土瓶蒸し
「いやぁ、今日のお昼も最高だったよ」
「ですです。とろーっとしてご飯が凄い速さで無くなりました」
「お口に合ってよかったです。ふぅぅ」
お腹いっぱいでちょっと動けないのもあって、食休みをしながらの会話です。
「しっかりマスターに仕込まれているんだね?」
「まぁ、家は色々ある家庭でしたし。こういう事ぐらいは」
ほんの少しばかりの謙遜と懐かしさを感じながら言うと、
「じゃあ、コレをお願いしてもいいかな」
がーさんが何処からともなく取り出したのは、マツタケ。
「来る途中で良さそうなのを見つけてね。夜でいいから土瓶蒸しを頼んでも?」
「あー、出来ると思いますけど。これ、かなりいいモノでは?」
「所詮キノコさ。どこで採ったかを教えることは出来ないけど、美味しく食べる必要はあるだろう?最初は炊き込みをお願いしようと思っていたのだが、お昼にコレだけ美味しいものを食べてしまったから、香りをしっかりと楽しもうかと思ってね」
ザルに置いてあるマツタケは結構な本数で、少し離れた今の距離でもいい香りが。
土瓶蒸しとなれば、出汁をもう一度作る必要があります。そう言うのも考慮して夜でいいという事であれば、問題はありません。
「さっきと一緒で精霊を使って声を掛けてくれればすぐに来るようにするから、出来たら呼んでくれればいいよ。勿論本数があるから、私の分だけじゃなくて二人も食べていいからね?」
「土瓶蒸し?と言うのがどういうモノなのかは知りませんが、楽しみです」
精霊は喜んでいますが、アレは料理というか香りや季節を楽しむものであって、と色々と言いたいことはあるのですが、まあ言っても仕方ないので諦めます。
「分かりました。今夜作るのでまた後で呼びますね」
「うん。よろしく。いやあぁ、本当に美味しかった。夜も頼むね」
そう言って、がーさんは立ち上がるとさっさと帰ってしまいます。
「夜のリクエストはあったけど、少し時間があまったしどうするかな」
「明日はまたダンジョンに行く予定ですか?」
「あー、そうだね。行けたら行こうか」
「では、この前と一緒のお菓子を作りましょう?」
「そうだね。ストックもうないんだよね」
という事で、ゆっくりと立ち上がってストックのグラノーラ、コーンフレーク、そしてグラノーラバーを作ることに。
お昼を食べてからというタイミングで始めてはいますが、お昼も少し早いタイミングで食べ始めたのでいつもよりも早い時間。
そんな感じで昼下がりはダンジョン用や家のストックを作っていると時間は結構簡単に過ぎてしまいます。
途中で一つ思い出してやったのはずいきの下処理。
ずいきとは葉っぱの茎なのですが、今日の土瓶蒸しに是非入れたいので冷蔵庫を開けてみるとしっかり出てきてくれます。
ボウルに入る程度の長さに切って、皮を剥いたらお酢をある程度入れたお水に浸けておくだけ。これで結構灰汁が出るので、後で美味しく食べられます。
途中での作業はソレだけだったので、あとはいつものストックをつくったり、グラノーラバーを作ったり。
なので、厨房はかなり甘い香りが漂っているので、ちょくちょく味見をする手も止まりません。ソレは勿論作っている自分だけでなく、隣に居る精霊も。
「んー、美味しいですー。サクッとして出来立てのちょっと熱いのもたまりません」
「だから、それストック用だよ?」
「それは分かっているのですが、手が止まりません。まあ、手はないんですけどね」
「そう言う言葉遊びはいいから、食べ過ぎないでね?」
「と、言われましても私にも目的がありますからね。ある程度食べることによるレベル上げは必要なのです」
「レベル上げ?」
「ですです。雅は雅でダンジョンに行くことによって経験を積んでレベルが上がると思いますが、私は私でこうやって食べることによってレベルが上がりまして。ある目的があるので、今急いで上げている所なのです」
レベル上げがご飯を食べる事と言うちょっとびっくりな話もかなり驚く話ですが、目的がある時、人は何処までも頑張ることが出来るのはとてもよく知っているので、中々咎め辛くなります。
「気持ちは分かったけど、それでもあまりにも酷いのはやめてほしい所だけどね?」
「その辺りは昨日言ったようにギリギリを攻めますので」
「…………はぁ。分かったけど、ここまでって言ったら本当に止めてね?」
「……わかりました。がんばります」
即答できない辺りが精霊らしくはありますが、それでも頑張るというので信じるとしましょう。
そんな感じの昼下がりを過ごしていたのでお腹は凄く減るという事が無く、逆に今日の夕食が土瓶蒸しだけでも丁度いい感じの空気。
そこまで計算していたのではと一瞬だけ考えますが、まあ無いでしょう。
ダンジョン用や家のストックが出来あがったら少し休憩を挟んで、早速土瓶蒸しを作っていくのですが、先にずいきの下準備も済ませます。
酢水に浸けておいたものをお湯で二分前後茹でれば出来上がり。
酢水で灰汁が抜けてこれでおいしい土瓶蒸しの一品に。
具材を後はどうするか。
マツタケとずいきだけのシンプルなのも悪くはないと思うので、後は大事な出汁を作ります。
出汁の取り方はいつもと変わらず。
昆布を入れた水を弱火で沸騰させて、鰹節をたっぷりと入れて煮立たせたら一度濾して、今日は塩と薄口醤油で色と味を整えます。
マツタケの処理は最低限。根元に硬い部分があればそれを包丁で取り除いて、ボウルなどに水を張って手で優しく汚れを拭います。
後はマツタケを縦に切って、大きいものは他にそろえる程度の大きさに。
これで殆ど準備は完了。じゃ、ない。忘れてはいけない最後の一つの準備を。
コレだけで十分美味しい土瓶蒸しが出来るのですが、香りを楽しむ一品なので一緒に添える柑橘も大事な一品。冷蔵庫をあければ、かぼすがちゃんとあったので、半分に切ってから種を綺麗に取り除いて注ぎやすくなる様に口を作ってあげれば今度こそ準備完了。
「よし、精霊がーさんを呼んで」
「分かりました。まだ、出来ていないですけど大丈夫です?」
「うん。コレは本当の出来立てが一番いいからね。頼むよ」
すぐに精霊が連絡を取って、数分もしないうちにがーさんがお店に来ます。
「楽しみだねぇ。秋の一品」
「今から仕上げるので、少々お待ちください」
席に着いて貰ったら、後は仕上げ。
土瓶蒸し用の土瓶を用意して、まずは底にずいきを二つ入れてまつたけをたっぷり土瓶にいれたら、先に温めておいた出汁を九割り程度入れて火にかけます。
弱火で少しコトコトとマツタケに火を通せば、出来上がり。
沸騰させない程度の弱火でコトコトがちょっと難しいですが、沸騰させてしまうと折角の香りが飛びやすいので、ちょっとだけ見極めが大変ですが、そこは経験と勘で。
「よしっ、出来上がり」
火を消して、蓋をして、隣にカボスを添えて後は出すだけ。
「お待たせしました。土瓶蒸しです」
「おぉぉ。待っていました!」
「ぉぉ?コレが、土瓶蒸しですか」
反応はまるで正反対。ワクワクウキウキながーさんと、キョトンとした精霊。
「食べ方に決まりはないので、汁を味わって、マツタケを楽しんでいただければと思います」
と精霊にも伝えて、今日は一緒に自分もいただきます。
まずは味見もしてはいますが、出汁を猪口に入れて一啜り。
「んまいっ!」
「おおぉぉ。これは凄い」
「出汁!ですね」
マツタケのいい香りや旨味まで出汁に乗っているのか、とてもいい味。二口目はカボスをすこし絞って入れると、これまた爽やかないい味。三口目はそのままマツタケをパクリと。
「これは、ずいきか。……うん、染み込んで美味いねぇ」
「これがさっきの茎ですか?シャクシャクといい食感で出汁も染みていいですね」
がーさんも精霊も美味しそうに楽しんでくれて、嬉しい限り。
楽しい夕食がそのまま続きました。
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