに……一目見ただけでわかる。
この人は強い! 正確にはわからないけど、お兄様達と互角ってところかな?
「五死の1人、幻殺のジン。
キミの事は知っているよ。
まさか、ここで魔王ナルダバートの最高幹部の一人に会えるとはね」
魔王ナルダバートの最高幹部っ!?
ほぇ〜、そりゃあ強いわけだ。
「これはこれは、名高い現人神に知られているとは光栄です。
私の方こそ、このような場所で伝説の英雄様方にお会いできるとは思ってもおりませんでした」
まずい! これは非常にまずいことになってしまった!!
いくらマリア先生達とはいえ、魔王の最高幹部が相手となると周囲への被害が……!!
やっぱりここは私も手伝って……
「ふ〜ん、なるほどね。
ここは現人神様に任せようかしら」
「だ、そうだ。
早く終わらせろよ」
「……一応、これでも超大国の皇帝なんだけどなぁ。
まぁ、わかりましたよ」
「貴方お一人で私の相手をすると?
ふむ、力を抑えているせいで勘違いされたのでしょうか? あまり舐めるなよ、人間」
っ!? ジンから感じる圧が跳ね上がったっ!!
なんて膨大な魔力、なんて強大な力の波動……これは、本当にヤバいっ!!
「魔王ナルダバート様が配下の最高幹部、〝五死〟の一人であるという意味を教えて差し上げま……ぁ?」
「へっ?」
今いったいなにが……
「残念だけど……今のキミでは相手にならない」
一瞬で……姿が消えたと思ったら次の瞬間には、首から上を失ったジンの背後でさっきまではなにも持っていなかったはずの手に白い剣を持った皇帝陛下が!!
「バカ、なっ……!」
「神炎の太刀」
皇帝陛下がいつの間にか手に持っていた白い剣が、空中に溶けるように消滅した瞬間……宙を舞っていたジンの頭部と、首から上を失った身体が白い炎に包まれて消え去った。
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