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鰯の蒲焼

「こんにちは、いらっしゃい」


 マスターがお店でいつも言っていた言葉と同じ言葉を自分が言うと少し不思議な気分になりながらも、お客さんがいつもの様に入ってきます。

 ポッコリお腹の精霊が少しだけ苦しそうにする素振りもありながら、お水とおしぼりを配ってくれている間にランチの準備。

 呉汁はよそって白いご飯と出すだけなのですが、メインにもなるぐらいの具沢山なのでいつものお椀よりも一回り大きめのモノで。

 ご飯は逆に少なめにで、漬物と一緒に先に出すことに。


「精霊、こっちのを持って行って」

「わかりました」


 ご飯と汁物をよそって、厨房の所にあるトレイに乗せてどんどん用意するとそれを精霊が持っていきます。

 最後の分を持っていくのは精霊ではなく自分で。


「呉汁と言うのですが、いわゆる郷土料理で優しい味になっています。大豆はとりあえずこちらで結構な量を使わせてもらっています」

「ほほぅ、ゆっくり楽しませてもらうよ」

「で、今オーブンで鰯の香草焼きを温めていますので、もう一品は少々お待ち下さい」

「なるほど。それで先にコレが出て来たってわけね」

「すっごく美味しいのがコレから出て来るのでしっかりお腹をあけておいた方がいいですよ」


 捨て台詞を吐くように精霊がビシッと指をさして皆さんに言いますが、皆さんの目は子供を見るような目。

 その気持ちは多少分かるので何も言えず。

 厨房に戻ってオーブンで皆さんの香草焼きを温めます。

 パン粉乗せておいたので、あとは少量のオリーブオイルを掛けて温めてパン粉を焦がすだけ。

 準備をしていたのもあって短時間でささっと終わります。

 焼けるまでの数分は手持ち無沙汰になるほどに。


「何で皆さんあんな顔でこちらを見るのですかねぇ?」

「いやぁ、可愛いからじゃない?」

「かっ!?!?!?!」


 精霊は言葉にならない様で、ちょっと頬を朱に染めながらもあたふたあたふた。


「そういう所だと思うよ」

「っ!!」


 こちらをキッと睨みますが可愛いものです。

 あまりからかっているつもりは無いのですが、こんな他愛もない会話をしているだけでも時間は過ぎていきます。

 いい感じに香草焼きのパン粉が焦げ付いたので出来立てを持って行きましょう。


「精霊、お手伝いお願いね」

「も、勿論です!」


 まだ微妙にワタワタしながらも、返事はいつも通り。

 二人で皆さんの分の出来立てを持って客席へ。


「お待たせしました、鰯の香草焼きです」

「コレはまた、美味そうな」

「呉汁が見た目に反して凄く美味くて。さて、どうしたものか」

「呉汁のおかわりもありますので、ご飯も用意はあるので言ってくださいね」

「じゃあ、呉汁を半分程おかわりご飯も少な目で」

「私は呉汁だけ」

「ご飯をもう少し」

「……両方」

「私も両方もらおうか」

「少な目に両方私も」


 どうやら皆さん調整をしながら食べていたようですがおかわりはしてもらえるようす。


「甘くて、少し優しい味がちょうどいいんだよねぇ」


 昨日よりも根菜が多く、それが更に甘みを出しやすいのでそれが口に合ったようです。

 皆さんのおかわりを用意して精霊が持って行き、一式皆さんのおかわりも終わると食事も一段落。


 少し経って、食後のコーヒーを用意して皆さんに出します。


「いかがでしたか?」

「美味しかったよ。大豆も鰯も両方いいモノだね」

「大豆はまだ少しあるのでちょくちょく使わせていただきますよ」

「ああ。ワインに引き続き大豆に鰯に色々とありがとう」

「いえいえ」


 そんな挨拶をしてみなさんが帰ったら後片付け。


「今日は木刀の納品ですか?」

「だねぇ。あ、そう言えば朝良さそうなお店見つけたから今度行こう」

「ほほぅそれは気になりますね」


 こんなたわいもない話をしながら、食器を下げて片付けをして。

 片付けが終ったらすぐに納品から。

 東の消防署の様な建物へ。


「今週の分持ってきましたー」

「おっ、まっていました」

「コレですね」

「おー、今回もいい出来だ」


 渡した木刀をキラキラした目で嬉しそうに見ています。


「皆が楽しみに待っているさ。いつもありがとう」

「いえいえ。じゃあ、また来週」

「ああ。なにかあったらいつでも色々と言ってくれよ」


 今日の納品は肩に精霊を乗せていたのですが、誰も反応をしません。


「改めて考えてみても凄いね、誰も気にしない」

「ええ。そういうモノですから」

「そういうモノって言われても……そうかとしか言いようがないか」

「実は今までも居たのですが、雅は気が付かなかっただけですよ?」

「え?そんなことある?」


 言われて周りを見回しても自分と同じように肩に人形を乗せている人など居らず。

 まあ、人形はいませんがあまり見たことのないモンスターを連れている人は少し目に入ります。


「うーん、見たことのないモンスターを連れている人こんなにいたっけ?」

「ね?そんなものです」


 そんなものと言われてしまえば、そんなものなのでしょう。


「見つけたお店はどの辺りなのです?」

「あー、街で言うと北東だからここからだともう少しギルドの方に移動したところかな」

「でしたら、ダンジョン終わりに食事に行くのもいいかもしれませんね」

「だねー」

「で、今日のお夕飯は?」

「……精霊はいつもソレだね」

「動いていたらお腹が減って来たのです。仕方ありません」


 家に帰って何かを作らないといけないところではありますが。

 横を見ると精霊はお腹を減らしている様子。

 時間をかけたモノを作るとちょっとかわいそうにも見えるので、すぐに作れるもの。

 そうなると大豆を戻すのは少し時間がかかるので、少し残っている鰯を調理する方向で。


「だったら、あれがいいか」


 思い付くのは簡単で美味しい鰯の蒲焼。

 幸いなことに鰯はお昼のあまり時間で開いておいたので後の処理は簡単な状態。

 使う材料もシンプルに鰯ぐらい。まあ、あったらいいなと必要になりそうなのは白ゴマぐらいでしょうか?


 作り方も簡単で、鰯に小麦粉を軽くふって油を敷いたフライパンで焼くだけ。

 出来れば焼く前に合わせタレを作って置きたい所。

 合わせタレは酒、醤油、砂糖を混ぜたモノといわゆる照り焼きのタレと一緒。

 両面がいい焼き色が付いたらタレを入れて絡めると小麦粉のおかげでいい感じのとろみがついてきます。


「後は白いご飯と一緒に食べるだけ。白ごまの香りもあるといいかな」

「すっごく美味しそうな香りがしますー」

「丁度出来た所だよ。今ご飯をよそうから」

「待っていましたー」


 出来立ての鰯の蒲焼とご飯だけでご飯はいくらでもと進むいい味。

 ちょっと濃い目なのですが逆にそれがいいぐらい。


「明日か明後日はダンジョンですか?」

「だねー。毎回毎回楽しくなってきているけど、そうだ精霊はどうするの?」

「いつも通りついて行きますけど?」

「いや、その体で?」

「あー、がーさん忘れていますね。明日確認を取るのでダンジョンは明後日にしてもらえますか?」

「そのぐらいは構わないよ」

「では、お願いします」


 こんな感じで精霊が体を持った一週間が終り。

 明後日のダンジョンも楽しみですが、明日どういう風になるのか。

 精霊についてもちょっと気になる週末が始まります。





今回も読んでいただきありがとうございます

目に見える形の評価やブックマークそして感想もかなり嬉しいです

誤字脱字報告とても助かります&申し訳ありません

改めてありがとうございます

毎日投稿頑張ります

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