タコス
「全く、なんで、ああいう風に美味しいものを後から出すのですか!」
しっかりとチャーハンを食べ終って、お客さんも帰って洗い物をしているのに精霊はまだお怒りの様子。
「いや、ラーメンの方が美味しいよ?」
僕としてはラーメンの方が好きなので、チャーハンはサイドメニューというかラーメンと並べたら絶対にラーメンが勝つに決まっているので、同じ土俵じゃないというか……。
「でも、かなり今日のチャーハンも美味しかったですよ?」
嬉しい事を精霊も言ってくれます。
「それはありがとう」
御礼を言いながらも洗い物を続けて、今日の仕事は一段落。
「今日、どうするかな?」
ダンジョンの話を色々と聞きたいのもありますが、聞いた話だけを考えるともう少ししっかりと鍛えた方が良さそうな気がしています。
そして、本当に入るのであれば絶対に必要な物もそろっていないのでその辺りもどうにかしないといけないでしょう。
「いつも通りの作業でしたら、私はもう少しダンジョンについて調べてきますよ?」
そうなると、今日も一人草原でいつもの木刀作りかな?
磨きも終って、次は新しい木を削る所から。
「分かったよ。じゃあ今日もいつも通りにするかな」
「あ、でもいつも通りも悪くありませんけど夕食を今から作ってくれてもいいのですよ?」
「え、今から?」
何を作ろうかも全然決まっていないのに、何かを作れと?
「時間のかかるものを作ってもらうのもいいじゃないですか」
「時間のかかるもの?」
今日は朝からラーメンを作りたくて作っているので、調理熱はそこまで冷めていないので何か作るとなれば作ることも出来そうですが、時間がかかるものを作りたいかと言われると、ちょっと違います。
「何がいいというのはないのですけどね」
精霊もとりあえず言ってみただけの様で、コレといった案は無かった模様。
「んー、今は気分じゃないから。今日はとりあえず行ってくるよ」
「仕方ないですね。いってらっしゃい。私もいってきます」
「うん、いってらっしゃい。いってきます」
お互いにお互いが挨拶をする形で、今日もいつもの作業をすべく木を持って南の扉へ。
「こんにちは。今日もいつものか?」
南の扉の門番さんが今日も挨拶をしてくれます。
「ええ。形作ろうと思いまして」
「へぇ、コレがいつものあの形になっていくわけか?中々凄いな」
まだただの木なので出来上がったものを想像して言ってくれている様子。
「まぁ、形を切りそろえて磨くだけですけどね」
「そんなもんか」
「ええ。そんなもんですよ」
木を持ちあげて、扉の方へ。
「じゃあ、いってきます」
「おう。気をつけてな」
扉を開けてもらって、草原にでていつもの作業場所へ。
移動も慣れたモノでいつもの場所で木を削る作業から。
それほど時間がかかることなく、木の形は木刀に変わっていきます。
「よっし、いい感じかな」
木屑が沢山落ちていて、それが次第に別の物に見えてきました。
「……チーズ?」
チェンソーによる木屑のカスがチーズに見えて仕方ありません。
チーズかぁ。こうたっぷりのチーズを食べられるモノ。結構色々あるよなぁ。チーズたっぷりだと、最初に思い付くのはピザ。
「ピザは作るの流石に時間がかかりそうだし、この間食べたばかりだもんな……」
ただ、今日は麺類にご飯物を食べているので、麺、飯ときたらパン系がバランスとしてはイイ気がします。
「パンで、チーズたっぷり?だとなんだろう?」
頭の中で浮かんでは消えて、色々と考え始めていると木刀作りの手はストップして次第に思考は夕飯に引っ張られます。
「あ、そうだ」
思い付いたのは一応パン系な一品。
一応作れない事は無いハズですが、作ったことが無いものもあるので少し時間はかかりそう。
手元を見れば、形が整えられたばかりの木刀。時間は結構経ってはいるのですが、ソレでもいつもよりは早い時間。
「夕飯の為に早めに帰るか……」
ちょこちょこと褒められた事も嬉しかったので、今日は作業を切り上げて戻ることに。
具材は作ったことがあるのですが、メインになるパンの部分は買ったことしかありません。こういう時の精霊頼み。家に帰ってその辺りは補う予定です。
南の扉を抜けて、家に戻って。
「ただいまー」
いつもの様に声を掛けたのですが、返事は無く。
「まだ精霊は帰っていないのか」
いつも返事があったので、返事が無いというのは思っていた以上に静かなので少しだけ寂しさを感じたのですが、
「あれ、雅?おかえりなさい」
ちょっと遅れての精霊の声。
「居たの?」
「居たというか、まぁ。思っていたよりも速かったですね?」
「夕飯を思いついてね。コレから準備するんだけど、後でちょっと手伝ってね?」
「ほほぅ。何を思いついたのかわかりませんが。楽しみです」
精霊が居ただけで自分の声が明るくなるのがよくわかります。
すこし寂しく感じた気持ちは気が付いたらなくなっていました。
手を洗って、夕飯を作るのですが作ったことが無い方を先に仕上げたいので、まずは精霊に検索をお願いすることに。
「精霊、タコスの皮の作り方を調べてもらえる?」
「タコスの皮、ですね?少々お待ちください」
そう言うと、ローディングの状態に精霊がなって少し無音な時間。
「レシピの検索が完了しました。すぐにお伝えしても?」
「うん。お願い」
タコスの具は何とかなりそうなので、とりあえず作りたいこっちから。
「薄力粉、強力粉、ベーキングパウダー、塩をサラダ油と水で混ぜて、少し寝かせた後にピザ同様、平たく伸ばしてフライパンなどで焼けばいいようです」
簡単に精霊は言ってくれますが、自分で作ったことは無く。あまり多くはありませんがタコスが食べたい気分の時はお店で食べるか、この部分は買ってきて、作るのはせいぜい中身だけ。
上手くいくかは分かりませんが、とりあえず生地を休める時間も必要そうなので、言われた通りの具材を混ぜます。
教えてくれたレシピは粉などの量が大体一緒で測りやすく、ボウルに入れてかき混ぜて。
ある程度一塊になったら、一度濡れ布巾をかけて休ませて。
「ピザとそれほど変わらないかな?」
この間はかなり時短というか、魔法を使ってもらったので実質の待ち時間はゼロだったのですが、今日はそう言う事無く。
生地を休ませている間に、具材の準備も少しします。
使う材料はいつものアイツ。そう、タマネギ!そして合い挽き肉。
この二つでタコスミートを作る予定で、同じく作りたいのはサルサソース。
「サルサソースは少し寝かせたいから、こっちからかな」
作り方はいたってシンプル。
トマト、タマネギ、ピーマン、セロリなどの野菜を小さくみじん切りにして、そのままだとちょっと辛いのでタマネギは水に少しさらして、ボウルなどに一纏め。
レモン汁、オリーブオイル、おろしニンニク、隠し味の砂糖、塩を一振り。そしてお好み量のタバスコを入れてひと混ぜしたら後は休ませるだけ。休ませるとトマトや他の野菜の水分がじんわりと全体に広がって、ソースの様に。
フレッシュサルサと呼ばれる簡単だけど美味しいソース出来上がりです。
「んー、結構いい感じに休んだかな?」
生地を触ってみるとパン生地程柔らかくはなっていませんが、伸ばしやすい硬さになっているので、かなり薄目に伸ばしてあとは両面をフライパンで焼けばタコスの皮も出来そう。
「精霊、火加減はどんな感じで焼けばいいの?」
「中火でじっくり焼けばいいようです」
タコスの生地をフライパンに乗せて焼きながら、もう一つフライパンを出して同時進行でタコスミートも作りましょう。
先程刻んだ残りのタマネギをまずは炒めて、色が薄くなってきたら合い挽き肉を入れます。合い挽き肉も色がある程度変わって来たら、味付け。
ケチャップ、ソース、醤油とチリパウダーを入れて、火は弱火にして全体になじませたら出来上がり。
タコスの生地もいい感じに焦げも付いてしまいましたが焼けたので殆どの具材の準備は完了。
後は好みでとなるのですが、もう少し僕としては野菜もとりたいので、アボカドを角切りにして、キャベツやレタスの千切りも準備。そして、今日この料理を思いつかせてくれた主役。チーズも山盛りにボウルに用意したら完成です。
「雅、色々な具材はあるのですが、コレが今日の夕食ですか?」
厨房の机の上には焼けたタコス生地、サルサソース、タコスミート。そしてアボカドにチーズ、キャベツとレタスの千切りと色とりどり。
「そう。それで、こんな風に……」
一枚のタコス生地を手に持って、お皿に置くと各自に置いておいたスプーン等で軽く装ったモノを生地の上に。
最初なのでシンプルに乗せるのはタコスミート、サルサソース、レタスの千切りとチーズたっぷり。それでも乗せられるのは四分の一程度。これ以上乗せたい気持ちはあるのですが、それをすると綺麗に包めません。
「それだけしか乗せないのです?」
「この位までしか包めないからね」
パタンと畳むように食べやすいクレープのような形にして、出来上がり。
「私はたっぷりとこんな感じですね」
精霊はお皿に生地を置いた上に、山盛りてんこ盛り。
包む気は一切ないという感じ。
「それ、どうやって食べるつもり?」
一応確認してみると、
「横からがぶりと?」
「う、うん。まあ好きに食べよう。いただきます」
「ええ。いただきます」
自家製のサルサソースの味にタコスミートの肉の味。それをチーズが柔らかく受け止めて、レタスのシャキシャキもいい感じ。
「……雅の方が美味しそうに見えるのは何故ですかね?」
食べ方として間違っているとは言いづらい、ちょっと不思議な夕食。
流石に二個目はグッと我慢したようで、普通の形になったのですが、それでも少し足りなかった様子。
「あー、一応言うけど残ったら明日ご飯と一緒に食べられるから、それも結構美味しいよ?」
「え!?そんな事も!?」
精霊はどうやら今回の食事だけで食べきろうとしていたようで、そんな事をしなくてもタコライスで翌日も食べられると知ると、盛る量がグッと減ったのでちょっと無理をさせていたのかなと一瞬思ったのですが、
「食べきって、朝またつくってもらうのもいいですね?」
「朝からは作らないよ」
食欲お化けな精霊は今日も相変わらずの様子です。
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