漬け丼
お客さんも満足してくれたようで、お見送りを済ませたら片付けと自分のご飯。
ある程度汚れが落ちにくいものだけは水に浸けて洗いやすい様に準備だけして、自分もお昼ご飯をゆっくり食べ始めたのですが、帰ったハズのお客さんの二人だけが何故か戻ってきます。
「お?コレからご飯かな?」
そこに居たのは闇の精霊付きの男性。
「あれ?今さっき帰りませんでした?」
「帰ろうと思ったのだが、呼ばれてね」
ん?とはてなマークを頭に浮かべると、両手に日本酒を持ったがーさんが再登場。
「今日のランチはコレが正当でしょ?君のお父さんもやっていただろう?」
両手の日本酒を渡してきて、意味は言われずとも分かります。
「片づけちゃいましたけど?」
「別にあっちでじゃなくてココでいいよ?」
「でしたら、椅子だけでもいいですか?」
「ほう、それは楽しそうだ」
客席から二つほど椅子を持ってきて、厨房の作業台がそのままテーブルという感じの簡易仕様でちょっとした飲み会になりそうな空気。
「ちょっとゆっくり目に食べるのでそのぐらいでお開きにしてくださいね」
「十分だよ。ってことで、まずは冷で次から熱燗をお願いしても?」
「分かりました。ついでに二人で一つの鍋でいいですか?」
「十分十分。ユッケの残りは?」
「がーさん、それは私の分です」
「精霊?それは僕の分だからね?勝手に自分の分にしないで?」
「えー、じゃあ私も一緒にもう少しお昼を延長します」
あぁ精霊、まだ食べるの?と言いたくなる感じですが、静かに楽しんでくれるのであれば問題もあまりないと思ってそこは諦めることに。
自分のお昼を食べながら、お酒の支度を少ししてちょっとだけ動きながらの食事は中々面白いもので、いつもより人の気配があって、でも少し静かになったと思ったら偶に賑やかで。
ちょっとだけ、実家の食卓を思い出すような楽しいお昼を過ごします。
「お昼から飲むのはどうかと思ったが、これはイイな」
「だろぉ?君はちょっとカタいから偶にはこうやって羽目を外さないと」
「ちょっと足元がふらつきますが、いいものですねぇ」
「うんうん、今日はもう仕事が出来ないかもしれないがまぁ、一日くらいいいだろう?」
大人二人は楽しかったようで、少し顔を赤くして出来上がった感じ。
僕はと言うと、食事もパパッと終わったのでお酒を作りながら厨房で普通に片付けを済ませていたのでいつもよりは時間がかかりましたが問題という程の事も無く。寧ろ問題になりそうなのは、精霊。
「どうだい?お酒も悪くないだろう?」
「美味しーですねがーさん。と言うか、ズルいですよー教えてくれないなんてー」
こんな感じで精霊もお酒を飲んでしまって、ちょっと大変。
一応確認をしたのですが、がーさんが精霊は飲んでも大丈夫。というお墨付きをくれたので心配は無く。元々お酒は成長阻害を考慮して大人になるまで飲んではいけないという事だったと思うので、精霊には関係のない事なのかもしれません。
ただ、出来上がった二人と精霊を自分一人で制御できるかといわれると、難しい所。
「ほら、もういい時間なので今日はお店閉店です」
「まぁまぁ、そう言わずにもう一杯ぐらいね?」
「いやいや、お店に迷惑を掛けちゃいけませんから帰りましょう?」
「雅、次の食べ物は何でしょう?」
と、結構カオスな状態に。
こういう時にマスターならどうするかな?と、少し考えてみることに。
そこで思い出したのは、自分の父親が思いっきり叱責されていた場面。少しだけ遠い目に自分がなりながら、覚悟を決めてやってみることにしましょう。
まず、皆さんの水を準備。コップに少し多めになみなみと注いだ水を皆さんの前に。
「どうぞ」
声は少し低く、ツンとした感じで刺々しさも表現するのはなかなか難しい所。
「あ、お水ありがとう」
「たすかるよ」
「雅?お水よりもご飯が欲しいのですが」
三人中二人が水を飲んだのを確認して、
「あまり騒ぐのでしたら、明日の料理が無くなりますが?」
簡潔に一言。そして声色は先程と一緒の少し低くトゲトゲとした感じに。
すると自動的に自分の目も細く蔑むような目に。
僕の態度を見た瞬間に多分マスターを思い出したであろうがーさんは半分残っていたお水を一気飲み。そして立ち上がって、
「すみませんでした」
かなり綺麗なお辞儀でしっかりと頭を下げます。
その様子を見て二人はポカーンとしているのですが、何かを察した二人。
「すぐ帰るので明日もお願いします」
闇の精霊付きの人がすぐに謝って、
「雅、ちょっとはしゃぎ過ぎました。すみません」
精霊もちょっと今までに見たことのないような青い色になりながら謝ります。
「分かっていただけるのであれば問題はありませんから。すみませんが本日はここでお開きに」
「うんうん、分かった。マスターの様な威圧、久し振りに思い出したよ」
「ちょっとお酒に飲まれ過ぎてすまないね」
「雅、夕飯抜きではないですよね?」
一人だけ見当違いな事を考えているのが居ますが、いつも通りと思って勿論許すことに。
そもそもがそこまで怒りがあるわけでもなし、ただ今日の予定はちょっと難しそうなだけなので、分かってもらえるだけで十分。
まだ飲んだ事は無いのでわかりませんが、父やマスターが楽しそうに飲んでいるのも見たことがあるので少し羽目を外すのも分からないわけではないのですが一応、ね。
そんな感じで皆さんも帰って残りの片づけをし終えるともう夕方。
いつもの場所で木刀作成にはちょっと遅すぎるので、どうしようか悩んでいると、
「雅、ごめんなさい」
しゅんとした感じで精霊が謝ってきます。
「どうしたの?」
「いえ、なんというかちょっと調子に乗り過ぎたので……。いつも美味しい料理を作ってくれているだけで感謝はしているのですが、当たり前になってきて無茶や無理を言い過ぎてしまったかなぁと思いまして」
「まぁ、お酒も初めて飲んだようだし、多少は仕方ないんじゃない?」
「そう言ってもらえると助かります」
結構さっきの態度が精霊にも効いた様子でこちらとしては嬉しい感じ。
「こっちとしても毎回、美味しいって食べてくれているからありがたいんだよ。ありがとう」
いつも言えない感謝を同じく言葉で返してみると、精霊はいつもの色に。
落ち込んでいた気分も少し晴れてくれたのでしょうか?
「そうですか。じゃあ、今日の夕飯も楽しみという事で」
「え?あぁ。夕飯もそうだね考えないといけないね……」
少しため息が出そうでしたがここはグッと我慢。お昼とその延長線でお肉は殆ど消費しきったのですが、お客さんに満足してもらう都合上多少の残りがやはりあるもので、今日の夕飯はコレを使うとしましょうか。
そう考えてみると、外に出る前にやらないといけない事が一つできたので、早速の作業。
馬刺し用の部分のお肉の残りを全て刺身にして、たまり醤油(なければ砂糖を加えた醤油(要は甘い醤油))に漬けておくだけ。
パッと見る感じは三人前ぐらいなのですが、二人で食べるには十分な量。
そして昨日はグラノーラなどを作って携行食作りは中途半端に終わっていたのでそれの続きをすることに。
作業を始めてしまえば、時間はすぐに過ぎていくので気が付けば夕食の時間。
「そろそろ夕食にしようか」
お昼の残りのご飯も結構あったので、ご飯をよそって海苔もぱらぱらとご飯にかけて、あとは漬けた馬肉を乗っけるだけ。シメっぽい形にもしたいのと二回楽しみたいのもあったので、出汁を冷やしたものも用意して飽きたら掛けて冷やし茶漬け。
味付けは漬けの味だけで十分ですが、生姜のすりおろしやわさびなどもあると尚ヨシ。
「雅、この漬け丼?お茶漬け?最高です。スルスルと入って気が付くと……、ほらもう空っぽ」
いや、それは食べたから空っぽってだけなんだけど。
いつも通りの作業が今日は無理でしたがちょっとだけマスターの様な貫録を示せた気がして嬉しさのある一日でした。
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