第6話 魔法の鏡-後-
エマは説明した。
鏡の欠片が刺さったことで心優しい良き父が、家族を殴る恐ろしい男性に変貌してしまったこと。
もし王のような権力を持つ人間に刺さってしまった場合、戦争や虐殺など、どんな恐ろしいことが起きるかわからないことを。
話を聞いてアルヴィンがぎょっとする。
「大変じゃないか」
「そうなのです。だからわたくしは、破片を全て回収をしなければいけないのです。幸い鏡が小さかったから範囲も狭く、夜会に来ていた方だけが対象になると思ったのですが……それでも人数が多くて」
伯母に事情を説明し、なんとか入手してきてもらった出席者名簿はゆうに百名を超える名が連なっていた。貴族男性だけではなく給仕係や侍従、御者といった使用人たちまで含まれていたからだ。
エマがそこまで話したところで、アルヴィンが考え込む。
「……そのリストの中に、兄上の名はあったか? オスカー・ワイズ・オルブライトだ」
「お兄さまの? わたくしの記憶ではなかったはずです。……何か気になることでも?」
「いや、ないならいいんだ。それより、破片が刺さっているかどうかはどうやって見分けるんだ?」
アルヴィンの質問に、エマは答えた。
「目をよーく見れば刺さっているかどうかがわかります。いろんな男性を観察して、ほとんどは回収できたのですけれど……そうこうしているうちに、今日の事件が」
アルヴィンがなるほどな、と呟く。
「大体のところはわかった。破片回収のために男たちに近づいていたから、悪女と悪評がついたのか」
「そう、かもしれません……。声はかけなかったものの、男性たちをじろじろと見つめていたのは事実です。それがよくなかったのでしょうか」
エマがしょんぼりと肩を落としたそのときだった。
パタパタと足音がしたかと思うと、エマたちがいたホールの方から一人の侍女が走ってくる。
「姫さまあ〜〜〜! どこにもいないと思ったらこんなところに!」
やたら甲高い声をした小柄な侍女だった。
茶色の三つ編みを左右それぞれ一つずつぶら下げ、分厚い前髪の奥にはそばかすとつぶらな黒い瞳。
ゼェゼェと息を切らしながら、侍女はエマの前で立ち止まった。
「もう、心配しましたよぉ! 少し目を離した間に消えてしまって、わたくしめがどんなに心配したことか!」
「ごめんなさい、シロ。待っている間に何やら大変なことになってしまって……」
「エッ!? 大丈夫ですか!? やはりお一人にするべきではなかったですね、この前もわたくしめが一瞬目を離した隙にどっかの令息が絡んでいましたし……っていうか誰ですかこの人は!?」
シロと呼ばれた侍女の目が、ぐりっとアルヴィンに向けられる。
即座に彼は営業用王子スマイルを浮かべた。先ほどまでとは違って嘘のような爽やかさだ。
その豹変ぶりに、エマが感心しながら紹介する。
「えっと、この人は王子なの。……多分」
「多分じゃなくて間違いなく王子だ。私は第二王子アルヴィン。よろしく」
アルヴィンの自己紹介に、シロが「マッ!」とけたたましい叫びをあげた。
「これはこれは、アルヴィン殿下でいらっしゃいましたか! 失礼いたしました。わたくしめは姫さま……じゃなくて、お嬢さまの侍女シロでございます」
深々と頭を下げるシロの頭に、ここぞとばかりにシマエナガたちが着地する。
『シロ聞いて。この人僕たちが見えてるんだよ』
『そうなの! 姫さまのことも見抜いちゃった!』
『超~レア〜ぷぷぷ〜』
「エッ! そうなんですか? もしかして魔法使いの類でいらっしゃる!?」
シロがバッと勢いよく頭を上げた拍子に、シマエナガたちがころりころりと転げ落ちる。そのうちの二羽をアルヴィンが、残る一羽をエマがそれぞれキャッチした。
「いや、少し見えるだけで魔法使いではない」
「ホゥッ! それはまた稀有な……と言うことはわたくしめの本当の姿も見えると?」
シロが確認するようにエマの方を見る。
何やらうずうずしているようで、瞳孔が人間ではありえないくらい開いていた。
「見えるかもしれないわ」
「なんと興味深い! では失礼しまして!」
言うや否や、ぽん! と弾けるような小気味のいい音がしてシロの姿が消える。
代わりに現れたのは、ひょろりと長い体に、全身がツヤツヤの白い毛で覆われた小型の獣。短い脚に、ぴょこんと飛び出た丸い耳。くりっとしたつぶらな黒いおめめに、先端だけが黒いふさふさのしっぽ。
「……オコジョ?」
目を細めたアルヴィンがつぶやいた。
※シロの声はCV:濱●マリさんで想像してもらえると嬉しいです。
特に「あしたまにあ~な」って言っているときの濱田●リさんだとベストです。




