白和え
厨房から玄関が開く音が聞こえたので、
「こんにちは、いらっしゃい」
いつもの様に声を上げて手を止めるとお迎えに。
「今日も楽しみにしてきたよ」
がーさんの後ろをいつもの六人がぞろぞろと。
席に案内をせずとも、皆さんも自分の席へ。お水とおしぼりを出して、先に案内を。
「今日は先にスープを出すので、その後にメインの予定です」
厨房に戻って、ここからが本番。
準備していたお皿に冷蔵庫で冷やしたビシソワーズを注いで、持っていく準備。同時進行でパスタを茹でる為のお湯を沸かしなおし。
まずはスープを出すところから。
「今日は冷製のジャガイモスープ、ビシソワーズからどうぞ」
スープ皿に結構たっぷり。
コレを飲むだけでもかなり楽しめる量にはなっているので、パスタまでの時間稼ぎは十分出来る筈。
「ほほぅ。美味しそうだね」
「冷製スープ!!」
「色々なスープを楽しんでいるけど、こういうのもあるのか」
「これは、なんと」
「……(聞きとれないような小さい声で“いただきます”と言って早速飲み始める一人)」
「おいっ、まずはいただきますから……」
「いただきます」
とポツリと言って、もう一人もすぐに飲み始めます。
多分、大丈夫と信じてサーブを終えたので厨房に戻ってパスタの仕上げを。
お湯が出来るまでにやることは、ナスの調理。
ナスのヘタを落としたら、そのまま輪切りに。それをフライパンに綺麗に並べて上からオリーブオイルを全体に掛けるような感じで。ある程度焼き色が付いたらひっくり返して、次は味付け。塩とあれば乾燥バジル。無ければシンプルに塩だけでも十分。
焼きあがったら、お皿に置いて後でこれはトッピングで。
チキンのトマト煮は出来ているので、後はパスタを茹でるだけ。
「どうしようかな」
ここで思わぬ悩みが。
このままパスタを茹でて、パスタを盛ってその上にチキンのトマト煮を掛ける形にするか、フライパンで一度全体を混ぜる形にするか。
ナスは出来上がりに乗せる予定なので、いいのですが微妙にこのタイミングで悩むことに。
「雅、手が止まりそうですがどうかしましたか?」
精霊が後ろにいつの間にかいて、聞いてきたので今どうしようかと考えているとそのまま伝えたのですが、
「でしたら人数が居るので楽な方を選んだ方がいいのでは?」
言われてみればその通りで。フライパンで火を通しても味がそこまで変わることもありません。であればパスタを茹でるだけの方が簡単。
「ん、精霊ありがとう」
「いえいえ。さっき悩んでいたアレは作るのです?」
「どうなるかなー」
ちょっとだけ軽口をたたいて、精霊の言う通りちょっとだけ楽な方を選ぶことに。
フライパンで混ぜないので、パスタはアルデンテですがしっかりと火は通った状態で上げることに。お皿にパスタを盛って温めたチキントマトソースをたっぷりと掛けます。そしてナスを出来るだけ乗せて、メインの完成。
「お待たせしました。本日のパスタ、チキンとナスのトマトソースです」
皆さんスープは楽しんでいただけていたようで、しっかりと無くなっている感じ。
全員にパスタを出し終えると、がーさんが厨房に戻る僕に声を掛けます。
「本当にすまないが、コレだけ美味しいから粉チーズを出してもらっていいかい?」
「あ、忘れていました。すいません」
粉チーズを急いで持ってくると、がーさんは結構たっぷりと掛け始めます。
「おいおい、コレだけ美味しいものにそういう味変化は失礼じゃないか?」
「だから先にしっかり謝ったの。んんーーー。最高っだよ」
がーさんはチーズをたっぷりかけるのが好きで、チーズ入りは結構お気に入り。
「あら、本当。トマトとチーズが合うのは分かるわー」
折角チーズがあるのならとがーさんが使い終わると皆さんもパラリと。
「まぁ、ここまで言うから闇は使わないよな?」
そう言って、火の人も少しかけたところをパクリと一口。
「いや、そうじゃなくて……」
言われるままで動けない闇の契約者さんは僕に視線を向けて聞いてきます。
「あの、掛けても、いいですか?」
「全然かまいませんよ。出来立てを味も見ないで色々とかけられたら流石に苦笑いしそうですけど、味変化で使う分には気にしないでください」
味見もしっかりして作っているので、作っている人の気持ちというのもあるもので。
こっちの世界に来る前、家族で食事をしていたときに行った街の中華屋さんでいきなりソースやお酢を焼きそばにかけるおじさんを見た時はかなりビックリしたことがあります。
あまりに僕が驚いた顔をしたのをお店の店主が見たようで、帰り際に“ああいうお客さんも世の中にはいるもんだ。でもね、あれはアレで美味しいからまあ憎めなんだよ”と苦笑いをしていたのを思い出します。
「美味しく食べてもらえることが、大事ですからね」
作った僕が言えるのはこれぐらい。
「そ、そうか。じゃあ」
言われて早速チーズをかけて、パクリと一口。
「本当だ、これはこれで違って美味しい……あれ、チーズは?」
粉チーズはグルグルとお客さんの手を回って、いつも無言な土の方の横。
「コクコク(かなり美味しいのか首を縦に振り、食べ、チーズを掛ける動作が一連でひたすらそれを繰り返している)」
「おい、独り占めはズルい!」
大きな声が上がって、皆さん楽しそうに食べていたので、
「もう一つ粉チーズをお持ちしますね」
そういって下がることに。
「粉チーズを掛けるだけであれほど美味しそうになるとは。やはり隠しているものがありましたね?」
戻って来るなり精霊が言います。
「アレは好みだからね」
もう一度チーズを客席へ。
厨房へ戻ると一段落。
作ろうか迷っていたモノは結局作りませんでしたが、逆に一人でゆっくりそれが食べたくなります。
「折角だから作るか」
まだお客さんが食べているので合間でパパッと。
使う材料もシンプルに。豆腐とほうれん草だけで。
豆腐は出来るだけ水をしっかりと切って、キッチンペーパーに包んでレンジでチン。
ほうれん草は根元の土をしっかりと落として、茹でたら水でシメてぎゅっと絞ってあとは適当な大きさに切るだけ。
ちょっとだけ大きめのボウルを用意して、水気の減った豆腐を入れてそこへ味付け。
醤油、砂糖かみりんを入れて豆腐をしっかりと崩して、ほうれん草を一緒に和えたら、シンプルな白和えの完成。
ニンジンも入ると色合いとしてはバッチリなのですが、お客さんもそろそろ食べおわる可能性もあるので、あえての手抜き。
パクリと出来立てを一口。ちょっとだけ甘くて、醤油の香りは殆どなくちょっとしたおつまみ感覚。
「ん、食べたかったからって言うのもあるかもしれないけど美味しい」
「おや、雅?それが作りたかったアレ?ですか」
精霊がやはりいつの間にか現れると、寄ってきます。
「一口食べる?」
「ええ」
小皿にちょこんと乗せるとぺろりと一口で。
「シンプルですが悪くありませんね。まぁ、早くチーズ乗せのトマトチキンが食べたいのですけどね」
白和えよりもトマトチキンでがっつりいきたい模様。
「お客さんが帰ってからね」
僕の言葉に、
「グイグイと背中を押してがーさんを帰らせる必要がありそうですね?」
精霊が自分の食欲を優先するような発言をしてきます。
「そんなことしたらご飯は無しになるけど、仕方ないよね?」
食べている人の邪魔はして良い事ではありません。だからと言ってお店で食べても居ないのにグダグダと何も頼まずに居る事もいいとは言えませんが、基本的に邪魔をすることはいい事ではないので少し強めに言ってみることに。
「ちょっと冗談が過ぎましたね。でもお腹は減りました」
「まぁ、パスタの準備だけはしていくよ」
数分もしないうちに、お客さんは帰っていきました。
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