コミカライズ開始記念SS「竜帝誕生の日」
コミカライズから来た方はネタバレしかないのでお気をつけくださいませ!
オディール・オルレシアンは困惑を湛えた瞳でじっと前を見据えた。
視線の先には夫であり、オルレシアン公爵家家長のアドルフと、娘、レティシアの姿がある。
いったいどうしてこんな事に。
(わたくしはただ、傭兵騎士なんて貴族の令嬢がすべきではないと言っただけですのに)
ため息を吐きつつ、アドルフの手からとある指輪がレティシアに渡されるのを見届ける。
あれはオルレシアン家の家宝、反転の魔導具。
使用者の性別を反転させることができる稀有な代物だ。
オディールの目から見てもレティシアの魔法の才は群を抜いており、一人の令嬢として一生を終わらせるのは勿体ないことくらい分かっている。分かっているのだが、素直に頷けないのもまた母親心なのである。
民のため、国のため、力を行使するという考えも立派だ。貴族として、上に立つ者として、素晴らしい素質を持っている。彼女が息子であったならば、オディールとて渋りはしても反対はしなかっただろう。
(『次期公爵の立場? ははは! そんなもの、譲れるのならレティシアに譲りたいですね』などとのたまうあの子に、爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいものです)
頭の片隅に、今は諸外国へ外交と勉学のため旅立っている長子、シルヴァンの姿が浮かんで消えた。本当に、どの子も自由に育ってしまって。
「そんな顔をするな、オディール」
「そんな顔をさせている者の一人はあなたです」
「そう言われたら反論できんのだが……まぁ、こうなってしまったものは仕方がない。後は結果を見守ろうじゃないか」
「わ、わかってはおりますが」
そうだ。彼の言う通り、ここまできたならば結果を見守るしかないだろう。
レティシアの手が反転の魔導具に触れる。
すると目も眩むような光の柱が立ち昇った。
「反転の魔導具……私も使用されるのを見るは初めてだ」
「ええ。レティシアのことですから、きっと愛らしい美少年に――」
光が収束する。
しかし突如目の前に現れた長身の美青年に、オディールはアドルフの腕を全力でわし掴んだ。
「あなたァ!!!」
「さすがにこれは想定外!!!」
銀髪、碧眼。男女関係なく誰もが見惚れる美貌。特徴だけ羅列すれば確かにレティシアだ。しかし、しかしである。人形のような可憐な少女が、どうして女性の心を片っ端から鷲掴みにしていきそうな精悍な顔立ちの美青年になるのか。服もドレスから燕尾服へと変わっており、服の上からでも鍛え抜かれた肉体美が透けて見えるようだった。
レティシアは鍛えていても身体的には現れないタイプであったが、男性化するときっちり筋肉に反映されるらしい。
彼はふぅ、と息を吐いて髪を掻き上げた。
「ふむ、服装もちゃんと男性ものになるとは。これは便利だな。誰も私だと気付かぬだろう」
「我が娘ながら冷静すぎる」
「ほ、他に何か感想はないのですか……?」
「他に? そうだな……」
確かめるように自身の身体に触れるレティシア。
戸惑った様子は一切なく、まるで機械のメンテナンスをするかのような淡々とした触れ方である。嫌な予感しかしない。
「レティ、シア……?」
「うむ。背が高くなったのでリーチが伸びた。筋肉量もこちらの方が多いな。身体強化に回す魔力が少なくて済む。さらに、動きやすい服装に一瞬で着替える事が出来る。総じて、こちらの方が戦いに向いている。とても良いよ」
にこりと、女性を蕩けさせそうな微笑みを向けてくる。
その瞬間、オルレシアン家屋敷ではオディールの「この 脳 筋 さんがッッ!!!」という叫びが響き渡った。
お久しぶりのSS更新となりました。
理由は、タイトル通り。コミカライズが開始されたからです!
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