508話 本質
ラルフィーが放った上下左右360度の全方位から襲いくる無数の刃。
しかも対魔法結界が付与されているため、魔法を使っての対処がほぼ不可能ときた。
それに加えてラルフィー本人による猛攻が加わり、絶死の空間が形成される。
そんな恐ろしい魔法が……
不可避に思える攻撃が、ソフィーへと降り注ぎ……
「〝消えろ〟」
一瞬にして消滅する。
「これは……!」
隣で父上が目を見開いてるけど当然の反応だね。
父上だけじゃなく、この場にいる俺達Sランク冒険者以外の全員が驚愕の面持ちをしてるし。
そして当人であるラルフィー本人は……
「ふ、ふざけるなっ!! そんな事は決してありえない! あってはならないっ!!
そ、それではっ……それではまるでっ──!!」
絶叫してるけど無理もない。
なにせこれは紛れもなく、人ならざる神の御技。
始まりの悪魔であり最古の魔王、魔法神ティフィアこと魔神レフィー様の権能。
まぁもっとも…… たった今ソフィーが平然と行った事の意味を。
これが神の権能の行使だと理解できたのは、この中でもごく少数だけだろう。
それにソフィー曰くこれはレフィー様の権能と同じではなく、あくまでもレフィー様の権能を模倣して再現しただけでプロセスは違うらしいんだけど。
「ふふっ」
心底楽しそうに。
まるで親に特技を披露した無邪気な子供様な、ちょっとしたドヤ顔を浮かべ。
消し飛んだ天井からさす日の光を背負い。
「これで〝もはや何をしようと、貴方の攻撃は私にとっては無意味〟という言葉の意味を理解してくれましたか?」
唖然と、呆然と、愕然とするラルフィーに告げる。
まるで上位存在であるかのような圧倒的な存在感。
みんなが固唾を飲んで見つめるその光景は、まるで新たな女神の降臨──
っなんだけどな〜。
あの顔は絶対にロクでもない事を考える顔だね。
我ながら完璧に決まった! 今のはさすがにカッコ良すぎる!! とか思ってる顔だ、間違いない。
いやまぁ、うん。
ソフィーの実力はよく知ってるし。
夜中に無理やり叩き起こされて、模擬戦に付き合わされる事なんてザラだし。
それはもう本当によく知っている。
ったく、夜中に勝手に俺の部屋に押し入って来たかと思えば模擬戦って。
まさかの夜這いかと期待させるだけさせといて、あれはない。
「む?」
っと、俺とした事が。
戦闘中で意識を研ぎ澄ませてるとはいえ、俺の視線に気づかれてしまった。
とりあえず優しく笑って手を振っておこう。
ソフィーは気を許した身内に対しては警戒心がかなり緩いし、これで十分に誤魔化せるはず。
俺がソフィーにどんな目を向けていたのか、気づかれることはない。
どうせ後でラルフィーとの戦いの自慢と一緒に、フィルも私に憧れちゃったんだ? とかニヤニヤしながら言われる未来が見える……
トンッ
静かに父上の手が肩におかれる。
「まぁ、なんだ。
頑張れよ」
「……」
ねぇソフィー、実の父親に若干哀れみの目線を……
男として全く意識されていない哀れな息子を見る視線を向けられながら、こんな事を言われる俺の気持ちがわかるかな?
「はぁ……」
「それよりもフィル。
ソフィーちゃんがやってのけたあれは一体?
本当にソフィーちゃんのいう通りなら、彼が言うようにそれではまるであのお方の……」
「ははっ、やっぱり父上でも気になりますか?」
「そりゃあね。
あれは神たるあのお方が行使される力だからね。
それと同じ力を使えるという事は、まさかソフィーちゃんは超越者に?」
まぁ確かに、今のソフィーはそれはもう神々しい。
父上がそう思うのも無理はないか。
「いいえ、流石にそこまでは至ってませんよ」
そもそもアレは魔神レフィー様の権能であって、仮に超越者になろうとも使えるものじゃないしね。
それでも俺達Sランク冒険者の中でも、ルミエ様とガスターさんという例外を除いて突出しているのは認めざるを得ないんだけど。
「それと父上、冒険者の手の内を聞き出そうとするのは御法度ですよ?」
「むっ、それはそうだが……」
まっ! あんなのを目の当たりにされたんだし、父上の気持ちもわかるんだけど。
俺も夜中に叩き起こされて、自慢げにいきなり披露された時はそれはもうびっくりしたしね。
もっともソフィーにとって父上も身内判定だろうし、本人に聞くと嬉々として説明するだろうけど。
それにどうせアレはソフィーにしかできない所業、俺も完全に理解してるわけじゃないけどソフィーの説明によれば……
これは覇気や神域の原理を利用した、魔法の上書きとの事。
まず対象となる魔法をユニークスキル・探究者によって見極め、その原理から魔力の流れまで全てを解き明かす。
完全に理解したその魔法を構築する核となる部分に、ピンポイントでソフィーが有する膨大な魔力でもって干渉する。
すると、あら不思議。
いとも簡単に構築された魔法を消滅させる事ができる……らしい。
つまりソフィーが無効化できるのは、解析が完全終了した魔法に限られるんだけど──
「まぁでも、そうですね」
それでも十分にチートなんだよね。
事実としてソファーと何度も手合わせして、手の内を知られている俺たちではもうソフィーには勝てないし。
膨大な魔力、強大な魔法に類稀な戦闘センスなんかじゃない。
ソフィーの真に怖いところは、その本質は圧倒的な学習能力の高さにある。
つまり、戦えば戦うほどに。
「時間が経てば経つほど、ソフィーは強くなるんですよ」




