ブリ定食
「今週も頼むよ」
お店に入って、いつもの様に挨拶をしてきたのはがーさん。
「こんにちは、いらっしゃい」
いつもの様に挨拶をして、おしぼりとお水の準備。
「この間はすまないね。家族も楽しめたと言っていたよ」
「それは良かったです」
僕の返事に他の方からも、
「こっちもだよ」
「ウチは誤解も解けたようでよかったよ」
「……(無言でひたすら頷く)」
皆さん好評だったようです。
「そう言えば、あの飲み物は?」
「あの飲み物?ですか?」
あの時はひたすら厨房でドリンクはがーさんがやってくれていたので良く知りません。と、言いたいところですが片付けをしていたので何となく分かります。
「ガラナですか?」
「そうっ!ソレ!!ちょっとコーラと違って、でも美味しくて!」
ビンが数本あったので、調理も終わった後に自分も久しぶりに一本ゆっくりと飲んだのですが何とも言えない美味しさは変わらず。
「冷蔵庫に入っているよ」
聞くよりも先にがーさんが答えてくれました。
「飲みたいときには出してもらえばいいさ」
炭酸が効いているので、ちょっとこってりしたモノに合うので今日の料理には微妙かもしれませんが、お客さんの要望に応えるだけなので問題は無く。
「じゃあ、今日もお願い」
一人が言うと、皆さんもそんな飲み物があったのかという所から始まって、やいのやいのと賑やかに。
いつもであればそのまま厨房に戻るところですが、今日は確認したいことがあるのでそうもいきません。
「えーっと、今日のランチなのですが……」
僕が言葉を発すると、ピタリと皆さんの言葉が止まって耳をすぐに傾けてくれました。
なのでそのまま確認を。
「ブリを焼くのですが、塩焼きか一度食べていただいた事があるかもしれませんが、照り焼きのどちらにしましょう?」
「因みに、どっちもという事は出来ないのかい?」
真っ先に聞いてきたのはがーさん。
「出来ないことはありませんが、多分少なく感じて食べた気がしにくいかもしれませんが、それでもよければ……ですね」
がっつりと行きたいのであれば、照り焼き。
さっぱりと行きたいのであれば、塩焼き。
僕としてはそんな感じで、好きな方を選んでもらいたいという気持ちで確認をしたのですが、がーさんの発言があってからも誰一人言葉を発することなく悩んでいる様子。
まるでチキンレースの様な緊張感のある空気になっているのですが、僕としては早く返事が欲しい所。
その沈黙を最初に破ったのは、やはりがーさんで。
「それでも、両方食べたいから半分ずつで」
その一言を皮切りに、皆さんも決まった様で、
「同じく、両方食べたいので」
一人が決まれば、皆も決まる様子。といっても答えも一緒で後の方達は右に同じという感じになっていって、結局全員両方食べたいという事に。
「では、皆さん塩焼きと照り焼きということで?」
「はい」
オーダーの確認が取れたので、後は作るだけ。
ご飯は炊いてあるので問題は無く、汁物はそのままアラ汁が出来ているのでこちらも問題なし。
小鉢になるものはほうれん草の御浸しと紅白なますが用意してあるのでそれを添えればオッケー。
ブリはサクから切り身の状態にしてから下準備。
切身の状態にまずは軽く塩を振って、十五分から三十分程度休ませます。お酒も使って臭みを飛ばしたい場合は塩の後にお酒を振って、馴染ませましょう。
すると水気が出て来るのでこれが臭み。流水でしっかりと洗って水気をふき取ってあげましょう。
この下準備が終っているブリを今日は塩焼きか照り焼きに。
皆さん半分ずつという事なので多少面倒ではありますが、身を半分に切って塩焼きで使う分はそのままで、照り焼きで使う身は薄く小麦粉を振ります。
二つのフライパンでは足り無さそうなので、四つのフライパンを使って焼いていくことに。
塩焼きの方はシンプルに油を敷いて、焼くだけ。塩を軽く途中で振ります。
照り焼きも前回同様に難しい事は無く。
タレが絡むと美味しいので、今日の様に準備の時間があるときは長ネギを食べやすい長さに切りそろえて、少しだけ隠し包丁を。こちらも塩焼き同様にフライパンに油を敷いて焼き始めます。
どちらも両面がいい色に焼き色が付く程度焼いてあげましょう。
照り焼きは醤油、酒、みりん、砂糖をある程度焼けてから入れて、スプーンなどでタレをぶりにかけてあげると、ブリについている小麦粉に絡まって、少しとろみも出てどんどん美味しく、そしてネギも一緒に焼いているので少しネギ焼きの香りも醤油に絡まってかなりいい香りに。
お皿に盛るのですが、流石に塩焼きに照り焼きのたれが付きそうなので別々に。
勿論生姜の酢漬けも照り焼きには添えて、今日のランチの完成です。
「お待たせしました、ブリ定食です」
ブリの塩焼き、ブリの照り焼き、ほうれん草の御浸し、紅白なます、ブリのアラ汁にご飯とブリ尽くしなのでブリ定食。
よく見てみると、ガラナが数本出ているので待っている間にがーさんが出してくれたみたいです。
皆さんが食べ始めたので、厨房に戻って一息つくと精霊が待っていましたとばかりに出てきます。
「私の分はこの後ですか?」
「だね。アラ汁ならすぐに飲めるけど?」
「すぐにいただきます」
精霊の分のアラ汁をよそって、箸と一緒に渡します。
少しずつ箸使いは上達しているので、拙い感じではありますがアラ汁もなかなか上手に飲んでいます。
「ちょっといいかい?」
そんな精霊を見ていると、がーさんがふらりとやってきました。
「アラ汁が出てきたから無いかもしれないとは思ったけど……」
「無いですよ?アラ煮は」
「分かっていてやったのかい」?
「マスターに何度も言われていますからね」
さっき僕と精霊で食べたアラ煮。
僕がバイトしていたお店でも魚を捌く事は結構ありまして、美味しいアラ煮が食べられそうな日は特にアラ煮の注文が増えるのですが、たまにはアラ汁が飲みたい気分があるようで、そんな時は決まってこう言っていました。
“アラ汁にしてしまえば、アラ煮には戻せませんから”
味噌を入れて、根菜を入れて。アラ汁として凄く美味しいのですが、この状態からアラ煮には戻せません。
あのお店も僕のやっているこのお店もお酒が飲めるお店なので、需要としてはアラ煮の方が多いのは分かっていますが、そちらに対応し過ぎると自分の食べたい物が食べられなくなることもあります。
あくまで作る人が優先だとマスターに何度も言われて、作る人が決めていいと教わったことを思い出します。
「がーさん、アラ煮おいしかったですよ?もう、ないですけど」
煽る様に精霊が言います。
「出来れば次回は少量でいいので取っておいてくれない?」
「分かりました。少量、とっておきますね?」
それを見られたら他の人がどういう反応になるのかは分かりませんが、オーダーは少量。
「さて、冷める前に食事に戻らないと」
がーさんもトイレに立ったように席を立っていたようで、まだ食べている最中。
今日のお昼もとりあえずなんとかなったかなぁ?
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