すき焼き
一度食べたダンジョン肉は豚と魚の間のようなあまり食べたことのない食感の肉でしたが、今日のステーキは普通に牛のステーキと同じ感じ。
少し不思議に思ったので、裏道に入って精霊に聞いてみることに。
「お肉が違いますからね」
と、返事が返ってきます。
「いや、でもダンジョン肉なんでしょ?」
「そうですね。ギルドの買い取り場へ折角なので散歩をしてみてはいかがですか?」
ステーキ屋を出て直ぐに路地に入っただけなので、まだここは北地区。
僕の言葉を聞く前に、ふよふよと精霊が案内をしてくれるようです。
ついて行くと、一度来たことがある宝箱などを開けている人なども居る所。
あっちもこっちもダンジョン帰りの人達が宝箱を開けていて、喜び雄叫びをあげる人、悲しみにくれる人と様々。
そして今回は刀の様な珍しいものを見たかったわけではないので、すぐに答えにたどり着けます。
「くっそー、またダンジョン肉かよ」
宝箱を開けた男性が肩を落とします。
「しゃぁねぇ。調理をしないから換金だな」
仲間が肩をポンと叩きながら買い取り台へ。
「肉の買い取りお願いしますー」
「あいよ。どれどれ……」
ギルド職員のような人は前掛けを付けて、パッと見た感じは肉屋さんのような感じ。
「こいつはアタリだな。おい、金貨だ」
「「え!?」」
人が少し集まり始めていたので、遠巻きにその肉を見たのですがアレは高そう。
A5ランクのサシのたっぷり入った牛肉の様な感じ。目の錯覚なのかもしれませんが、キラキラと輝いている様にも見えます。
「こいつは上級の肉だ。よかったな」
ギルド職員さんが金貨を冒険者に渡すと、二人の冒険者は大きく喜びながらこの建物を後にしました。
目の前で金貨のやり取りがあったので、次の冒険者も少しだけそわそわしながら買い取りをお願いします。
「ああ、コレはダメだな。下級だから銀貨一枚だな」
結構な量ですが、パッと見ただけでもかなり筋張っている赤身肉に見えます。
「だよなぁ。やっぱり肉じゃ金にならねぇよな」
その後も肉の買い取りを数人分見ていたのですが、ダンジョン肉は中々面白く奥は深そう。というのも、肉の種類がパッと見ているだけでも豚っぽいもの、牛っぽいもの、猪っぽいものや馬っぽいものに鳥っぽいものまで色々な肉がただ一つの名称「ダンジョン肉」として買い取られていました。
さっきステーキを食べたばかりでしたが、肉ばかり見ていたのでまた肉が食べたくなってきます。
そして思い出したのは、まだこっちの世界に来てすぐの時のコーンの話。
飼料用で人が食べるものではないという認識で、人の食べ物にも数えられていなかったので、もしかしたら……。
色々と頭に思い浮かんだので、買い取り場の手の空いた人がいたので声を掛けることに。
「すいません、ちょっと聞いてもいいでしょうか?」
「ん、買い取りはそっちに並んどくれ」
「いえ、買い取りじゃなくてですね、その買い取った肉を買いたい場合はどうしたらいいかなって」
「買いたい?だったら裏へ行きな」
「裏?ですか?」
「そこから出て、裏の広場の所だよ」
「ありがとうございます」
言われるままに裏へ行くと、そこはかなり賑やか。
そして、何かを言い合っているのですが、よくわかりません。
近くにいた人がさっきの人と同じ前掛けを付けていたので、聞いてみることに。
「あの、ここって一般でも買い物出来ます?」
「ん、初めてかい?ここは大口だから一般は難しいと思うが、あっちの小口だったら大丈夫だよ」
指をさされた方は、肉屋さんより少し大きい感じでディスプレイに肉がずらりと並んでいます。
少し見ていると、かなりの量を買う人も。
普通にどうやら買える様です。
少しだけ端の方へ行って、小さい声で精霊に聞いてみます。
「夕飯、肉でもいい?」
「是非。あのさっきのキラキラしていたやつ食べてみたいです」
「それ、高くない?」
「お金はがーさんからもらっているでしょう?」
「まぁね。ただあまり無駄遣いはしたくないからなぁ」
「知ることは大事なので、必要経費だと思います」
ただ食べたいだけの精霊がこういってくるので、仕方ありません。
列も無いので、ディスプレイの方へ行って声を掛けてみることに。
「すいません、お肉欲しいのですが」
「はいよ、どれだい?」
精霊が言う通りの、キラキラ光っていたように見えるそれをお願いすることに。
「上級か。値が張るけど、大丈夫かい?」
ある程度は持ってきているので、大丈夫なはず。
「大きさって、アレですか?」
「そう。だから小分けにしたものが欲しけりゃ、東の市場で買ってもらうのよ」
「なるほど。ある程度は持って来たのですが、いくらになります?」
「上級だからな、金貨数枚だよ」
言われてポケットをパッと探っても、流石にそこまでは持ってきていません。
「今日は手持ちがないですね」
「そうかい。中級だったら銀貨数枚から金貨一、二枚で買えるが?」
ちらりと肉を見ると、判断がすこし難しい所。パッと見た感じは牛とも馬とも見えます。
そして手持ちのお金でこれなら買えそうなところ。
「今日はやめておきます」
「はいよ。また来ておくれ」
今日は買うのを止めることに。
ただ、そのままの足で市場へ向かいます。道中は人も多いので喋る事は出来ず。
そのまま肉屋へ行って、さっきのキラキラ肉を買って、家へ。
「いい物、買いましたね。今日の夕飯が楽しみです」
「とりあえず、ただいま」
「おかえりなさい」
まだ夕方よりは少し早い時間ですが、夕飯の準備でもしましょう。
いわゆる関東風で今日はいきます。
水、酒、みりん、醤油そしてコクを出す為にも砂糖ではなくザラメを。
これで作った割り下がメイン。
そして、ちょっと贅沢にしたいので、トマトを湯剥き。
お湯を沸かして、包丁で切り込みを入れてさっと湯を潜らせれば皮は簡単に剥けます。剥いたら一度冷水でキュッとシメて。
他に入れる具材もシンプルに。
タマネギは大きく切って、豆腐も食べやすい大きさに。
「これが肉料理に?」
「まぁ、ちょっとまって」
わざと小鍋を二つ準備。
そして鍋に割り下を入れて、火にかけます。
タマネギを入れてタマネギが柔らかくなって来たら、トマトも入れて精霊を呼びます。
「あのキラキラ肉ですね」
「そう、これを入れて少し薄まっちゃうかもしれないけど豆腐も入れたら出来上がり」
そう、贅沢なすき焼きです。
すき焼きだったら長ネギや白滝、春菊やシイタケ、エノキなど色々といれて鍋の様に食べるのもいいのですが、具材を少なく逆にシンプルに肉だけを楽しむ形。
ただ、それだけだと寂しいので甘さにもなるタマネギとちょっと新しく感じるトマト。そして味が染みると最高な豆腐だけは入れた形。
「早速食べてみよう」
肉はかなりサシが入っている良さそうな肉。
火を通してもぷりぷりでかなり柔らかそう。
箸でつかむのもやっとなぐらいのかなりの柔らかい肉をそのまま口へ。
「んっまっ!!」
そう言えばすき焼きなので、卵を溶いたものも用意する予定でしたがその予定が崩れるほどの柔らかさと美味さ。
「これは、昼間のステーキを上回りますね」
「だね。まだ、一人数切れずつあるから、食べよう」
「はい」
二人で頷き合って、競うようにしてすき焼きを食べます。
ご飯に乗せて、卵を浸けて、そういう事をすっかり忘れるほどの凄い美味しさ。
やっぱりお肉の魔力は凄いです。
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