フレンチトースト
「今日は買い物に行きましょう」
珍しく僕よりも先に精霊が起きていて、起き抜けにそう言ってきました。
「ごめん、まだ眠い」
正直な感想を漏らしても、
「早速準備に取り掛かってください」
こちらの言葉は聞こえないのか、聞くつもりもない様で背中をグイグイと押してきます。
「ん?」
背中を押されたというか、触られることも無かったのでその感触にビックリ。
「ほら、雅、行きましょう」
「ちょ、ちょっと待って。背中押したよね?」
「当たり前じゃないですか。まずは起きて、顔を洗って……」
「触れるの?」
触ったことも、触られたことも無かったので言うと、
「前にも言いましたが、ご飯を一緒に食べているのに、存在しないわけがないでしょう?何をいまさら」
言われてみればこんな会話をした記憶も。
当たり前かもしれませんが、簡単に頷けないというか。
結局背中を押されるままに洗面所へ行き、顔を洗います。
水道は普通にこの家は出るので、魔法を使うことも無くバシャバシャと水で顔を洗います。
「触れたのか。いや、でも結構精霊ってあれこれすり抜けていた様な?」
思い出してみると結構あやふやな存在の精霊。
「今度聞いてみた方がいいかなぁ」
精霊に聞いてもダメな場合はがーさんに。でもまぁどこまでこたえてくれるのかは微妙なところ。
「なぁにゆっくりしているんですか。ほら、いきますよー」
ご飯の時と同じぐらい今日の精霊は積極的に動いてきます。
「ん、分かったから。ちょっとゆっくりさせて」
パパッと着替えを済ませて、まだ結構早い時間ですが家を出ることに。
「朝ごはんのお店に行きましょう」
さては精霊、それが目的だな?と思いましたが、とりあえずついて行く事に。
ついて行った先は、北のギルド近くの食堂街の一角。
この間の様な時間ではないので、まだテントは張られておらず人もパラパラとそれほどいない感じですが、精霊について行く先は少し賑わいを見せてきます。
数名、女性が並んでいる辺りに精霊はピタリと止まったので、どうやらここが目的地の模様。一瞬視線がこちらへ来た気がしますが、すぐに女性達は自分たちの話に戻ります。
そのまま列の最後尾に並んで、二十分程で店内へ。
「いらっしゃいませ」
中に入ると優しく甘い香り。
「此方の席へどうぞ」
案内されるままに、席に着くとテーブルをキョロキョロと。
「あれ、メニューがない」
店内を見回しても何も表記はありません。
「あ、お客さん初めてでしたか」
水を持って、ウェイトレスの女性が声を掛けてくれます。
「あ、はい」
「うちはフレンチトーストと紅茶のセットだけなのです。自動的にそれになりますが……」
「お願いします」
ニコッと笑顔でウェイトレスさんは下がりました。
「フレンチトーストか」
店内に入ってきてすぐに焼き始めているのか、すぐに出て来そうな感じはしましたが折角なので作り方でも思い出してみることに。
たしか、パンは耳を切って、ある程度の大きさか半分程度にカット。
それより先に、まずは卵液か。
卵に牛乳、あとは砂糖を混ぜ合わせて、お好みでバニラエッセンスかバニラビーンズを少し加えると香りも良くなるハズ。
その液に一晩パンを浸らせて、バターを敷いたフライパンで焦げ目がいい感じに付くように焼き上げれば出来上がり。
でも、一晩は時間がかかるからどうにかする方法は……。
「ああ、レンジで一分少々温めるんだっけ」
時間が無い時はそういう方法もあるとマスターが教えてくれたことを思い出します。
色々な調理方法を知っていた方が役立つと電子レンジ以外もあれこれ使い方を教えてもらったので、それで思い出せた感じ。
で、余った卵液に切ったパンの耳を浸けて焼くとちょっとしたお菓子代わりになるので、それも実はかなり美味しくて逆にそっちがメインな感じになってしまったのを思い出します。
「この料理、母さんがマスターから習って、それを僕が習ったんだっけ」
少し懐かしい思い出に浸っていると、時間はすぐに経っていたようで、ワンプレートの朝食が運ばれてきました。
「どうぞ、ごゆっくり」
ナイフとフォークを使っての朝食。
ちょっとだけ贅沢な感じが心躍ります。
しっとりとしたフレンチトースト、ナイフで切ると中身があふれんばかりに。
そのまま口へ入れるとやさしい甘さ。
「美味しい」
もう一口食べようとすると、耳元に小さな声。
「早く私に一口お願いします。そこにあるメープルをすこし垂らして、お願いしますね?」
ピタリと一瞬自分が止まった感じがしますが、気にすることなく口へ入れてから、精霊の分を。
メープルを掛けて、口元へスッと持っていくとフレンチトーストが消えます。
「次はそこの粉糖が多い所を」
どんな動きをしているのかが何となく分かるのがちょっとだけ面白い感じです。口元と耳元あたりをひゅんひゅんと結構なスピードで移動しながら、喋っているようです。
気がつけば、最後の一口も終わり。
紅茶もいい香りで口の中の甘さを和らげてくれます。
「美味しかった」
いきなり連れてこられたのでビックリしましたが、朝食としては花丸。
自分で作らない美味しいものもいいモノです。
お店を出て人気の少ない路地へ入って、小さい声で精霊を呼びます。
「買い物じゃなかったの?」
「買い物はこれからです。まずは腹ごしらえと思いまして」
中々な屁理屈とも思いましたが、味もかなり良かったのでこちらも何も言えません。
「何を買いに行くのさ?」
「今週困った傘や服も少し買った方がいいかと。外に出る時にいつまでもよその服というわけにはいきませんから。それと、昨日も困ったカバンなどもこちらの物を持っていた方がいいかと。あれは素晴らしいので是非広めてほしい所ですが、それとこれは別ですね」
「なるほど」
「今すぐという事はなさそうですが、今後ダンジョンに行くとなればその恰好ではやはり目立ちすぎますから。その為とも思っていただければ」
「うん、わかった」
そういう事ならば、という事でこのまま服やら日用品を見ることに。
「で、どっち行けばいいの?」
「先導しますのでついてきてください」
ナビを精霊がしてくれるようです。
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