出汁
いつもと同じように起きて、顔を洗って。
昨日と同じことをしながら朝は始まります。
食べるものもコーンフレーク。牛乳をかけて、サクサクといい音が。
「おはようございます」
精霊もいつの間にか居て、朝の挨拶を。
「おはよう、精霊。食べる?」
自分のフレークを指さして聞いてみると、
「食べます」
軽く頷いて精霊の分を作ります。
精霊に前に置いて、ちらりと精霊の方を見るとよくわからない動きでやはり今日も食べています。
「精霊って、食べることが出来るって事はモノに触る事も出来るの?」
「出来ますが、力は殆どありませんね」
なるほど。何となくで分かってはいましたが納得です。
「そっか」
そんな他愛もない会話をして、食べ終わった食器を片付けて、いつもであればここからお昼のランチを考えるのですが、今日は休日。
ついでに明日も多分休日。
時間はあるけど、やることが無い。そんな状況に近い形。
実際には魔法を練習したり、体を動かしたり。やれることは色々とあるのですが、なんとなくコレと決まらない感じ。
「お昼、どうしたい?」
念のためもあって、精霊に聞いてみると、
「食べたいですが、どういう意味の質問でしょう?」
「いや、折角こっちの世界来たしこっちでのご飯も食べてみようかと思って」
「という事は食堂街ですね。北側です」
欲しい答えと少し違いますが、一応答えは聞けた感じ。
「北側ってギルドとかある方だよね?東の食材の所じゃないんだ?」
「ええ。基本的にこの街はダンジョンで成り立っていますから、やはりそこに主だったものは集まりますからね。私としてはダンジョン産のステーキや煮込みがおすすめですね」
聞いているだけで結構おいしそうな感じ。
「持ち帰りって出来ると思う?」
「難しいかと。あー、私の分の心配ですか?」
「そそ。流石にここまで聞いていて一人でってなるとちょっとね」
どうにかいい方法があるといいのですが、それもまだ難しそう。
「それでは、こういうのはどうでしょう?」
精霊の意見を聞いて頷くと、後は準備を済ませて行くだけ。
準備は時間もかかることなく、食事をしたいのもあって数枚の貨幣をもっていけば大丈夫、かな?
この間と一緒で数枚ポケットに忍ばせて北の街の方に行きます。
この間よりもかなりにぎわっているのも当たり前。今は午前中でこれからダンジョンに入ろうとしている人達がにぎわっています。
パーティーを臨時で組む事もあるようで、向かって左手の方は人がパラパラと集まっています。その逆側はクランの勧誘をしているようで、数名が席を構えて人がこちらもパラパラと声を掛けている感じ。
最後に正面の入り口前は結構な混雑。
遠目で見ていると許可を受けたあと奥の方に行くとすぐ“次の組”と呼ばれては列が進んでいきます。
今はまだ興味があるだけで入ることは出来なさそうですが、ある程度したら一度は行ってみたいと思いながら、歩いているとこの間と一緒で出口の近くではパーティーが宝箱を開けています。
「お、コレは……なんだ?」
そこで宝箱から出てきたのは一本の刀。
面白いのは宝箱からの出方。箱を空けると柄がポツンと出てきたのでそれを冒険者が引き抜くように取り出します。そして宝箱は蓋を閉じると消えてしまいました。
「っしゃー、当たりだろ。こりゃすぐに鑑定に行こうぜ」
ブンブンと振り回す感じを見る限り、あの冒険者は刀に触ったことはなさそうですが、そのままあの人が使うわけでもなさそう。
一瞬、注意でもしようかと思いましたが、冒険者でもない自分がいきなり言ったところで不快にさせてもいい事はなさそうなのでそのまま少し視線で追ってはいましたが、視線を切って、食事が出来そうな方へ向かいます。
「おお、これは凄い」
大通りから入れる小道に入るとジョッキ片手に武勇伝を語る男たちや吟遊詩人が歌を歌って場を盛り上げるなど中々こちらも時間を気にせず賑やか。
さらに奥に行くとそこは大きなテントが張られている市場のような場所に。
感覚は夏祭りの屋台と一緒。あちらこちらに屋台の店とここで構えた店が並んでいて、真ん中の辺りは席がたくさん並んでいます。
屋台の内容も夏祭りな感じ。
焼き鳥のような串焼き、粉物のお好み焼きのような何か、スープを売っているお店もあるので、お祭りの中の気分。
まだそこまでお腹は減っていないのですが、折角精霊が思い付いた事もあるのでまずは一度試してみることに。
「すいません、その串焼き下さい」
書いてあるのはダンジョン産の肉の串焼き。
「はいよ、銅貨三枚ね」
ポケットに手を入れて出したのは銀貨。
「まいど。七枚のお釣りね」
貨幣価値はこの間精霊に聞いておいたので大丈夫。というよりかなり簡単。
銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚。
この間知り合いが渡してくれたのは結構な量の金貨と銀貨。初めて歩いた時はよくわかっていなかったので金貨をとりあえず持っていたのですが、結局使うことが無かったのは幸いでした。
価値を聞けば、銅貨が百円。銀貨が千円。金貨が一万円。
だから野菜一個買うのに金貨って、あんまりいい感じには見えませんから。
買った串焼きを一本もって、とりあえずそこの席へ。
とりあえず一口食べてみるとなかなかいい味。
不思議な食感で豚肉と魚肉の間のような感じ。噛めば噛み切れるのですが、食べごたえは結構しっかりある感じ。
「美味しいけど、不思議っと、精霊?」
小さい声で精霊を呼んでみると目の前にポンと出ます。
精霊は僕の口元にススっと動いてきたので僕は口を開けて食べる感じで串を近くに。
精霊が食べているのですが、パッと見る感じは僕が食べているように見えるかな?
串焼きを二人で食べたら、次は何を食べようか?
味が結構濃い感じの串だったので、次はスープを。
ダンジョン肉たっぷりのスープ。さっきと同じ食感の肉がたっぷり入っている感じに見えます。
スープは銅貨五枚。肉以外の具材も結構入っていて、なかなか美味しそう。
買い終わってまた席へ。一口飲んでみると見た目よりも味は薄目。
「出汁とかあまり出ないのかもしれないな」
出汁は骨の周りがよく出るので、身だとあまり出ないものは出ません。
先程と一緒で少し食べたら小さい声で精霊を呼んで、口元へ。
飲んでいるフリをしながら、少しぼーっとしているとスープも空っぽ。
「もう少し飲んでおけばよかった……」
精霊が思っていたよりも食べるのです。
これは本当に想定外。
ただ、食べていて思ったのは出汁の薄さ。
「ちょっと濃い出汁が飲みたくなってきたかも」
ぼそりとつぶやく言葉に反応を示したのは精霊。
目の高さまでふわりと動くと、誘導する様に人気の少ない方へ。
それを追いかけると、周りに人が居ない事を確認してか精霊が言います。
「濃い出汁とは?美味しいのです?」
「美味しいよ。お味噌汁とかの元だからね」
「あぁ、アレですか。そう言えば出来立ては見たことがありませんね?」
「冷凍庫のストックを使っているからね。まだパッと見た感じだけだけど、どうしよう?」
人気も無いのでそのまま会話を続けます。
「美味しいものが食べたいのですが、見た目よりはどうにも。またいい情報を手に入れておきますので、その出汁とやらを飲みたいです」
「わかったよ。ただ、もう少し散歩してからね」
その後は街の散策。
流石にそのまま戻っても、まだ早いというのと少しやりたい事もあって距離や時間を計ってみることに。
ぐるりと北の端から東を越えて南に行き、西の扉の前を通って北に戻って来た時には結構な汗。
そして分かったのはこの街が思っていた以上に広い事。
丸く壁でおおわれている街の周りの内側を一周すると大体五キロほど。
結構な大きさだとわかります。そして分かったのは綺麗な丸の形ではなく楕円形。南北に少し長めで、東西は短い様子。
「シャワー浴びたいな」
食欲は逆になくなり、どちらかと言えば喉が渇いた感じ。
そのまま家に戻って、スポーツドリンクを飲み始めると一気に無くなります。
「……美味しそうですね?」
「飲む?」
流石に一気飲みしてこれは空っぽですが、ストックはあります。
「はい」
コップに入れて精霊に出すとお湯に浸かる感じでコップの中に。
中身はそのままなくなります。
「ほんのり甘くて、コレも美味しいですね」
もしかしたら精霊はこちらの世界よりも僕のいた世界のモノの方が好きなのかもしれません。
とりあえず今はシャワーの気分。
昼過ぎですが、ちょっと魔法を使って水浴び。
タオルを用意して、風呂場に行って、服を脱いで準備完了。
「水の玉」
想像通りの少し大きな水の玉が出来あがったら、そのまま魔力をつなげて頭の上に。
これで魔力を切ればバシゃりと一気に落ちるのですが、思いついたのはこのままゆっくり落としてみる事。
「やってみるか」
移動操作だけならば簡単でそのままゆっくり下におろす感じで。
頭がすっぽり入って、結構冷たい水は目が覚めるいい感じ。ただ、少しゆっくり過ぎたので息苦しくなってきて速度を速めます。
「ぷはぁ」
顔さえ出てしまえば後はゆっくりでも問題ありません。
全身が少しずつ濡れていきます。そしてもう一つ分かったことは水の温度が全然変わらない事。最初の冷たさのまま足元まで。
もう一度一番上に戻したら最後に魔力を切ってバシゃりと落とせば水浴びは完了。
「ふぅ、さっぱりしたー」
タオルで拭って、さっぱりとした気分のまま厨房へ。
時計を見るとまだお昼過ぎて少しぐらい。いつもで言うと食後の洗い物が終った辺りの時間。
食材を準備して、とりあえず出汁を取りますか。
昆布とかつお節で出汁を取ります。
昆布は軽く濡れた布巾で拭って、鍋にお水を張ります。そしてそのまま旨味を出す為、三十分程度浸しておいてその間にかつお節の準備。
本当はマスターのように自分でかつお節を作れるとベストですが、僕はまだうまく出来ないので、削ったかつお節をしっかりと準備します。
「これが美味しい出汁ですか?」
「そそ。これが出汁の元だよ」
精霊がふわりと表れたので説明を。
三十分ほど昆布を浸したら、弱火に掛けてじっくりと火を入れます。
沸騰直前で昆布は取り出して、一度しっかりと沸騰させたら刺し水を入れて温度を落としてそこにかつお節を入れます。
火力は相変わらずの弱火のままなので少しだけ強めて、中火に。軽く沸騰させる感じにしたら灰汁が出るので灰汁を掬う前に弱火にして、灰汁を掬い終わる前に火を落とします。
あとはキッチンペーパーも敷いたザルで濾せば、出汁の出来上がり。
「おお、黄金色。そしていい香りですね」
あのスーパーボールに鼻はあるのでしょうか?
中々に的確な意見を精霊が言います。
「早速、味見する?」
「是非」
という事で自分の分も含めて、味見。
旨味が凝縮されたカツオと昆布の出汁。
「ん」
納得の味で今日も出来ました。
「これは、さっきのスープが霞むほどの美味しさですね」
精霊も喜んでくれているようです。
「おいしいよねー」
「これが入っているからお味噌汁が美味しいのですね」
「そうだよ」
少し早い時間ですが、いい出汁が出来ました。
お夕飯、何にしようかな。
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