あぶら味噌丼
「カードは無くさないでくださいね。再発行はお金かかりますので」
最後に注意を受けて、カウンターを後にすると案内してくれたおっちゃんが手招き。
「カードは出来たようだな」
「ええ。ありがとうございます」
「別に何も俺はしていないがな。こっちだ」
呼ばれるままについて行くと、この間干し肉を買ったカウンター。
「あらぁ、干し肉はぁいかがでしたぁ?」
相変わらず少しだけ間延びした感じの声で聞かれたので、
「燻製は食べやすかったですけど、そのままの方はちょっと辛かったので、洗って食べる感じだと何とかって感じでしたね」
この間の干し肉の感想をそのまま伝えたのですが、
「肉を買う位だからとは思っていたが、保存食を食べやすくするのか……」
「食べやすくという程の事はしていませんけどね」
「いや、昔から作ってはいるが……なるほど、洗うか」
なにやら少し考えているようですが、おっちゃんを無視するようにカウンターの女性が聞いてきます。
「食べてぇいただけたのでしたらぁよかったですぅ。それでぇ、本日はぁどうされましたぁ?」
「あ、いえ。えーっといまギルドカードを作りまして、近いうちにダンジョンに入りたいと思っていまして。色々と話を聞いてみたいという所です」
おっちゃんにも言ったのと同じ説明で、ダンジョンについて聞きたいと話します。
「えーっとぉ、入るのはぁソロダンジョンの方でぇいいのかしらぁ?」
「あ、はい。パーティーも居ませんので」
一瞬、頭に精霊がよぎりましたが、仲間ではありますがパーティーという感じは無く。
「他のぉダンジョンはぁ今カードを作ったという事はぁ、入ったことはぁないわねぇ?」
「ないですね」
「そうなるとぉ、先にぃここのぉダンジョンのぉ特性を教えた方がぁ良さそうですねぇ?」
「特性ですか?」
「ええぇ。今の所ですけどぉ、ここのダンジョンはぁ終わりがないとぉ言われていますぅ」
「え?」
終わりが無い?
「今の所のぉ最高記録はぁ三桁以上とぉ言われているんですけどぉ、確証はぁないんですぅ」
「なるほど。なんというか、凄いダンジョンなのですね?」
「そうですねぇ。あとぉ、他のダンジョンとぉ決定的に違うのがぁ、中で人に会わないという事ですねぇ」
「人に会わない?」
「何階か階段をぉ下がるとぉ、セーフルームという安全地帯がぁある事は確認されているですけどぉ、別のパーティーとぉ遭遇することはぁないんですぅ。だからぁ、全てはぁ自己責任とぉいう事ですねぇ」
何というか、中々凄いダンジョンなのだとわかります。
「情報を少し集めている時に聞いたのですが、そこに転送の魔法陣があるのでしょうか?」
確認をするような形で聞いてみます。
「よく知っていますねぇ。その通りですぅ。それ以外にもぉ戻れる方法がぁあるという噂はぁあるんですけどぉ、確かなぁ情報はぁまだあまりぃないんですぅ」
何か知っているようでもあるので、初めて入るダンジョンに対しての楽しみも残してくれているような感じで言ってくれるので、そのうち聞けば教えてくれそうな雰囲気。
「あとはぁダンジョンに入ってぇ色々とぉ体験してもらうしかぁないですねぇ。それでもぉ初めての場所が怖いと思うのならぁ、団体用のぉ日帰りのぉダンジョン散策にぃついて行くのもぉ手ですねぇ」
「ダンジョン散策ですか?」
「そうですぅ。大手クランがぁ定期的にやっているのにぃ混ぜてもらえばぁいいとおもいますぅ」
「クラン、ですか?」
「あー、例えばそこの騎士のような恰好をしている人達がいるだろ?ああいう人たちが数名でチームを組んでいるんだ。それを一纏めにしているのがクランってやつだ」
おっちゃんが説明をすかさずしてくれます。
なるほど。ギルドとは別で色々なチームがあって、そこがイベントをやっていると思えばいい感じかな?そのイベントの一つにダンジョンを散策することが出来るという話の様子。
「理解しましたが、色々な初めては自分で楽しんでみようかと思います」
「そうか。それもいいと思うぞ。五階位までならそこまで厳しい事も無いから、準備はしっかり調えてから出発してくれるといいがな」
「はい。そうします」
カウンターの女性は説明が終わったのなら、もういいかな?という感じで、会釈をすると奥に戻ってしまいます。
中々興味深い話を色々と聞けて、自分としては結構満足な状態なのですが、
「で、どういうスタイルなんだ?」
ここに残ったおっちゃんが聞いてきます。
「あー、一応近接は木剣を振っているので、少しは出来るかなと。あと、魔法も撃つ感じですかね」
そう言えばスタイルの説明も多少精霊に聞いていましたが、何となくしか考えていません。とりあえず今やりたい事を言ってみると、
「ふむ。何でもこなすオールラウンドタイプか。そうなると、多少動けないといけないから、ああいう重たい鎧は向かないな」
先程の説明でチラリと視線を向けたクランの一人を例えであげてくれます。
「鎧だと皮か鱗。後は少し素材のいい服がいい所だろう。後、武器の木剣は流石に耐えられるかわからんから、一応普通の剣の方がいいと思うが……、色々と話をここ以外でも聞いているようだから、あまり強くは言えんな」
色々と教えてくれながらも、こっちの事を気にしてくれているのがよくわかります。
「あ、はぁ」
その気遣いに面食らってしまい、気の抜けた返事。
「こんななりをしてはいるが、ここの職員だからな。人を見る目はあると思うぞ?」
「あ、いえ、というか、なんというか、すみません」
「だから気にしないでいいぞ。とりあえず知りたい事は分かったか?」
ダンジョンに入ることが出来るようになって、必要な装備も何となく理解できました。どうしても怖いと思うなら、クランと一緒に行けるという事も分かったので情報としては十分なはず。
「あ、そう言えばダンジョンでの食事はどうしているのです?」
それほど長く潜るつもりはありませんが、非常食やある程度の備えも必要だと思って確認してみると、
「あー、この前の干し肉の時にも思ったが、大体が日帰りで、団体だと数階降りて転送された階から再突入が出来るから、そこまでがっつりというのはかなり減っているな」
干し肉の時に微妙な顔をされた記憶は間違いではなかった様子。
「食事は皆さん取らない感じなのですね?」
「だな。あとは一応パンを歩きながら食べるぐらいはあるだろうけど、まぁごく一部だが非常食を持っているのもいるから、間違っているといえるほどの事は無いが、そう無理をするものでもないっていう所だろう」
「なるほど。わかりました」
「とりあえず役に立てたか?」
「ええ、かなり。今日はこのぐらいにしておきます」
「そうか。まぁ、入り口の方には俺たちは居ないが、職員はいるんでそいつのいう事は聞いてくれよ?」
「ええ。そうします」
そんな感じで話も一段落。
一人で夕飯を考えながら、家へ向かうのですがこの前も食べたのですがなんかナスが無性に食べたい気分。
「ナスを焼くだけもいいけど……流石に精霊は満足しないよなぁ」
精霊もある程度満足してくれた方がいいとなると、やっぱりご飯?
お昼の残りという程の量は無いかもしれないのですが、炊いている間に何かを作れば間に合いそう。
「んー、どうしよう?」
ナスが食べたくて、ボリュームも欲しくて。勿論あまり面倒な調理をしたいわけでもありません。
「んー、きまらないなぁ」
そんな感じで歩いているうちに家の前。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
精霊もお出迎えをしてくれます。
「夕飯は決まりましたか?」
「それがこれってまだ決まっていなくてね」
「そうなのですか。ですが、お腹は減りますよ?」
言われなくても分かっています。決まらないけど、とりあえずご飯を炊くとしましょうか。
二人分なので、二合で十分。
とりあえず、冷蔵庫をみると欲しかったナスはすぐに見つかります。
少しの間、にらめっこ。
ナス、ボリューム、うーん。
色々と頭の中をぐるぐると映像が回って、一瞬、チラリと美味しそうな一品が通り過ぎた気がします。
「お、今の」
頭の中でゆっくりと先程の映像を流します。そして、チラリと見えた一品が今日の夕飯にはぴったりの品。
「決定!精霊、すぐ作るからちょっと待っていて」
「決まったのですね。了解です!」
いい返事ですが、別に精霊は何もしてくれませんが、それも気になりません。
チラリと頭に浮かんだのはB級グルメの祭典の時の映像。
その地方で作られる味噌を使った一品。
使う材料は豚バラ肉、ナス、タマネギ、ニンジン、ピーマン。
豚バラ肉は食べやすい大きさにカットして、ナスは少し大きめに六等分から八等分。タマネギも食感重視の大きめに切って、ニンジンとピーマンは細く千切り。
ついでに、ショウガも千切りに。味にも、食材にもなる大事な一ピースです。
材料を準備したら、先にやるのは味付けのキモの味噌。
流石に自家製味噌は無いのですが、用意があるのであればそれを使って。無い場合は普通の味噌で大丈夫。ただ、甘さが欲しいので、味噌よりも少し少ない程度に砂糖を入れて、出汁も一緒に混ぜておきます。
フライパンに油を敷いて、ショウガを投入。香り立たせたら、まずはお肉。
色がしっかりと変わる程度まで炒めて、一度お皿に。旨味も出ているのですが、余分な脂も出ているので一度綺麗に拭いてからもう一度綺麗な脂を敷いて、次は野菜を。
ニンジンがしんなりとして、タマネギは透明に。ナスやピーマンも油を吸って、いい色に変わったら塩コショウで軽く味付けをしてから、お肉を戻して先に準備した甘めの味噌を投入。
全体に絡めてちょっと強火で蓋をしてシッカリと味噌を焼く感じで全体になじませたら出来上がり。
丁度タイミングもばっちりでご飯も炊けた様子。
すぐにご飯をよそって、具材を乗せれば完成です。
「出来たよ。あぶら味噌丼」
「おぉぉ?」
精霊はなんとも微妙な表情、なのでしょうか?不思議な声。
「あとは、卵黄だけ乗っけて。白身は後で卵焼きかなにかで使おうか」
「見た感じ、炒めものの丼ぶりという感じですね?」
「うん。あ、最初に卵を溶いちゃうと味が変わるから、最初はそのまま。途中で割って、二度楽しむ感じでね」
この食べ方が最高。お店によっては卵無しもあるのでそれも悪くないのですが、折角ならば美味しい方が。卵好きでもあるのであるに越したことが無いというのが僕の感想。
「わかりました、さ、たべましょう」
「うん」
「「いただきます」」
少し甘い味噌の味に違和感はなくするっと箸が進みます。少し食べて慣れてきたころに卵黄を割ってみると、全体がまろやかに。これはこれでちょっと違ってちょっといい。
「どお?」
「おいひいです」
口いっぱいに頬張っているような声で精霊が返してきます。
「それならよかった」
「それと、何故かわからないのですが」
「ん?」
「懐かしい感じがします」
「うん。わかる」
そう、この料理をさっき決めた時の切っ掛けもソレ。
「初めて食べた時に僕もそれ思ったの。初めてだけど懐かしい味ってすごいよね」
「ええ。これはすごいですね」
この後にゆっくりと雑談をしながら、楽しい夕食を過ごしました。
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