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3、ジルベールのお願い



「フォコン、良かったらその素晴らしさを語ろうか?」


「いや、いいですいいです! そういうのは間に合っています! 俺自分の世界観大事にしたいタイプなので!」



 両手を前に出して壁を作る。このままジルベールの勢いに飲まれてしまってはまずいとの判断だろうが、一介の密偵が皇子に対する反応としてあまりに気安い。


 元々孤児の出で、オルレシアン家では持ち前の明るさから父アドルフに散々甘やかされてきたフォコン。

 密偵という立場から表舞台に躍り出ることもなく、影の者として技術にばかり磨きをかけてきたせいで少々――というかかなり行儀作法には疎いのだ。


 しかしそれが逆に嘘と欺瞞が蔓延る貴族社会に慣れ切っていたジルベールには新鮮に映ったようで「フォコンって嘘が下手すぎて可愛いよね」と逆に好感を呼んだらしい。

 今ではまるで友人同士のような付き合いに落ち着いている。


 絶対に皇子はフォコンを気に入る、と言い切ったアドルフはさすが現オルレシアン家の家長と言えるだろう。

 楽しそうにじゃれあっている二人を見て、レティシアはそっと笑みを零した。



「ってか、そんなことよりご報告が!」


「例の件か。動きがあったんだな?」


「はい。三日間、絶対にお邪魔するつもりはなかったのですが、どうも急いだ方がよさそうだったので仕方なく。ほんっとに仕方なく!」


「そうだな。キミじゃなかったら即追い返していたところだよ。……それどころじゃすまなかったかもだが」


「や、やだなぁ、目がマジですよ。怖い怖い。それじゃあいでよ、俺の伝書雀ちゃん!」



 フォコンが腕を伸ばす。

 すると手の平の真ん中がピカリと光って小さな雀が姿を現した。雀は「チュ」と小さく鳴いた後ジルベールの肩まで飛んで行き、バサリと片翼を広げて彼の耳にくちばしを近づける。ジルベールも首を少し傾けて話を聞く体勢を取った。

 まるで雀と会話しているような光景だ。

 傍から見れば「チュ、チュ、チュン!」と囁く雀と「うん、うん、なるほど」と頷くジルベールの姿にしか見えない。



「相変わらずお前の魔法は素晴らしいな。なんと愛らしい」


「へへへ、お褒めに預かり恐悦至極! でも内容はあんまり可愛くないと思いますよ。俺頭良くないですし、噛み砕いてまとめちゃうと重要な部分が抜け落ちちゃう可能性があるからぜーんぶまとめて録音してきたんで」


「つまりあの愛らしい雀の声は」


「おっさん同士の会話ですね」



 なんてことだ。一気に可愛らしさの欠片もなくなってしまった。

 あの雀はフォコンの魔力によって造られた魔法生物の一種。レティシアの氷竜と同じような存在だ。ただ氷竜と違って戦闘能力は持ち合わせておらず、記録媒体としての能力に特化している。


 レティシアも記録を魔力に変換して氷竜に書き込む方法で伝達は出来るのだが、フォコンの雀はただ見聞きしただけで会話が丸ごと記録できる優れものだ。

 しかも耳を寄せている本人以外はすべて「チュン」に聞こえるため、人目を気にせず情報を受け取れる。さすがはアドルフが重宝していた密偵と言えよう。



「ほんとは映像も記録したかったんですけど、壁から雀が生えていたらさすがに怪しまれますからねぇ」


「ははは! それはまた愛らしいハンティング・トロフィーだな! だがまぁ、安心するといい。声のトーンや震え、喉の強張り方などである程度腹の内は分かる。私ですらそうなのだ。舌に乗せた言葉が本心であるかどうか程度、ジルベール様ならば容易く見抜くことが出来るさ」


「わぁ、さすが姫様の旦那様。人間やめてるぅ――っと!」



 雀が飛んできてフォコンの肩に乗った。どうやら再生が終わったらしい。彼、もしくは彼女はやりきったとばかりに胸を張り光の流砂になって空気へとけて消えた。実に良い子だ。

 一方のジルベールの方はというと、ベッドの縁に腰掛けたまま考え込むように顎に手を当てていた。



「レティ、いろいろ考えたんだけど、この三日間のんびりしているわけにはいかなさそうなんだ。最低でも一日……いや二日は潰れる。はぁ、最悪だよ。ずっとキミの傍にいられると思っていたのにどうしてこのタイミングなんだ」


「私のことは気にしなくて良い。だが、ジルベール様の方はどうなんだ? ご無理をされては困るぞ。無理やりにベッドへ縛り付けておきたくなる」



 頬に手を当て、親指の腹で労わるように撫でる。



「俺は大丈夫だよ。……俺のせいで色々迷惑をかけたからね、しっかりけじめはつけないと」


「けじめ? 何の話だ?」


「ふふ、ちょっとね。……はぁ、キミが傍にいてくれたらいくらでも頑張れるんだが、レティをあんな場所へ連れて行くわけにも――……いや、待てよ。そうか。傍にいて貰えばいいのか」



 ジルベールはレティシアの手を掴んで甘えるように鼻先を擦り付けると、彼女の指に光るオルレシアン家の家宝に優しく口付けた。

 そして――。



「ねぇ、レティ。俺、竜帝様とデートがしたいんだが、駄目かい?」



 そう言って妖しく微笑んだ。



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レティシアのスパダリ度、ジルベールの重たい男度
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よろしくお願いいたします!(,,>᎑<,,)
ベルプペ書影
詳しくは活動報告などをご確認いただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
[一言] 追伸です! 改めて読み返しましたが、ますます期待大です^ ^ よろしくお願いします!!!
[一言] 尊い~~~~!!!!
[一言] 面白すぎます!! 頼れるお姫様?奥様? なんて素敵!!^ ^ これからもどうぞ旦那様を可愛がってあげてください(^。^)
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