505話 天使VS天使
「下等生物風情がっ!」
バサッ──
顔を真っ赤にしたラルフィーが3対6枚の翼を広げ、同時に無数の白い羽がゆらゆらと宙を舞う。
その光景に、小説の一場面を想起させるような美しい光景に誰もが押し黙り見入る中。
「天使の翼の羽は、下界のあらゆる穢れを祓う」
冷たく、冷酷な瞳で人々を……ソフィーを見下し、熾天使の言葉が紡がれる。
「聖なる輝きを放つ白き剣よ」
ゆらゆらと宙に舞っていた無数の羽が、ピタッと空中に停滞し眩い白い光を放ちだす。
ラルフィーの言葉を倣うかのように、白い光を纏った羽がが剣の形を形取る。
「神敵を滅する刃と化せ」
それはさながら無数の白き光の剣によって構築された剣の牢獄。
ベースが羽だから一つ一つのサイズは短剣くらいにすぎないけど……侮るべからず!
あの剣一つに込められた膨大な魔素は並の魔物。
冒険者ギルドが定めるAランク程度の魔物なら、触れただけで消滅するだろうし。
神聖属性の剣という事もあるけど、それでも基本的に不死であるはずの悪魔族の中でも上位に位置する上位悪魔くらいまでなら容易く屠るだろう。
そんな白い光の剣が無数に、それも前後左右に頭上も含めて360度全方向から剣先をソフィーに向ける。
認めるのは癪だけど、腐ってもアイツは天使の中でも最高位の存在である熾天使なだけはある。
「確かに貴様は強い。
この私に傷を負わせたのだ、今更論ずるまでもないだろう。
その圧倒的なスピードは確かに私にとっても脅威となり得る」
ふむ……なんか急に語り出したんだけど。
さっきの一幕を見ただけでも、スピードはソフィーが上なのは誰の目にも明らかなのに。
そんな当然の事を言われても、ねぇ?
「だが……こうしてしまえば何の問題もない。
熾天使たる私の神聖な羽を媒体とした聖なる剣が、全方位から隙間なく貴様へと降り注ぐ剣の結界だ」
「……」
まぁ確かに。
聖なる剣云々は置いておくとして、全方向からあれだけの弾幕が降り注げば避けようがないしね。
「アハッハッハッハッ!! さっきまでの減らず口はどうした!?
恐怖で声も出ないようだなぁ!」
うわぁ……あれで最高位の天使とか、ただの三下のチンピラにしか見えないんですけど。
あんなのが最後の希望だったなんて……ぷぷっ! めっちゃ哀れなんですけどっ!!
「さぁ! 悔い改め、裁かれよ……神ノ光獄」
ラルフィーが謎テンションで声高に叫んだ瞬間──無数の光の剣がソフィーへと一斉に降り注ぎ……
「白銀世界」
世界が真っ白に染まった。
「……は?」
っと、ラルフィーは錯覚したに違いない!
真っ赤な絨毯が敷き詰められた床も。
吹き飛んで既に存在しない天井を支えていた大理石っぽい柱も。
至る所に亀裂が走ってボロボロになってしまった壁も。
「ふふっ」
そして……ソフィーに向かって殺到していた、ラルフィーが放った光の剣も。
フィルが展開している結界の中を省き、その全てが凍てつき白い氷に包まれる。
「何をそんなに驚いてんですか?」
パキィィッ──
「ッ!!」
熾天使の証であるご自慢の3対の翼まで凍りつきはじめ、身体中の至る所を氷で白く染めて唖然としていたラルフィーが息を呑む。
「さっき一度名乗りましたが……私が世間でなんて呼ばれているのか、忘れてるようなのその身をもって教えてあげましょう」
これこそが! ソフィーの二つ名の所以!!
人類最強の一角にして、人類の守護者たるSランク冒険者であるソフィーの代名詞っ!!
「これが……」
この光景を唖然と見つめて、フィルの結界で守られた人間達の誰かがぽつりと呟く。
「白銀の天……」
「私が〝白銀〟と呼ばれるワケをっ!!」
その声を遮ってソフィーが声をあげる。
「むふふっ」
白銀の天使って呼ばれるのを恥ずかしがって、頑なに認めないソフィーが可愛い!!
後でこの世界で最高峰のスイーツを好きなだけ食べさせてあげよう。
というわけで……
「シルヴィア、ミーシャ」
ごく限られた一部の大人のみが口にする事を許される、できる大人の象徴。
ブラックな飲み物が入ったティーカップをテーブルに戻しながら、我が眷属達に優雅に告げる。
「かしこまりました。
本日のおやつはお嬢様のご要望通り、私が厳選した世界各地の人気店のスイーツをご用意しております」
「ふふっ、ココアもですね!」
シルヴィアが指を打ち鳴らすと同時にいくつものホールケーキが出現し。
もふもふな耳をピコピコ、尻尾をゆらゆらさせながらミーシャがティーカップにおかわりをそそぐ!
「ん、ありがと」
ミーシャにいれてもらったココ……じゃなくて! 大人なブラックな飲み物が入ったティーカップを傾け。
妖艶に足を組み替つつ、ひとまずショートケーキを一口。
「っ!!」
美味しい!
さすがはシルヴィアが厳選しただけの事はある。
これは後でソフィー達とやる祝勝会に出すのは決定として!
次はチョコレートケーキにチーズケーキ、他にもまだまだ多種多様なスイーツが!!
『うわぁ……そんなに甘いものばっかり食べるのはよくないと思うよ?』
「むっ」
出たな邪神。
この裏切り者がっ!!
『はい? 裏切り者って?』
「ふんっ」
しらばっくれても無駄だ!
お前がちょくちょく悪魔王国に出入りして、私のソフィーの事を可愛がってる事は知っている。
『あ〜、なるほどなるほど。
ふふ〜ん、つまり私がソフィーくんを可愛がってるから、悪魔ちゃんは拗ねちゃってるって事だね?』
黙れっ! 違うわ、バーカっ!!
それに! 確かにお前の言うとおり、この量のスイーツを食べるのは体によくないかもしれない。
だがしかし! それは脆弱で矮小な人間共の話っ!!
「むふっ!」
悪魔である私には関係のないことなのだよ。
それに! この後の祝勝会でソフィーに振る舞ってあげるスイーツを選ぶ必要があるしこれは仕方がない事。
「ふっ!」
つまり誰にも我が覇道は阻めないのだっ!!
わかったか?
わかったら今すぐ私に舐めた口をきいた事を謝りに来い!!
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