507話 それではまるで……
瞬きするほどの時間で放たれる、空間を圧するような無数の斬撃。
「クソ…」
常人には認識する事すらできないだろう凄まじい剣速。
「クソッ…」
熟練の戦士であっても、掠っただけで消し飛ぶ程の圧倒的な威力。
「クソッ!」
それはまさに恐るべき威力を秘めた無数の剣閃によって形成された絶死の空間。
「クソッ!!」
でも……私には通用しない。
「クソがァッ!!」
ラルフィーが苛立ちを隠せずに咆哮し、放たれる無数の斬撃は更に苛烈さを増す。
でも……それでも結果は一緒。
わずかに掠っただけでも致命の攻撃が、私に当たる事はない。
なぜなら……
「無駄です。
言ったはずですよ? 貴方の力はもう見切ったと」
「っ〜!!」
ラルフィーの顔が屈辱に歪む。
「もはや何をしようと、貴方の攻撃は私にとっては無意味!
だから言ったのに、諦めて降伏しなさいって」
「黙れっ!
この程度でいい気になるなよ?」
無数の斬撃を止める事なく繰り出しながら……
バサァ──
黒く濁った翼が広げられ、宙に舞った羽が瞬時に白く輝く剣と化す。
その切先は当然全部私に向けられてるわけで……
「神ノ光獄」
まっ、そう出るよね。
普通に攻撃しても当たらないのなら、単純に手数を増やせばいい。
私がラルフィーの攻撃を結界とかで完全に無力化してるのなら話は別だけど、実際には剣を交わして打ち合ってるわけだし。
ラルフィーが単純にそう考えるのも頷ける。
しかも……さっきのより数は少ないけど、そのかわりに込められている魔力量が跳ね上がってるし。
おそらくこれは……
「先ほどのように凍らせようとしても無駄だ!
今回の剣には対魔法結界を組み込んでやった!!」
やっぱり。
まぁそれでも私なら膨大な魔力量によるゴリ押しで、ラルフィーの結界を食い破る事もできるんだけど……
「ククク、いかに貴様といえども、私の攻撃を捌きながら縦横無尽に遅いくる無数の剣を結界を破って凍らせるのは手が折れるだろうなぁ!!」
それは当然向こうも織り込み済みなわけで。
ラルフィーとしては私が無理に無数の剣に対処して隙を見せるもよし、このまま圧倒的な手数で追い詰めるもよしってところかな?
さすがは最高位天使たる熾天使。
私の同僚たるSランク冒険者のみんなでも、これに対処できるのは少数派じゃないかな?
まぁもっとも──
「それはもう、さっき見ましたよ?」
私には通用しない、というよりも意味がない。
「〝消えろ〟」
瞬間──無数の光の剣が掻き消える。
「……は?」
愕然と目を見開いたラルフィーの間抜けな声が、静まり返った空間にこだまする。
「ふふっ」
対魔法結界を組み込んだ、無数の光の剣が厄介なのは言うまでもないし。
それに加えて、掠っただけでも致命傷となり得るラルフィーの猛攻。
うん、パッと見でも思ったけど……やっぱりなかなかにえぐい。
ルミエ様とガルスさんという例外は別として、人類最強の一角である私達Sランク冒険者でも過半数以上が対処不可能。
これはつまり……殆どの人にとってなす術がないという事を意味し、ゲームならチート認定間違いなし。
が! しかしっ!!
そんな攻撃だろうと、もやはこの私には意味をなさないのだよっ!
「ば、バカなっ!?
ありえないっ!!」
ありえない?
むふふっ、まぁあまりにもな光景に現実を飲み込めないのはわかるけど……
「残念ながら事実です」
現実逃避はよくないなー!
「ッ〜!! 何故こんな事がっ!?
いったい貴様は何をしたっ!!」
何をした、ね。
「ふふふっ、それはたった今貴方が見たままですよ。
私には一度見た技は通用しない」
まぁ正確にいうとちょっと違うだけど。
敵であるラルフィー少年にわざわざ詳しく説明してあげる必要は一切ないし!
ちょこっと話を盛っても問題ない!!
「何故なら……私が消えろと命じれば、対象は私の思うがままに消滅する事になるからです」
ブラフ上等なのだよっ!!
「ふ、ふざけるなっ!! そんな事は決してありえない! あってはならないっ!!
そ、それではっ……それではまるでっ──!!」
「ふふっ」
そう、まるであの最強。
魔神レフィーこと、レフィーちゃんみたいでしょ?
「これで〝もはや何をしようと、貴方の攻撃は私にとっては無意味〟という言葉の意味を理解してくれましたか?」
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