天津飯
「今日は味見ばかりでお腹が減ったので先に出してもらってもいいですか?」
「お昼を?」
「です。まだ少し早いですけどご飯ももうすぐ炊けますし、出来ますよね?」
そう言ってきたのは精霊で。
味見ばかりでお腹が減ってしまった様子。
「いいけど、そうしたら……あんかけはどうする?」
「あんかけですか?」
「うん。今日のランチは二種類あんかけがあって、出汁の効いた塩あんかけとベーシックな甘酢あんかけ」
「二種類とも欲しいです」
「まぁ、そういうかなとは思ってた」
マスターのお店の時も今日のメニューの時はあんかけをどちらにするか聞くのですが、両方と言う声が結構あって。人によって一つは別皿でとマニアックな頼み方をする人も居るぐらい。
塩あんかけのベースは鶏ガラスープで塩とコショウで味付けをしたものにとろみをつけます。
甘酢あんかけもベースは鶏ガラスープなのですが、入れるモノが違ってお酢、醤油、砂糖に味調節にお水もすこし。
先にコレを作って置いて、あとでここに水溶き片栗粉を入れてとろみをつけてあげればいい状態に。
「コレが二種類の餡ですね」
「うん。どっちもかけていいの?」
「ええ。両側から入れるスプーンが楽しみです」
「はいはい、とりあえずご飯も炊けたし用意するよ」
先に作って置いたスープを温めなおして、三色ナムルも一人前を小鉢にしっかりと入れて配膳準備を。
もう一度作り始める前に全体を確認。
小鉢ヨシ、スープもよそっていないけど器の準備はヨシ、レンゲの準備もヨシ。
あんかけ準備も出来ているし、大丈夫そう。
「よっし、じゃあ精霊の分つくるからね」
「お願いします」
という事で卵を三つボウルに割って、しっかりと溶き卵を作ります。
贅沢にいくのはここから。
なんてったって、カニ缶を一人一つ丸々使う形で。
種類にもよりますが、今日使うカニ缶はほぐし身と足入りのものだったので足のしっかり形が残っている部分はそのまま今は使わずに缶に残して、ほぐし身の部分を卵に投入。
しっかりと卵と身が混ざったら一気に作って行きます。
フライパンに油はたっぷり入れて火にかけてしっかりと熱々にしていきます。その間にご飯をよそっていくのですが、
「精霊、ご飯は多め?」
「勿論」
ということで、ご飯はたっぷり多めによそって、いざ卵を焼き始めましょう。
しっかりと熱々になっているフライパンと油の所へほぐし身を入れた卵液を入れるとジュワーっといい音とぱちぱちと多少跳ねてきますが、ここはグッと我慢。
菜箸や木ベラで数回全体を混ぜて空気を含ませてあげるとフチが固まってくるので見た感じは六割半熟程度で火から下してそれをそのままご飯の上へスライドさせて乗っけます。
缶に残していたカニの足の部分を真ん中にポンと置いてこっちは出来あがり。
二種類の餡なので鍋は二つで両方につくっておいた餡の元を入れて火にかけて温まってきた所へ水溶き片栗粉でとろみをつけたら、それをトロトロ半熟卵の上に乗せるだけ。
半分は甘酢あんかけでもう半分は塩あんかけ。ですが、味が喧嘩することもあまりなく、ちょっと強い甘酢餡に引っ張られる感じですが、それもまたヨシ。
「出来たよ、精霊」
「おお、コレが今日のランチですね」
「そ。天津飯です。どうぞ」
「んー、では早速いただきます」
天津飯が出来あがったら、スープをよそって配膳して。
精霊の目の前に出すと、早速食べ始めたのですが自分で作って言うのは少し恥ずかしい所ではあるのですが、かなりいい出来にいい香り。
少し自分も食べたくなるのですが、グッとここはこらえて我慢。
このお腹の減った状態で作るご飯はお客さんに好評で、いつもよりも皆さんが美味しいと言ってくれる事が多い気がします。
「雅、ご飯だけおかわりを」
「はいはい。おかわりはここまでね」
「うー、仕方ないです」
多分大丈夫だと思いながらも、念の為でご飯をもう少し多く炊きなおすことに。
少しすると、時間が来たようでお客さんが到着。
「こんにちは、いらっしゃい」
「おっ、なんか今日はいい香りがするね?」
「ちょっと贅沢な一品が出来ますから」
「今日も楽しみにするよ」
お水とおしぼりを出して、精霊のときに準備したのと同じ手順で二人前ずつ作って行く事に。
卵を焼いて、餡を掛けて、スープを入れて配膳。コレの繰り返しを数回やると全員にお昼が渡ります。
そして珍しい事に、今日はお客さんも全然喋らず。
皆さん一口目を口に入れると頷いて、それから無言でゆっくりとご飯を楽しんでくれています。
「皆さん静かですね」
「まぁ、美味しいものの時は静かになるって言うし。口に合ったのかな?」
「合うも何も、コレだけ美味しければみんな黙りますよ?」
「そう言ってもらえると本当にうれしいものだね」
「餡だけでもご飯が進みましたからね」
「唐揚げとかフライとかにこの餡をかけてもいいよねぇ」
「そう言う食べ方もいいですねぇ」
そう言ってチラリとこっちを見てきますが、
「作らないよ?」
「えー、いいじゃないですかー」
「いやいや、それにホラ自分の分もまだ今日は食べていないから」
「そう言えば今日はどうするのです?」
「あー、木刀は一応できているしギルドにでも今日は行こうかと思っているけど?」
「むぅ、ではあまり出られませんね」
「かなぁ。まあ二十二階より先がきになっているからその情報収集の予定だよ」
「なるほど」
そんな話を厨房でしていると客席から声が。
「今行きまーす」
お客さんも静かになった今日の天津飯は大成功だった気がします。
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